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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2008.08.11]

英国ロイヤル・バレエ団『シルヴィア』『眠れる森の美女』


 1月に来演した英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団に続き、今度は英国ロイヤル・バレエ団が来日した。話題の演目は『シルヴィア』と『眠れる森の美女』。ともに近年復元された作品で、伝統の“ロイヤル・スタイル”をよく伝えるものとされている。

『シ ルヴィア』は、1876年、ルイ・メラントが、ドリーブの音楽を用い、ギリシャ神話を題材に創作した全3幕の作品。アシュトンがこれをロイヤル・バレエの ために振付けたのは1952年のこと。その後、40年ほど埋もれていたが、2004年、アシュトン生誕百年記念に復活上演された。狩りと純潔の女神ディア ナに仕えるニンフのシルヴィアが、愛の神エロスの力により、彼女を慕う羊飼いのアミンタと恋に落ちて結ばれるまでを描いたものだが、これに、彼女を我が物 にと企む狩人オリオンや二人の愛を認めないディアナがからむ。勇壮な踊りや優美な舞いなど、多彩な踊りが展開されたが、アシュトンの振りは端正で古典的な 美しさを保っていた。加えて、ドリーブの音楽が実に魅力的に響いた。

見どころは、シルヴィア役のダンサーが場面ごとに異なる振りをどう踊り分けるかだろう。主役のマリアネラ・ヌニェスは、エロスの神殿の前での凛とした態度 や弓を持っての勇ましいジャンプと、愛の矢を受けた後でのしおらしい演技を見事に対比させた。洞窟の場では、オリオンを酒で酔わせようと、悩ましげに背を そらせてターンして焦らす。バッカスを讃える祭りでは、ポアントで軽やかに繊細に跳び続け、アミンタと息のあったパ・ド・ドゥも披露した。アミンタ役のデ ヴィッド・マッカテリは、すらりと伸びた身体が美しく、羊飼いながら品の良さを感じさせもした。終幕のパ・ド・ドゥではシャープなピルエットや跳躍で盛り 上げた。オリオン役のティアゴ・ソアレスは、たくましい筋肉の持ち主。粘りのある、力強い踊りでドラマを押し進めた。エロス役で、彫像かと思わせるほど長 く不動の姿勢を保ったのはマーティン・ハーヴェイ。たくましい身体は存在感があった。蔵健太とヨハネス・ステパネクによる奴隷の踊りも傑作だった。
(7月3日、東京文化会館)

今 回の『眠れる森の美女』は、第二次世界大戦後間もない1946年に、バレエ団がロイヤル・オペラハウスを本拠地に新たなスタートを切った記念すべきプロダ クションの復元版。ニネット・ド・ヴァロワがセルゲイエフ版を元に振付けたものを、2006年、バレエ団創立75周年に当たり、芸術監督モニカ・メイスン らが手を加えて復活させたものだ。
“古き良き伝統”に立ち戻ったからか、すべてに調和を重視したような舞台で、壮麗な装置やエレガントな衣装の効果も相まって、ファンタジー豊かな絵巻物のように展開された。

キャストに変更があり、この日のオーロラ姫は若手のローレン・カスバートソン。柔らかな身体、安定したテクニックの持ち主で、上品な雰囲気はあるものの、 オーロラの初々しさに欠けていたのが惜しい。演技の面では、今後に期待したい。フロリムント王子はイヴァン・プトロフ。森で一人踊る姿に情感をにじませ、 オーロラの幻影に惹かれる様の表現も素直。スケールの大きなジャンプでも印象づけた。リラの精はローラ・マカロッチ。見栄えのするスタイルは強みで、すべ てを包みこむような柔らかな表現をみせた。

この日は、日本人がいろいろな役に起用されていた。小林ひかるは、プロローグで魔法の庭の精をいかにも快活に踊った後、第2幕ではフロリナ王女として現 れ、メリハリを利かせたソロをみせた。彼女と組んで青い鳥を踊ったのは蔵健太。バネを利かせた力強いジャンプは見応えがあった。リラの精のお付きの騎士を 務めたのは平野亮一。踊りの見せ場はなかったが、すらりと背が高く、仕草もきれいだった。佐々木陽平はインドの王子として登場していた。こうしてみると、 メンバーの国際化がますます進んでいることを、改めて感じもした。
(7月12日昼・東京文化会館)