ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2008.08.11]

ABTの『海賊』と『白鳥の湖』

 ABTの『海賊』は、キーロフ・バレエでロシア・バレエを学んで踊り、後にボストン・バレエの芸術監督も務めたアンナ=マリー・ホームズが演出したヴァージョン。プティパの原振付をコンスタンチン・セルゲイエフが改訂したものに演出として手を加えている。
奴隷として売られる美しいギリシャ娘メドーラ(マーフィー)を愛した海賊の首領コンラッド(サヴェリエフ)とその奴隷アリ(コルネホ)、コンラッドの友 人ビルバント(ミハイル・イリイン)の大活劇描いたバレエ。コンラッドの愛と義侠心、アリの忠誠とビルバントの裏切り、トルコの後宮をめぐって美しい女奴 隷の売買などのエキゾティックな情景が次々と描かれる。
愛を得た喜びを踊る、コンラッド、アリ、メドーラのパ・ド・トロワが圧巻だった。三者三様の踊りを見せたが、マーフィーの3回転を入れたグラン・フェッ テには客席から驚嘆の声が上がった。また、コルネホ独特の軽やかなラインが、このシーンを細やかなタッチの描線で浮かび上がらせ、一際、印象的だっ た。(2008年7月21日)

 マッケンジー版の『白鳥の湖』は、ジュリー・ケントのオデット/オディールと、マルセル・ゴメスのジークフリード王子で観た。
マッケンジー振付のヴァージョンは、悪魔ロットバルトの二面性----正義に対する邪悪なるものと、悪の魔力(魅力)に焦点を当てている。ガラの第2幕 のアダージオ上演の時に印象に残った、ジークフリードの衣裳のダークグリーンは、悪の魔力を表すものだったのだ、とここで気づいた。
プロローグでオデットを魅了し魔法をかけて白鳥に変えるシーンでは、コール・ドのアイザック・スタッパスとプリンシパルのホールバーグがロットバルトを 演じて、このヴァージョンの特徴を際立たせる。第3幕でロットバルトは、悪の魔力を存分に表すソロを踊り、ジークフリードにオディールへの愛を誓わせるた めに大活躍する。ここがロットバルト=ホールバーグの見せ場。
マッケンジーは悪の本質に鋭く切り込み、フォン・ロットバルトの存在を明確にしている。しかし、そのためにオデットとジークフリードの愛の悲劇の濃度が 若干薄まってしまったのではないか、という気がしないではない。こうした演出のバランスをとることはたいへん難しいと思われる。
ケントはもちろんおやかだったが、役柄から言って『マノン』の時に見せた女性らしい気持ちの吐露を表すシーンには恵まれなかった。ゴメスのジークフリードは堂々としていて揺るぎない安定した舞台だった。
今回のABT公演は、華やかなスターたちが若手を中心に予想以上に熱演し、素晴らしい舞台を創った。観客も大きな喝采で応えたいへん盛り上がった素晴らしい公演だった。次回公演にも期待したい。
(2008年7月23日、会場はすべて東京文化会館)