ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2007.08.10]
今年、日本列島を襲う台風はなぜかみんな大型ですね。テレビ画面に映る天気図を見ても、"目"がぱっちりと開いています。沖縄や九州にお住まいの方々はた いへんです。南方憧憬には共感しますが、台風の現実を見ると怖くなります。ただ、あの暴風雨があるから、台風一過の青空の絶景もあるのでしょうけど。

"ニーナ"のグルジア国立バレエ団『ドン・キホーテ』

今月は『ドン・キホーテ』を5回観た。
まずは、ニーナ・アナニアシヴィリが芸術監督を務めるグルジア国立バレエ団の『ドン・キホーテ』。
アナニアシヴィリはグルジアの首都トビリシ出身である。ほかにバレエ界では巨匠バランシンやマリインスキー・バレエ(当時はキーロフ)団の著名な男性ダ ンサーだったワフタング・チャブキアー二などがグルジアの出身として知られている。現在活躍中のダンサーでは、マリインスキー・バレエ団のイルマ・ニオ ラーゼとイーゴリ・ゼレンスキー、ボリショイ・バレエ団のニコライ・ツィスカリーゼが、チャブキアーニの名前を冠したトビリシのバレエ学校出身である。
チャブキアーニはグルジアの人々にたいへん愛されている。ニオラーゼやゼレンスキーは帰郷するたびに、チャブキアーニの墓碑に花を手向けているという。 チャブキアーニは、1941年から30年以上もトビリシの歌劇場の芸術監督を務め、『ドン・キホーテ』を何回も改訂して上演しており、彼のヴァージョンは 05年まで、ここの重要なレパートリーだった。
アナニアシヴィリは、04年にグルジア国立バレエ団の芸術監督に就任した。そして今年4月19日にここの舞台でオデット/オディールを踊り、出産休暇後の舞台復帰を果たしたのである。
アナニアシヴィリは、グルジア国立バレエ団にさまざまの改革を施している。この人気演目『ドン・キホーテ』もボリショイ・バレエ団時代にパートナーを組 んでいた、アレクセイ・ファジェーチェフと彼女自身も加わって演出・改訂を行っている。同時に、チャブキアーニの名前もクレジットされていることから、グ ルジア国立バレエ団で上演されてきたヴァージョンの伝統も継承しているものと思われる。
グルジア版『ドン・キホーテ』は、冒頭に騎士ドン・キホーテとサンチョ・パンサのうらぶれた旅の姿を、ユーモラスにアニメーションで緞帳に映してみせる。コミカルな舞台の幕開けとして、なかなか洒落ているし気が利いている。
まずはゲスト出演のアンヘル・コレーラがバジル、グルジア国立バレエ団のプリンシパルでヴァルナ国際バレエコンクールのゴールドメダリストのラリ・カン デラキがキトリを踊った。ABTのレティシア・ジュリアーニが来日できなくなり、代りに踊ったのだが、カンデラキの踊りが鮮やかだった。溌剌としてステッ プも軽やか、スペインの太陽とともに暮らすことのすばらしさを讃えたくなる舞台だった。
もちろん、アンヘルのシャープな身のこなしと鋭いピルエット、愛らしい笑顔も観客を胸を時めかせたが、カンデラキの踊りがグルジア国立バレエの名を高めた。
(7月26日、東京文化会館)

注目のアナニアシヴィリの踊りは圧巻だった。
バジルはボリショイ・バレエ団のプリンシパル、アンドレイ・ウヴァーロフだったが、水を得た魚というのだろうか、"ニーナ"には登場しただけで舞台の太 陽になってしまう天与の存在感が備わっている。太陽の輝くエネルギーを受けて、ウヴァーロフのステップも一段と冴え、ダイナミックなダンスの空間が浮かび 上がり、会場は沸きに沸いた。さらにカーテンコールでは、愛娘のエレーナちゃんも登場して会場の盛り上がりは頂点に。"ニーナ"の踊りに母の愛が加わっ て、なにも恐れるものはなくなったのである。
街の踊り子ルチア、エスパーダ、メルセデスも素敵なダンスを見せた。優れたダンサーを輩出している国のバレエ団らしく、観客をこころゆくまで堪能させた『ドン・キホーテ』だった。
(7月27日、東京文化会館)