ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2004.11.10]

●牧阿佐美版『ライモンダ』を踊ったザハロワと吉田都

 新国立劇場の牧阿佐美版『ライモンダ』初演を、ライモンダ=ザハロワ、吉田都。ジャン・ド・ブリエンヌ=アンドイレイ・ウヴァーロフ、イーサン・スティーフェル。アブデラクマン=ロバート・テューズリー、イルギス・ガリムーリンの二つの組み合せで観た。
物語は、十字軍で遠征したブリエンヌが、婚約者のライモンダにサラセンの騎士アブデラクマンが愛を語っているところに、帰還。一騎討ちによってアブデラ クマンを打ち倒す。そして、絢爛豪華な結婚の祝いを催す、というもの。ストーリー自体はほとんど他愛ない。十字軍の遠征を行った中世のヨーロッパ世界とサ ラセンのイスラム世界の美を万華鏡のようにきらびやかに見せるための設定、といってもいいだろう。
  牧版で最も特徴的なのは、美術と音楽の美しい調和というべきかもしれない。グラズノフの音楽は、ヨーロッパと東洋の中世の色彩が幻想的なイメージを絢爛に 織り成している。牧版の美術を創ったのは、ミラノ・スカラ座などでオペラやバレエの舞台装置を手掛けているイタリア人のルイザ・スピナッテリ。彼女は、中 世の細密画の中に『ライモンダ』の幻想的テーマとシンクロする色彩のリズムを見い出した、と言っている。

  緞帳が上がると、グリーンがかったブルーを基本の色調とした舞台幕。中世風の絵が描かれているのだが、この色彩が、第一幕のブルーのフィルターをかけた照 明に映された白いバレエ衣裳に共鳴して、氷河の深部のような奥行のあるブルーが現れる。そしてその色調はまた、第一幕の後半のヨーロッパの王朝風の濃いブ ルーグリーンや赤とコントラストを成す。そのように様々の色調が重なり合って、第三幕の背景幕の模様の黄金をよりいっそう輝かせる。この牧版『ライモン ダ』では、そうしたヴィジュアルの流れがグラズノフの曲と調和して、西と東が混淆した美しい色彩のリズムを展開している。

  ザハロワは、やはり新国立劇場の牧版『ラ・バヤデール』や『眠れる森の美女』を踊った時よりも、いささかふっくらとしたようにも見受けられた。もちろん優 美な姿体を惜し気もなく駆使した踊りは、見事で圧倒するような雰囲気も揺るぎないのだが、ニキヤのような苛酷な悲劇が刻印された役ではないためか、少々、 輪郭がうすらいで見えたような気もする。

吉田都のライモンダは素晴らしかった。緻密で柔軟で繊細でしかも優雅に流れるような踊りのラインは、吉田都にしか描くことのできない逸品である。日本人 の佳き感性が創る肌理濃やかなダンス・クラシックというべきである。吉田都につられたかのように、イーサン・スティフィールも品格のある踊りを見せた。
コール・ド・バレエも整えられており、見事な舞台であった。新国立劇場はこうした舞台をこそ維持発展させていってほしいものである。
(10月15日、22日、新国立劇場)