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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2008.04.10]

H・アール・カオスの『中国の不思議な役人』『ボレロ』

『中国の不思議な役人』
  H・アール・カオスが、大友直人、東京フィルとともに<東京文化会館コラボレーションコンサート>を行い、新作『中国の不思議な役人』と05年以来の再演となる『ボレロ』を上演した。

まずは、舞踊とオーケストラのコラボレーションによる『中国の不思議な役人』。この作品は、ベーラ・バルトークが同じハンガリー人のメニュヘールト・レ ンジェルの書いたパントマイムの台本に作曲したものだが、衝撃的に暴力と官能を描いたため、激しい批判を浴び、当初は初演、再演ともに一回公演のみしか上 演されなかったというもの。
物語は、3人のならず者が少女に男を誘惑させて金を奪おうとする。少女の誘惑のダンスに、放浪者や若者がおびき寄せられるが金がなく追い払われる。第3 の誘惑ダンスに魅せられた中国の役人は、少女に欲望を燃やし不気味な様子で迫る。そしてならず者たちに金を奪われ窒息させられても、さびたナイフで3度刺 されても、吊るされても息絶えず、ついには怪しい緑色を発光する。そして、少女に襲いかかって欲望を満たすと、断末魔を放って息絶える、という奇妙ないさ さか気味の悪い、人間の欲望の不条理な側面を強調して描いたもの。
演出・振付の大島早紀子は、舞台空間を揺るがす宙づりのダンス、少女とならず者と客たちの繰り返される運動、天からか迫る死の輪、妖しく光るグリーンの 幻想など、大胆にして鮮烈なスケールの大きい大島美学を表すイメージを動員して、人間の欲望という奇妙な存在を象徴的に露にした。「中国」という言葉、発 光するグリーンという色彩、バルトークのダイナミックな音楽が渾然となり、あたかも大島のために作曲されたのではないか、と思われるほどオーケストラとダ ンスと美術が一体化した舞台だった。

つぎに、金管アンサンブルによる、武満徹作曲の『シグナルズ・フロム・ヘヴン』が、会場のフロアもフルに使って演奏された。

最後が、舞踊とオーケストラのコラボレーションによる『ボレロ』。
大島は、モーリス・ラヴェルのこの有名な曲を、舞台空間全体を真っ赤に染め、円と半円形の装置を置き、周縁に4名の黒い衣裳の女性ダンサーを配し、中央の円の中心に上半身裸に真紅のパンツを着けた白河直子を踊らせた。
そして『ボレロ』が流れると、観客は、この曲がじつに見事にヴィジュアルに変換されていることに気付かされる。
真紅の円の中心で白河がエロティックに踊り、コール・ドは紅の花弁を撒き散らし、音楽が高まるに連れて舞台全体の真紅が濃密にさらにいっそう濃密になって、森羅万象が死んだかのような静寂が訪れて幕が下りる。
「いつ終わるとも知れないこのリズムは、ただただ<生きる>しかない私達の <生>を思わせる」と大島はラヴェルの『ボレロ』を語っている。大島早紀子の『ボレロ』は、太陽の光りによって生きる人間の<生と死>を宇宙の視点から描いたダンスと感じた。
(2月29日、東京文化会館)

『中国の不思議な役人』『中国の不思議な役人』
『ボレロ』『ボレロ』