ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2006.08.10]

ヤン・ファーブル『主役の男が女である時』日本初演

 ベルギーの異才、ヤン・ファーブルが演出・振付・舞台美術を手掛けた『主役の男が女である時』(2004年)が日本初演された。ダンス以外でも、美術家や演出家、脚本家として多彩な活動で注目されるファーブルだが、これは実に意味深長で、過激な作品だった。
黒い布で囲まれた舞台で、黒のパンツスーツを着た韓国人ダンサーのスン・イム・ハーが、床に置かれたオリーブオイルの瓶を次々に拾い上げ、天井から吊る されたワイヤーに一本ずつかけていく。オイルが滴り落ちるのを見やり、カンツォーネ『ヴォラーレ』の明るいメロディーを聞きながら、男の模倣か、タバコを くゆらせ、カクテルを飲む。上着を脱ぎ、黒いテープを貼った胸を露わにするや、より大胆に動き始め、パンツから取り出した銀の玉(睾丸の象徴)を床にころ がし、胸や股間に入れ、音を立ててもてあそんだ。
オイルの瓶の蓋を開け切り、オイルが床を覆うと、彼女は睥睨するように客席を見据えて全裸になった。清めの香油のようにオイルを全身に浴び、平然と股間 を開き、オイルを飛び散らせて床を転げ回る。滑る床での振りは限られるため、同じ動きを執拗に繰り返し、動物的な獰猛さを露呈させていく。頂点に達したの か、女はオリーブの枝の冠を勝利者のように被り、股間から取り出したオリーブの実をカクテルに入れ、艶然と飲み干した。
こ の作品は、両性具有的な身体を持つとされるリスベット・グルウェーズのために作られ、彼女により初演された。今回踊ったスン・イム・ハーの肉体は見るから に女性的で、そのため男性性と女性性を行き交うイメージは後退し、男性性を揶揄する趣が優ったようだ。なお、オリーブオイルにしても、キリスト教や古代ギ リシャのオリンピックに係わるコンセプトは日本人には馴染みが薄い。果たしてその比喩が十分に伝わったかどうか。ただ、スン・イム・ハーは、ファーブルが ダンサーや役者に求める「美の戦士」にふさわしい強靭な精神力と身体表現を存分に発揮していた。(6月30日、彩の国さいたま芸術劇場)