ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2018.01.10]
昨年末に上演されたモーリス・ベジャールの『くるみ割り人形』は本当に楽しいバレエだった。ベジャール自身の子供の頃の思い出がチャイコフスキーの音楽に乗って、様々なダンスの楽しい形を作って繰り広げられる。ベジャール個人の回想を見ず知らずの観客が一緒に育ったかのように見ることのできる、稀有の作品だった。(佐々木三重子さんの丁寧な解説があるので、ぜひご一読いただきたい。)いかにベジャールが自由で開放的なスピリットを持っていたか、改めて驚かされる。こうしたパフォーマンスが生まれ、観客に愛される「場」こそが劇場である。
同じ劇場でも先日行われた新国立劇場20周年記念のセレモニーには失望した。次々と功なり名を遂げた人たちがスピーチをしたが、空疎な紋切り型の話ばかりであった。ユーモアのかけらさえない。それぞれ文言を紙に書いてきたものを読み上げると、折って壇上の置いて降りていった。後日、神棚にでも供えするのだろうか? 官僚にとっては新国立劇場という大きな国の施設の20周年記念のセレモニーで型どおりの挨拶をすれば、箔がつくのだろうか? そのために関係者を集めて無味乾燥なイベントを開催する、そんな余裕があるのなら、劇場らしく小品でもいいから新作を創ったらどうか。私が見た限りでは、他の国の劇場では記念日を祝うことは新作を創ることである。確かに挨拶もあるが、公演時の幕前でユーモアたっぷりとチャーミングに話す。劇場という空間とは場違いで中身のないゲイジュツとかブンカと言った話で終始することなどない。多くの舞踊関係者が客席で聴いていたが、違和感もなさそうであったのにはいささか驚かされた。実はこのような無意識な関係者たちこそが、この無味乾燥なセレモニーをしっかりと支えているのである。

米沢唯と井澤駿が踊ったアシュトン版『シンデレラ』の率直で美しい踊りが見事だった

新国立劇場バレエ団
『シンデレラ』フレデリック・アシュトン:振付

新国立劇場バレエ団の優れたレパートリーのひとつフレデリック・アシュトン振付の『シンデレラ』。しばしば年末に上演されることが多く、新国立劇場バレエ団では『くるみ割り人形』と隔年で交互に上演していたと記憶する。今年は、イーグリング振付の『くるみ割り人形』を新制作したが、やや早い時期の初演となったので、『シンデレラ』も上演されることになったのであろう。

tokyo1801a_0391.jpg シンデレラ/米沢唯
撮影/瀬戸秀美(すべて)

今回、アシュトン版の『シンデレラ』を観て今更ながら改めて感じたが、音楽が実に素晴らしい。(マーティン・イェーツ指揮、東京フィルハーモニー交響楽団)細やかにしかし過剰にはならず、とても表情豊かにこの魔法の物語を描いている。このセルゲイ・プロコフィエフの音楽に、ダンサーたちが乗れば乗るほど観客は楽しく、魔法の世界に心を解放してもうひとつの人生を情感豊かに生きることができる。
というのも舞台の中心に米沢唯と井澤駿が芯となって、しっかりと安定感のある美しい演舞みせていることが重要な要素であることは言うまでもない。やはり、米沢唯の名前を一番に挙げなければならないだろう。無駄な動きや所作がまったくなく伸びやかで美しい。身体全体がきちんと有機的に機能しているので、存在感が心地良く感じられるのである。小野絢子のシンデレラも可愛らしく大好きだが、米沢の描いた人物像もヴィヴィッドで魅力的だ。そして井澤駿もまた見事。安心してみていられるパートナーシップを築いていた。とりわけ、宮殿で踊られる出会いのパ・ド・ドゥは素晴らしかった。生き生きとした出会いの魔法の時間の耀きが劇場全体に溢れるようだった。井澤の素直な表情が米沢の純粋な心とがバランス良くひとつになったことが、客席までまっすぐに伝わってきた。ただ貧乏なシンデレラの方はもう少し悲しさが表れても良いのではないか。悲しみが深ければそれだけ、純粋な心が美しく輝く。人物像のコントラストが少しだけ弱かったようにも感じられた。
もちろん、アシュトンの緻密で周到な演出により、それらは実現したのであるが、四季の精などのソリストたちもしっかりとした舞台をつくった。そのほかの役では、かつてK バレエカンパニーで踊っていたということだが初見の井澤駿の兄、諒がダンス教師に扮していて、なかなか演技が上手いと感じた。駿よりは少し小柄だが、他日公演では道化に扮して、評判が良かったと聞く。こうした演技に優れたダンサーが活躍するようになると、舞台はいっそう味わい深くなってドラマも引き立つことになるだろう。

tokyo1801a_0031.jpg シンデレラ/米沢唯 tokyo1801a_0683.jpg シンデレラ/米沢唯、王子/井澤駿

アシュトン版『シンデレラ』は、新国立劇場バレエ団のレパートリーとしてよく踊りこまれていることもあり安定しているし、舞台全体にこれ見よがしのところがない。ダンサーたちは率直に踊っていて、若々しさが溢れ好感の持てる公演だった。
英国ロイヤル・バレエの元プリンシパルで、名ダンサーの故マイケル・サムスの夫人でもあるウェンディ・エリス・サムスと、スウェーデン・ロイヤル・バレエ団で踊り、英国でノーテーションを学んで指導者となったマリン・ソワーズが監修・演出に当たった。
(2017年12月16日昼 新国立劇場 オペラパレス)

tokyo1801a_0436.jpg シンデレラ/米沢唯、王子/井澤駿
撮影/瀬戸秀美(すべて)