ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2007.08.10]

オーストラリア・バレエ団『白鳥の湖』『眠れる森の美女』

何とも衝撃的な『白鳥の湖』とオリエンタルな美術で迫る『眠れる森の美女』を携えて、オーストラリア・バレエ団が11年振りに来演した。「伝統を重ん じ、冒険を恐れず」という芸術監督デヴィッド・マッカリスターのポリシーを端的に伝える演目だった。
『白鳥の湖』は、オデットをダイアナ元妃、ジークフリート王子をチャールズ皇太子、ロットバルト男爵夫人をカミラ夫人にダブらせるという大胆な発想で話題 をまいた。何しろ、プロローグを結婚式前夜に設定し、オデットが王子への不信感に悩み、王子が男爵夫人に誘われてベッドに倒れ込むシーンを挿入したのだか ら。2002年、団の創立40周年記念する作品として、グレアム・マーフィーが振付けたものである。

更に注目すべきは、チャイコフスキーの音楽を1877年の初演時に戻したことで、削られた曲は生かされ、後で追加された「マズルカ」やナポリやスペインの 踊りは省かれた。曲順も原曲通りに並べたそうで、"黒鳥のパ・ド・ドゥ"の曲は第1幕でオデットが懐疑心に苛まされていく場面に使われ、「チャルダッ シュ」は婚礼の祝賀会で披露する形で踊られ、「ロシアの踊り」は男爵夫人が開いた舞踏会で、夫人が王子を惹きつけようとするソロに用いられた。それにして も、音楽とドラマと踊りは、驚くほど上手く溶け合っていた。

物語の続きだが、婚礼祝賀会で男爵夫人を慕 う王子に傷つき我を失ったオデットは、王室の命令でサナトリウムに送られるが、夢の世界で白鳥たちに慰められ、王子と愛し合う。オデットは男爵夫人の舞踏 会に侵入して王子の心をつかみ、湖畔で愛を確かめるが、自ら湖底に沈み、彼女を悼む王子の姿で幕が下りた。祝賀会でエリザベス女王に似た女王を登場させて 王室とダイアナの冷たい関係を暗示し、男たちに次々にリフトされるオデットの姿にダイアナの人気や華やかな交際を匂わすなど、描写は細かい。サナトリウム の白い装置は純真な心を、舞踏会を覆う黒は妬みや悪意を象徴するようで、興味は尽きない。
カースティン・マーティンは振幅の激しいオデットの感情を全身で伝えていたが、サナトリウムで裸足で踊る姿が痛ましかった。王子役のダミアン・ウェルチ は、しなやかな身のこなしで、外向きの顔と情熱的な心を巧みに演じ分ける。幕ごとに趣の異なる二人のパ・ド・ドゥも味わいがあった。ロットバルト男爵夫人 のオリヴィア・ベルは構えた動作で威厳を漂わせていたが、舞踏会でのソロは情念の表出が今一つだったようだ。それにしても、古典名作を現代に引き寄せ、現 代人の共感を誘う愛の葛藤を描いたマーフィーの手腕に感心させられた。
(7月14日夜、東京文化会館)

『眠れる森の美女』は、2005年にスタントン・ウェルチがプティパ版に基づいて振付けたもの。特色は、カラボスを冬の魔女で悪の象徴、リラの精を春の女 王で善の象徴としただけでなく、二人を姉妹にして両者の対比と闘いを強調した点だろう。オーロラの誕生を祝う妖精たちを水や火など自然界の"4大元素" に、求婚する王子を東西南北の方位になぞらえてもいる。女王の出産を王がカーテンの外で見守るシーンを挿入したのは良いとして、原作にはないフロリムント 王子の弟、フロレスタン王子を加えたのには疑問が残る。

面白かったのは、16歳の誕生日を迎えたオーロラが、カラボスが持つ黒薔薇に興味を覚え、花束を奪い取って踊り始めるが、棘で指を刺されると、カラボスに 平手打ちを食わせるところだ。何とも勝気な王女様である。オーロラ役のルシンダ・ダンが、はじけんばかりの若さを強調するように現れ、ローズ・アダージオ をどこか強気に踊ったのも理解できた。ただ、その後の展開は従来通りで、幻影のオーロラはフロリムント王子としとやかに舞い、婚礼の場では自己をわきまえ た女性として、王子と息を合わせて踊っていた。
フロリムント王子のマシュー・ローレンスも弟のフロレスタン王子のケヴィン・ジャクソンも、リズムとスピードに乗ったジャンプや回転を披露。リラの精のダ ニエル・ロウが、全体を包み込むように演じれば、カラボス役のオリヴィア・ベルはシャープな演技で応じた。地の精役の久保田美和子も手堅く踊っていた。

クリスティアン・フレンドリクソンによる衣装と装置も凝っていた。宮殿は東洋的なイメージを 演出したそうで、カラボスが支配する冬の森林の世界と、オーロラが目覚めて迎える色彩豊かな春の世界への転換が鮮やかだった。頭飾りや首飾りをつけた妖精 たちは総タイツに半透明のスカートという姿で、求婚する王子やお付きの人たちの衣装にも意匠が凝らされており、美術の占める比重は大きかったようだ。
(7月16日、東京文化会館)