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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2009.11.10]

ロベルタ・マルケスのジュリエットを輝かせた熊川版『ロミオとジュリエット』

熊川哲也版『ロミオとジュリエット』
K バレエ カンパニー
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10周年を迎えたK バレエ カンパニーは、熊川哲也の演出・振付による新製作『ロミオとジュリエット』を上演した。これは熊川哲也にとって、8作目の全幕バレエのプロダクションとなる。
10年にして8作目はもちろん、世界新記録並みの驚異的なハイペース。しかもその間に大黒柱の熊川が2回も怪我をして踊れないシーズンもあったのだから、まったく信じられない。もちろん新作は1作たりとも、内容的にも興行的にも失敗は許されなかったことは明かだ。8本の全幕バレエの新製作にどのくらいのエネルギーと資金と才能が必要なのか。それはおそらく想定することすら難しい。
しかしこの神をも恐れぬ一人のバレエダンサーの、なにかに憑かれたかのような創作の速いテンポこそが、じつは彼の創造の計り知れないエネルギーを生んでいるのではないか、最近はそのように感じられる。

『ロミオとジュリエット』は20世紀の全幕バレエを代表する傑作であって、プティパが完成した19世紀の全幕バレエとは異なっている。生起する出来事がダンスで描かれて構成され、すべてが全体のテーマを表現している。デヴェルティスマンによって大団円にいたるお決まりのルーティーンがあるわけではない。その意味で『ロミオとジュリエット』の新製作は、熊川哲也率いるK バレエ カンパニーにとってひとつの挑戦だったと思われる。

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『ロミオとジュリエット』は、マキューシオとティボルトの死のシーンまではロミオが活躍する。しかし、ロミオのヴェローナ追放以降はジュリエットの物語となる。そのジュリエットをシェイクスピアの国のロイヤル・バレエ団のプリンシパ
ル、ロベルタ・マルケスがオリジナル・キャストとして踊った。
ジュリエットは、両親には内密にロミオと結婚し、初夜をすごした後に、パリスとの結婚を迫られて絶体絶命の窮地に陥るが、ロミオとの愛を貫くために決死の行動にでる。こうしたドラマティックな展開をマルケス=ジュリエットは、小柄ながら気高いスピリットを表す気品のある踊りで、堂々と運命と対峙して勝負し、観客を魅了した。

マルケス=ジュリエットと熊川=ロミオとのバルコニーのシーンのパ・ド・ドゥは美しかった。二人の愛は、大地に立つロミオとバルコニーから見つめるジュリエット、という位置関係から始まった。そして、ともに同じ地平にひざまづくような動きを取り入れた振付が、運命さえも侵すことのできない愛が生まれたことを表す。その純粋な愛の美しさが、その後のマルケス=ジュリエットの一挙手一投足に気品を与えたのである。

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熊川版『ロミオとジュリエット』では、ジュリエットの仮りの死を知らせる僧ロレンスの手紙は届かずに、ロミオはジュリエットが死んだという情報を知ってしまう。絶望したロミオは仮死のジュリエットを死体と思い込み毒をあおる。そのロミオの本物の死体の前で目覚めたジュリエットは、運命の皮肉を知って死を選ぶ。
パリスが登場するシーン以外は全体に音楽のテンポを速め、場面転換もかなりめまぐるしくして、短時日の若者たちが主役の振幅の激しいドラマであることを表している。またジュリエットがロミオとの愛に身を捧げる決心をするまでの前半は、コミカルなタッチを使った悲喜劇風の展開だが、後半はシリアスに息をつかせぬ感情の奔流を表すかのような印象を与える演出として効果をあげている。
開幕早々のチャンバラはなかなか迫力があったし、マキューシオがティボルトに刺されて死ぬシーンは、複雑な演出でミステリアスな雰囲気がでていた。

橋本直樹のマキューシオ、遅沢佑介のティボルト、宮尾俊太郎のパリスなど、キャスティングも決まっていた。
(2009年10月15日 Bunkamura オーチャードホール)

撮影:岡村啓嗣
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