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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2006.04.10]

新国立劇場バレエ団『ナチョ・ドゥアトの世界』

  新国立劇場が、バレエ界で最も注目される振付家の一人、スペインのナチョ・ドゥアトの代表作三作による公演を行った。題して『ナチョ・ドゥアトの世界』。 日本初演となった一作を含む三作品は、それぞれ全く作風が異なり、ドゥアトの豊かな表現力を改めて認識させるものだった。新国立劇場のダンサーが、伝統的 なバレエとは異質な動きが要求されるドゥアトの振りに嬉々として挑み、結構、器用にこなしていたのにも感心した。

幕 開けは、ドビュッシーの音楽による『ドゥエンデ』(1991年)。右手奥の細長いスクリーンに樹木や模様がモノトーンで投影されるほかは何もない舞台が、 かえって想像をかきたてる。ダンサーは男女六人ずつ。第二ポジションでのプリエが多用され、ダンサーはバネのような強靭さで次の動きに移る。小気味良い、 実にスピーディーな展開だ。手首や足先を奇妙に曲げたポーズが目立ち、ダンサーがミステリアスな生き物のように見えた。


「ドゥエンデ」


「ジャルディ・タンカート」
続 く『ジャルディ・タンカート』(1983年)はカタルーニャ語で「閉ざされた庭」の意味で、ドゥアトの処女作。郷愁を誘うカタルーニャ語の労働歌にのせ、 細い枯れ木で囲まれたスペースで、三組の男女が深く沈み込み、背を反らせて踊る。素朴でいてシャープな動きは、自然と同化するように映った。女性の揺れ動 くフレアスカートも効果的だった。

最後は日本初演の『ポル・ヴォス・ムエロ』(1996年)。「あなたのために死ぬ」という意味で、15~16世紀のスペインの音楽に、同時代の詩人ガルシ ラソ・デ・ラ・ベガの詩の朗読を交え、当時の宮廷や文化を現代の感覚でとらえたもの。後方の雅な真紅のカーテンとは不釣り合いに、女性六人はレオタード、 男性六人は短パンツで動き回る冒頭は、無垢な姿か現代を象徴するのだろうが、違和感を覚えた。女性が裾長のワンピース、男性が黒のシースルーのシャツにな ると、古楽の魅力も手伝って、エレガントな雰囲気が満ちてきた。ダンサーは機敏に跳ね、身をよじり、ペアを組むなど、流れるように踊りつないだ。

コミカルなデュオで笑いを誘う男性や、白い仮面を持った女性たち、香炉を振り回して聖体降臨祭の儀式を模す男性たちが、当時の生活をしのばせた。三作の中 で最も洗練されていたのは、音楽とテーマに添ったからだろう。よく練り上げられた舞台だった。ダンサーでは、酒井はなや湯川麻美子、山本隆之が好演し た。(3月23日、新国立劇場中劇場)