ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2005.02.10]

●伊藤キム+輝く未来『壁の花、旅に出る。』

「伊 藤キム+輝く未来」による『劇場遊園』(2003年)は、舞台上に客席をしつらえ、客席をパフォーマンス空間に変えるという、従来のあり方を逆転させた試 みが新鮮だった。今回の『壁の花、旅に出る。』は、一歩進めて、舞台と客席の境界を取り払った実験的な公演だった。二部構成で、前半は“立食パーティー形 式のパフォーマンス”。展示場のようなスペースの中央には料理の置かれたテーブルが幾つか並び、サイドには飲み物コーナーもあり、観客は自由に飲み食いす る。左右の壁際には台座に乗ったダンサーが彫像のように立ち、出入り口側のガラス壁面の向こうには階段が見え、また壁面には服の掛ったハンガーが吊るされ ている。十分ほど経つと、男女一組のダンサーが現れて動き回るが、大したことなく休憩に入り、テーブル等が片付けられる。ダンサーがハンガーの服に着替 え、ストレッチをする様などがガラス越しに見えるが、これもパフォーマンスの延長だろう。
後 半、中央の空間でダンスが繰り広げられ、観客は床に座ったり柱に寄り掛かったりして見る。ダンスはゆっくり歩くことから始まり、四つん這いで激しく頭を 振ったり、仰向けで足をばたつかせたりしたが、表現のスケールは舞台上で見るより小さく感じた。映画『ある愛の詩』音楽などが流されたほか、シェイクスピ アやゲーテ、キリスト、世阿弥らの言葉も朗読されたが、動きとの関連性はなさそうだ。伊藤が踊ったのは最後の十五分ほど。上体をたわめ、空を切るように腕 を曲げ、脚を伸ばす。空気の揺れが伝わってくるほど近距離なためか、動きが解体されて見えるような不思議な気がした。数人の観客が招かれて伊藤を囲むと、 伊藤は一人に抱きついたり、相手のポーズを真似たりしたが、この即興は不完全燃焼に終わった観がある。観客が積極的に仕掛けても良いと言われていたら、 もっと密度の濃い展開になっただろうにと惜しまれた。
(1月16日昼、BankART1929)