ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2008.03.10]

映像でフォーサイスも登場、ヤン・ファーブル『死の天使』の異色の舞台

世界的な現代美術家、アンディ・ウォホールが「全男性抹殺団」というグループの女性に狙撃され、危うく一命をとりとめた事件を素材にしたダンス、という だけでも充分に異色だが、ウォホール役でウィリアム・フォーサイスが映像出演するという話題も加えられた作品。『主役の男が女である時』や『わたしは血』 で、過激な舞台を展開したベルギーの尖鋭なコンテンポラリー・アーティスト、ヤン・ファーブルがテキストを書き、構成・演出した、超異色のダンス・インス タレーション・パフォーマンス『死の天使』を観た。
入場すると整理券を渡され、コートや鞄などの荷物をクロークに預けるように要請される。ロビーに整理番号順に並んでしばし待つと導かれて場内に入るが、 客席は素通り。列をなして舞台上に上がると、中央に四角い台座があり、女性ダンサーが半裸で奇妙な格好をしてうずくまっている。手を伸ばせば届く位置の舞 台上の舞台を車座になって何重にも取り巻いて座り、パフォーマンスに臨む。
閉鎖された舞台空間の4面には、姿見のように細長い巨大スクリーンが設えられ、どこか古い博物館の一隅のような、標本が並べられたGケースが置かれた薄暗い空間が漫然と映っている。
ひと呼吸あって、女性ダンサー、イヴァンナ・ヨゼクが呻き声をあげ始める。マイクを通して強調された呼吸音や唾液をすする音が、エイリアンの声かあるいは巨大昆虫が何かを咀嚼しているかのような・・・通常の人間から発せられない生命の軋み音から舞台は始まった。
ヨゼクは奇妙な音声を発しながら、<昆虫振り>とでも形容したい極端に関節を強調して、可能なほとんどの関節を90度以上に折り、人間的なものを排除し た動きをみせながら立ち上がる。昆虫や爬虫類を思わせる表現に徹しているが、見事なプロポーションの美しいダンサーだった。
当初は映像の奥にチラチラしていたフォーサイスが、白いパンツを纏っただけで歩み寄ってくる。気持ちお腹がふくらみ気味。
「私は死から戻って来た」という。生死の境を彷徨っていたウォホールの霊、<死の天使>である。そして4面のスクリーンのあちらこちらの面から、ランダムに登場して象徴的なセリフを吐き、ゆっくりとした動きのダンスを見せる。
ヨゼクは、死の天使のセリフに反応したり無視したりしながら、パフォーマンスを続ける。映像は、フォーサイスとは別に、乱雑に並べられた頭骸骨や双子の赤ん坊のアルコール漬けなどの標本、陳列されたミイラなどを映す。
死の天使=ウォホールのスピリチュアルな男性の姿をしたフォーサイスと、ウォホールの身体の中のヨゼク演じる女性の姿をした原生命体との言語を超越した対話、とでも言ったいいのだろうか。
グロテスクな美に彩られた、じつにエキサイティングな異色パフォーマンスだった。
(2月9日、彩の国さいたま芸術劇場 大ホール)