ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2008.04.10]
 毎年、巡ってくる桜花爛漫の季節。こんなに絢爛豪華な花がいっ せいに、こぼれんばかりに咲き溢れる国は、日本だけではないだろうか。花がたくさん咲き乱れている国、花を愛でる民族は多い。しかし、1年の内ほとんど 10日くらいの満開の季節が、ひとつの国を縦断していく。私たちは、それを桜前線と呼んで推移をこころに描き、季節のうつろいを身体に染み込ませてい く・・・。

熊川哲也の新作バレエ、『ベートーヴェン 第九』

第1楽章
  熊川哲也の新作バレエ『ベートーヴェン 第九』が、赤坂ACTシアターのプレミアム・オープニングとして世界初演された。
ルードヴィッヒ・ヴァン・ベートーヴェンの『交響曲第9番』は、1824年に初演された。以来、<未来の音楽を告げる人類の福音>(ワーグナー)とか <宇宙のカンタータ>などと賞賛されてきた。今日でもこの楽曲だけをテーマとした大部の著書が何冊も刊行されて、その永遠の魅力が語られている。

熊川は、この音楽を使って新しい劇場のオープニングを飾る祝祭的バレエを、演出・振付けた。
オーケストラのメンバーそれぞれにも衣裳を着けて舞台上の奥の中段に載せ、 その台をいくつかのアーチ型の足が支える。
4つの楽章は、「大地の叫び」「海からの創世」「生命の誕生」「母なる星」と名付けられ、それぞれを象徴するオブジェがダンサーと交歓する。ソプラノ、 メゾソプラノ、テノール、バスを担当する歌手と合唱隊も衣裳を着けて舞台上で歌うので、ダンサーを加えた総計150名が舞台を行き交う、ダンスと音楽と美 術が一体となった舞台である。
舞台美術・衣裳はヨランダ・ソナベント。指揮は井田勝大、演奏はシアターオーケストラトーキョー。そして特筆すべきは、ダンサー、熊川哲也が舞台に復帰したこと。
舞台は巨大な球体の内部を表していて、背後のアーチ型がいくつか繰り返される形が、全体のリズムを刻む。

第1楽章「大地の叫び」では、閃光が放たれ燃え盛るマグマの真っ赤な塊が現れ、清水健太を中心とした男性ダンサーたちがエネルギッシュに踊る。熱いカオスの脈動が伝えられる。
第2楽章「海からの創世」は、淡い水色の水面をデフォルメしたオブジェを巡って、水の豊穣と優しさが、泉が湧きだすような女性ダンサーたちの動きによって踊られる。
第3楽章「生命の誕生」は、花をあしらったオブジェと草木を描いたレオタードを着けたカップルのダンス。お互いを愛おしみ、愛と生命のドラマが描かれる。
第4楽章は「母なる星」。荒井祐子・清水健太、東野泰子・輪島拓也の二組の人類を代表するカップルと、太陽と月を表す衣裳を着けた宮尾俊太郎と遅沢佑介がコール・ドとともに様々のフォーメイションを繰り広げる。
ついには、黒いタイツ姿の熊川がスターのオーラを放って、10ヶ月ぶりに舞台に立った。そして、人類の永遠の歓喜を希求する神のごとき存在を踊る。やがてクライマックスを迎えると、未来のひとりの赤子が生まれおちて歩み始める。
背景は、金色に輝く未来永劫、変転する存在の核を表す同心円型のオブジェだった。
休憩なしの65分間、あっという間の祝祭だった。じつに流れの良い美しいダイナミックなパフォーマンスに魅了された観客が、盛大なスタンディングオベーションで応えた。
(3月14日、19日、赤坂ACTシアター)

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