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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2006.08.10]

井上バレエ団と東京シティ・バレエ団の『白鳥の湖』

井上バレエ団の『白鳥の湖』は、芸術監督の関直人の舞踊生活60年を祝う公演である。ちなみに関は、『白鳥の湖』を観てバレエをの道に入り、この作品の王子役でデビューを果たした、という。
関直人振付、ピーター・ファーマー衣裳・美術の『白鳥の湖』は、道化は登場せず、家庭教師役もこれといった活躍の場はない。どちらかといえばシンプルな 演出で、あざとい表現を避けて王子のメンタルな成長を追っていく。ヴィジュアルが美しく計算されており、コール・ド・バレエも完璧に調えられている、とい うわけではないが、情感をよく伝える雰囲気のある動きとフォーメーションで、作品にふさわしい演出・振付であった。
島田衣子のオデットは、美しいラインを描いて見事だが、囚われた白鳥の悲しみの表情を身体全体でもう少しだけ強調してほしい、と贅沢な感想。オディールは動きと表情が一致して鮮やか。しかし、全体に非常に細やかに配慮の行き届いた優れた舞台であった。
王子はカナダ国立バレエ団のプリンシパル、アレクサンダー・アントニエヴィッチがゲスト出演して王子を踊った。大柄ではなく、むしろ控え目な感じだった が、はっきりと破綻のない踊りで、等身大の王子の苦悩を鮮やかにみせた。パ・ド・トロワの江本拓の端正な踊りも印象に残った。(7月23日、文京シビック ホール)

 東京シティ・バレエ団の石田種生によるの『白鳥の湖』は、効果的な上手い演出が際立った舞台だった。
第1幕は、友人たちが集まって王子の成人を祝う気の置けない集い。第3幕は、王子が花嫁を選ぶための正式な舞踏会である。その3幕の冒頭、白鳥に姿を変 えられているオデットへの愛に目覚めた王子が、花嫁を選ぶための舞踏会に入場するシーン。石田版では、映画のクローズアップのように、苦悩する王子の表情 を強調した。この明解な表現は、『白鳥の湖』のドラマがはっきりと理解できる優れた演出である。
また、第4幕では、王子はオデットに、心ならずもオディールに愛を誓ってしまった過ちを悔いて詫び、許しを乞う。二人は、愛を確認し合うと、しっかりと 抱き合った<愛の彫像>となって、強い光を浴び、舞台に浮かび上がる。そして王子はロットバルトの魔法を、愛の力をもって力強く破る。暗転すると、オデッ トとともに白鳥の姿で囚われていた娘たちはすべて、純白のチュチュから私服に着替えていて、人間の姿に立ち返ったのである。印象深い演出だった。
 志賀育恵は若々しく魅力溢れるオデットだったが、白鳥に変えられ囚われているという運命が、動きの中に鮮烈に表れるとさらに見事な舞台になる。黄凱の王子は、王子の心理をうまくスケッチしてみせていた。
(7月15日、ティアラこうとう大ホール)


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