オペラ座ダンサー・インタビュー:ジュリエット・イレール

Juliette Hilaire ジュリエット・イレール(コリフェ)

前シーズンの最終公演となったアンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルの『ドラミング・ライヴ』で、1時間近く舞台上で踊り続けるエネルギッシュな姿で観客に強い印象を残したジュリエット。9月21日に開催されたオペラ座の2017〜18年シーズン開幕ガラでは、シディ・ラルビ・シェルカウイの『フォーン』に配役された。マルク・モローとともに床を這わんばかりに絡み合う動物的なパ・ド・ドゥで、オペラ座で観客が見慣れたニジンスキーの有名な『牧神の午後』とは異なる動物的で官能的なニンフ像を披露。今後を期待させる28歳だ。

『天井桟敷の人々』で来日しただけなので、日本のバレエファンはあまり彼女の踊りをみたことがないだろう。父親のローラン・イレール(注:オペラ座のバレエ・マスターを務め、現在はモスクワ音楽劇場バレエ団の芸術監督)がヌレエフに愛されたエトワールゆえに、イレールという名前にはクラシック作品が結びつくが、ジュリエットはここのところコンテンポラリー作品での活躍が顕著だ。10月25日にオペラ・ガルニエで始まるトリプル・ビルでは、彼女は勅使川原三郎の『Le Grand Miroir 』の創作ダンサーの一人に選ばれている。


Q:シディ・ラルビ・シェルカウイの作品を踊ったのは、これが初めてですか。

A:いえ、アルチュール・ピタ、エドアルド・ロック、そして彼の3名が共同創作した『くるみ割り人形』に配役されています。このとき、彼はあまりリハーサルには顔を出しませんでしたね。数か月前に、彼とダミアン・ジャレとが振付けた『ボレロ』も踊っていて、彼とは深い関係にはないけれど、振付はよく知っているといえます。

Q:『フォーン』の体験を話してください。

A:これを踊れたことは素晴らしい体験となりました。まず、テクニックの挑戦がありました。デイジー・フィリップスとジェームズ・オハラに振付けられたという、これはとても特殊な作品なんです。彼らの身体はダンサーとしては例外的・・規格外なんです。ジェームスが『ボレロ』のコーチとしてオペラ座に来ていたときに、この『フォーン』の稽古を彼と始めました。今年の5月ですね。その後、彼とすれ違いでデイジーがパリに来て、仕事をしました。7月、9月はニュージーランドに帰ったジェームスに代わって、フィリップ・レンスがリハーサルのコーチでした。フィリップはジェームスに継いで『フォーン』を踊っているダンサーなんです。

『フォーン』photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

『フォーン』photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

Q:創作ダンサーとの身体的違いゆえに、振付には変更がありましたか。

A:はい、でも少しだけです。ちょっとした策は施したものの、可能な限りジェームスとデイジーのオリジナル作品に忠実に踊れるようにと、リハーサルを重ねました。テクニックの挑戦というのは、私がこれまでにしたことがなく、できないテクニックがあったからです。ほとんどアクロバットのような振付で、床の踊りがとても多くて・・・難しかった。何か月もかけて、できるようにしました。5月にリハーサルがスタートし、でも、継続ではなく、点々と間をおいてのリハーサル。合間にマルクとは仕事をし、リハーサルで学んだことを消化する、という時間もとれたので、これは悪くないやり方でしたね。

Q:この配役を知ったときはどんな気持ちでしたか。

A:これは思いもしてなかったことで・・。ガラで踊る1度の公演。とても大きな贈り物であると同時に、これには大きなプレッシャーを感じました。この作品の技術的な難易度を考えると、たった一度の舞台というは、ひどいプレッシャーでした。舞台を満喫するために、稽古を何度も何度も繰り返し、冷静な気持ちで公演に臨んだんですよ。膨大な仕事をした以上は、舞台で失望したくないし、快適に踊りたいですから。作品は15分で、私は舞台に出てから12分間ノンストップで踊りました。

『フォーン』photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

『フォーン』photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

Q:ニジンスキーの『牧神の午後』とこの『フォーン』では、ニンフの役割が異なりますね。

A:そうです。ニジンスキーのは主人公は明らかに牧神であり、ニンフはシンボル的存在にすぎません。でもシェルカウイ作品では、2つの<創造物>の作品なんです。
動物的な動きが必要とされて・・。私たちは長いこと習ってきたように、足をポワントして、脚を長く伸ばして、というように反射的にやってしまいます。でも、シェルカウイの作品では、伸ばすといっても、関節の働きが全然違うんです。足を張らないとか、足をまったく違った方向に向かせるとか、こういったことを受け入れていかないと、踊れないのですよ。より動物的に、より床に近く踊ります。マルクとの接触でも、肌と肌というようにセンセーションはとても強く、互いの体の重みを活用することもある振付でした。

Q:フセイン・チャラヤンによるコスチュームはミニマムですね。

A:はい。肌を保護するものをつけて踊りました。そうでないと、床との接触で腰とか燃えてしまいそうになるので。リハーサルの間にも随分とアザを作りました。

Q:マルク・モローとはよく組む関係ですか。

A:彼とは『ボレロ』で一緒でしたけど、これは8人が一緒に踊るので、彼とパ・ド・ドゥとかではないですね。外部のガラで、バレエ団に入団してすぐに、マルクと一緒に踊ったことがあります。もう9〜10年前のことですね。彼とはそれから一緒には踊ってなかったけれど、仕事に対するヴィジョンが同じだったので、今回、素晴らしい関係が築けました。リハーサル期間中、二人とも常に「やろう!」という意欲にあふれていたんですよ。

Q:精神的にも難しい作品だったのではないでしょうか。

A:はい。こんなに仕事をしたのだから、舞台では自分でも踊る喜びを感じたい、と願いました。これまでしてきた仕事を信頼しなければ、と。賭けですね。ストレスで固まってしまわないように・・これほど美しいパ・ド・ドゥを台無しにしたくない、と思って舞台に上がりました。

『フォーン』photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

『フォーン』photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

Q:夏前にオペラ・バスチーユで踊った『ドラミング・ライヴ』は、とてもハードな舞台だったのではないでしょうか。

A:はい。1時間10分、ノンストップでほとんど踊りっぱなし。マラソンですね。でも、こうした肉体的なチャレンジって、私、好きなんですよ。単に自分の限界に挑戦するというだけでなく、トランスのイメージに至る前に脳内に一種の放棄のようなものがあって、これが快適なんです。もちろん、そこに至るまでしっかりと保たねばなりませんけど、この時点で喜びが訪れるんです。たった一人の1時間10分というのではなく、11名のダンサーが一緒に踊る作品です。あるところまで来ると、誰もが疲れ切ってしまって・・。だから、視線で合図したり、微笑を送ったりして、最後まで一緒にがんばりましょう、って。こういった連帯意識によって互いに支え合っていました。この作品は記憶するのがけっこう複雑なんですが、疲れ、ストレスに至り、息切れがすることになると、仲間たちに助けられる。これは最高です。

Q:他にもそういったバレエ作品を踊ったことがありますか。

A:『レイン』もそうです。これもアンヌ・テレサの作品で、音楽もスティーブ・レイシーで『ドラミング・ライヴ』と同じチームの姉妹みたいな作品です。6年くらいまえに踊ったでしょうか。この『ドラミング・ライヴ』と同じグループのエネルギーがあるんです。とにかく疲れ切ってしまっていて、他のダンサーがいなければ続けられない。つまり、一緒に踊るというすごい喜びがある作品です。互いに支え合う・・・サバイバルと家族という2つがある作品です。この2つではローザスの創作ダンサーのシンシア・レミージュ、マルタ・コナルドが踊った役を私は踊ったので、彼女たちから実際に踊りを見せてもらえました。二人の素晴らしいダンサーから、エネルギーを送るとか、どこで抑制するか、といったことを教われたのは、実にうれしいことでした。

『ドラミング・ライヴ』photo Agathe Poupeney/Opéra National de Paris

『ドラミング・ライヴ』photo Agathe Poupeney/Opéra National de Paris

Q:グループのダンスというと、オペラ座ではクリスタル・パイト『シーズンズ・カノン』もありますね。

A:はい、私も踊りました。これも素晴らしい経験ができました。疲れ切る、といった面はないにしても同じタイプの作品ですね。クリスタル・パイトって、本当に驚くべき女性で、彼女との出会い!これは忘れられません。とても大勢が参加した作品ですが、創作はとてもうまくいったんですよ。彼女の優しさ、エネルギー・・創作期間中、すべてがとても上手く進んみました。最後に私たちダンサー自身が互いに、拍手をおくりあったくらいなんです。彼女と仕事をする喜び! この作品は、踊るのがとっても快適な作品です。

Q:今は勅使川原三郎の創作に参加してるのですね。

A:ちょうど今、リハーサルを終えて出てきたところです。彼との仕事はとても興味深いものがありますね。とても複雑・・・いえ複雑じゃない・・・でも、クラシック・バレエがベースの私たちには、このコンテンポラリー作品の経験は複雑です。創作が始まってからすでに3週間がたってますが、その間、彼は私たちにずっとアンプロヴィゼーションを要求しています。これは他の作品ではなかったことですね。彼は私たちが解放されるようにと、プッシュするのですね。動きは極めて流動的。彼、私たちの導き方がとにかく素晴らしいんです。ほぼ哲学的というか・・。彼の口から出る各フレーズは、哲学的な宝石という感じです。根拠のない動きはしないようにって。彼は、内側から出てくる動き以外は、不要だと・・だから、とても難しいんです。

Q:音楽は何を使うのですか。

A:現代音楽です。北欧のとても有名な作曲家でエサといったか、私、名前がどうしても覚えられなくて・・(注:エサ=ペッカ・サローネンの「バイオリン・コンチェルト」)。彼がオペラ・ガルニエにきて、指揮をするんですよ。オペラ座にとって、すごい栄誉なことですね。とてもコンテンポラリーで、弾むようなというか、そうですね、燃え上がるような、といった感じの曲です。

Q:流れるような動きを燃え立つような音楽で・・・。

A:はい。何一つ簡単じゃいないんです! 何一つ明白なことがないんです。そこに、信じられない微妙さがあるということになります。だから、彼と彼の助手と一緒に仕事をするのは、面白い。彼らの動きを見るだけで、とっても参考になります。二人ともすごく寛大な人ですね。配役は7〜8名の小さなグループなんですよ。全員が彼らを見ながら、試しながら、聞きながら学んでいるという状態です。自分の内からのものを、これみよがしでなく、みせるという仕事。簡単じゃないですね。とても微妙。それが面白いんです。

『ドラミング・ライヴ』photo Agathe Poupeney/Opéra National de Paris

『ドラミング・ライヴ』photo Agathe Poupeney/Opéra National de Paris

Q:コンテンポラリー作品に配されることが多いようですね。

A:ここのところ、そうですね。でも過去には古典大作とかも踊っています。クラシック作品は、好きですよ。でもコンテンポラリー作品には、コレグラファーとの出会いという利点があって・・。

Q:かなり大勢のコレグラファーと、これまで出会っていますね。

A:はい。もちろん、だからといってクラシック作品では自分を豊かにすることができない、というのではないですよ。むしろ逆かもしれない。でも、毎回の創作のたびに、コレグラファーは彼の世界にダンサーたちを連れて行ってくれる。それによって、自分の前に新しい風景が開かれる・・・これが素晴らしいんです。オペラ座というメゾンの素晴らしい力が、これですね。これほど幅広いレパートリーって・・・(小声で)他のバレエ団ではありえないこと。

Q:ウエイン・マクレガーの作品も踊っていますね。

A:はい。2014年の公演「若いダンサーたち」で『ジェニュス』を。でもこれはパ・ド・ドゥをユーゴ・マルシャンと踊っただけで、創作には参加していません。彼の作品は『感覚の解剖学』『アレア・サンズ』も踊っています。彼って、宇宙人みたい。規格外の存在です。あの信じられないエネルギー! 私たち追いつけないほどで。彼もそれわかっていて、でも、彼は私たちがそんな彼に着いてゆくのを望んでるんですね。

Q:創作の参加は、コレグラファーによるオーディションの結果によるのですか。

A:はい。私は幸運なことに、オーディションに参加し、常に選ばれています。オーディションってすごく緊張して、あまり快適な経験とはいいがたいですけど。でも、最低でもリハーサルスタジオの中で、一度となるかもしれなくても、コレグラファーと会える機会にもなるので。

『ジェニュス』Photos Benoite Fanton/ Opéra national de Paris

『ジェニュス』Photos Benoite Fanton/ Opéra national de Paris

『ジェニュス』Photos Benoite Fanton/ Opéra national de Paris

『ジェニュス』Photos Benoite Fanton/ Opéra national de Paris

Q:仕事をしてみたいコレグラファーはいますか。

A:はい。ホフェッシュ・シェクター。ロンドンがベースのイスラエル人コレグラファーです。ロイヤル・バレエにも創作しているんですよ。6〜7年前から彼の仕事をチェックしています。すごいエネルギーの持ち主で、それに作曲もするんですよ。それからアクラム・カーン。また、ヨアン・ブルジョワのようにダンス専門というより、ダンスをとりこんだ仕事をしてる人にも興味があります。彼はサーカス界から来た人で、放ち出す詩情はポエジーが素晴らしい。別の劇場にいって、観客として見るというのはいいことですよね。

Q:外国にもダンスの公演を見に行くことがありますか。

A:はい。例えば、シルヴィ・ギエムの最後の『マノン』を見に、ミラノのスカラ座まで行きました。パリでは市立劇場(テアトル・ド・ラ・ヴィル)に行くことが多いですね。ここの折衷のプログラムは、面白いんです。他の世界の発見を大いに楽しんでいます。もちろんオペラ座の仕事のコンディションは素晴らしくって、甘やかされてると感じるくらいだけど、こうして他のカンパニーの仕事を見るというのは、ただ踊って、進歩をして、というだけよりも、自分をもっともっと豊かにすることになると思うんです。

Q:両親がダンサーということが、バレエを始めたきっかけですか。

A:いえ、ダンスが溢れる、といった雰囲気はあまり自宅にはありませんでした。でも姉妹で父についていって、オペラ座の楽屋や舞台裏には接していました。『マノン』の馬車にのってみたり、『ラ・バヤデール』の象にもまたがったり・・・もちろん父の舞台もよくみていましたね。

Q:両親からダンスを勧められたのですか。

A:いえ、全然。自分の意思で10歳のときにコンセルヴァトワールで習い始めたんです。オペラ座でみた衣装がきれいとか、その程度のものであって、仕事にしようとか、ダンスで頭がいっぱいとかそういうのではなかったですね。13歳でオペラ座のバレエ学校にはいったときも、そうでした。バレエを職業にしよう、と思ったのは第一ディヴィジョンのときの舞台公演で、そのときに、あ、これが自分のしたいことだ、と。とても遅いんです。

Q:13歳でというのは入団規定のぎりぎりの年齢ですね。

A:はい。年齢的には規定を過ぎてましたけど、クロード・ベッシー校長のおかげで・・・。1年間のグランド・スタージュがあって、第四ディヴィジョンから始めました。すでに2年間を一緒にすごした生徒たちの中に入ってくのは、簡単ではありませんでした。それに驚いたのは、生徒たちの中には小さいときからコンクールに参加したり、すでにプレ・プロ的なエネルギーの持ち主もいて・・・。私はどちらかというと両親によってダンスから遠ざけられてたという環境だったので、全然そうじゃなく、他の生徒たちのダンスに対する身の入れ方に驚いてしまいました。それが極端な子もいて・・・入学したてのとき、そうした雰囲気に馴染むのがちょっと大変でした。でも、それは最初だけ。すぐに友だちもできて、溶け込こむことができました。

Q:学校での公演では何を踊りましたか。

A:『旅芸人』。ロイ・フラーの役でした。ベール状の大きなドレスをきて、バトンを両手にもって踊るのを学ぶのは、楽しかったですね。もちろん、ストレスはありましたけど。全公演、この役は私が踊った記憶があります。たっぷりの布が体の周りで舞って、体にもそのセンセーションが伝わってきて・・素晴らしい思い出です。特別な時間を過ごせました。

Q:模範にしているダンサーはギエムですか。

A:難しい質問ですね。シルヴィ・ギエムは家族の友人で、また、ダンサーとして父とも舞台で一緒に踊っているのをみています。彼女って、子ども時代の思い出ですね。その人柄、仕事に対する姿勢をリスペクトしてますし、崇拝しています。それから、イザベル・シアラヴォラ。彼女のことも大好きです。信じられないアーティストで、『オネーギン』『マノン』で役に入り込んで身を任せるシーンは忘れがたいです。今は芸術監督ですけど、オーレリー・デュポンも素晴らしダンサーだったし・・・私の前には素晴らしい模範が大勢いるのです。

Q:父ローラン・イレールの舞台では何が印象に残っていますか。

A:父の舞台で一番回数多く見たのは、『ル・パルク』です。あのコスチュームや庭の舞台装飾がロマンティックなので妹と二人で興奮してました。子供が退屈しない長さの作品で、音楽も素晴らしくって・・。『ラ・バヤデール』の舞台も思い出に残っています。ステージに現れる、あの巨大な像! 『イン・ザ・ミドル・サムホワット・エレヴェイティッド』もよく見ましたね。それから、『カサノヴァ』。まだバレエ学校にも行ってない、とても小さいときに見たように記憶しています。最後にバレエの中で、父がウィルフリード・ロモリに向かって、「ウィリー」って叫ぶシーンがあるんです。苦悩でひきさかれるような悲痛な叫び。小さい私は涙が出てしまって、思わず「パパ、大丈夫よ、大丈夫よ〜」って舞台に向かって声をかけそうになってしまったほど。これは今でも、心の中に深く残ってるトラウマ的な思い出です。いったい何が起きたの、大丈夫よ、パパ、私、今、行くから ・・・って。子ども時代の私には、これはすごい思い出となりました。

Q:偉大なダンサーを父に持つことが重く感じられるとか、不利というか、そういった面はありましたか。

A:重く感じられるのは仕方ないですね。でも性別が異なることで、幸いにも比較されることが少なくなります。同性だったら状況は全然違ったでしょうね。もっとも父がダンサーであるということはあまり問題がなかったのだけど、彼がバレエ・マスターだった時期が面倒でしたね。私はコール・ド・バレエなので、彼は私の指導者という関係。私たちの間では仕事場では親子関係ではないことを誰の目にも明快にしておこう、という決まりがあって、それについてとても気を使ったんです。でも、それがいささか行き過ぎるほどになって、奇妙な感じがありました。バレエ・マスターが父、というのは厄介な状況で、この時期は難しかったですね。

Q:オペラ座で自分自身で最も楽しめた作品は何ですか。

A:1つを選ぶのは難しい。『ドラミング・ライヴ』、『フォーン』と、思いっきり弾けられる作品が得られているのは、うれしいことです。疲労困憊の状態に至らせられる、ということが好きです。つまり、先の先まで探しに行くということが。『感覚の解剖学』でも長く続くソロを踊り、これも素晴らしい思い出になっています。もちろん、『シーズンズ・カノン』も、です。

Q:コール・ド・バレエで踊る古典作品よりも、コンテンポラリー作品なのですね。

A:そうですね。コール・ド・バレエで踊るときは、もちろん演技はありますが、でも、集中するべきはラインだったり、グループの中で踊るということです。別の仕事ですね。自分がしたいようには踊れません。

Q:いつか踊りたいと夢見る作品は何ですか。

A:ベジャールの『ボレロ』。シェルカウイの『ボレロ』を踊るチャンスにはすでに恵まれましたけど、ベジャールのこれはファンタスムの極限ですね。それから、『ル・パルク』。この作品とともに育った、という感じが私にはありますから。『ラ・バヤデール』もそう。バレエとして素晴らしいので踊りたいのは、『アン・ソル』でしょうか。『若者と死』のあの女性のパーソナリティ、『ジゼル』の狂気のシーンなども踊ってみたいです。演じる面の大きなバレエには憧れます。役の構築という面、舞台上で完全に自分を委ね、裸の自分となって踊る・・・。美しい瞬間で、このときに舞台から観客たちに突き刺さるものが流れるんだと思うのです。

Q:今シーズンの最後に予定されている『リーズの結婚』のような作品には、興味がわきませんか。

A:いえ、これはまた別のものです。コミックな作品も好きですよ。舞台上で死ななくたって(笑)! このバレエはダイナミックで、悲劇とは異なる質のものです。オペラ座のレパートリーの豊かさを物語る大切な作品だと思います。メゾンのDNA、それはヌレエフ作品ですね。私が小さいときにたくさん見たのは、『白鳥の湖』『ロメオとジュリエット』『ラ・バヤデール』などのヌレエフの古典大作です。

Q:今期のコンクールは11月ではなく、来年の3月ですね。

A:はい。何を自由曲で踊るかそろそろ考えはじめよう、というところです。何を選ぶかというのは簡単じゃないんですね。踊りたいと思って試してみたら、自分が思ったほどは気持ちよく踊れない、といったこともあるので、とにかく試してみなければ。コンクールってエクササイズとしては、難しいものです。ワンショットで、舞台装置もなくって、拍手もなく、観客席にいるのは普通の観客ではなくって・・・とさまざまなプレッシャーがあって、雰囲気はどちらかというと感じのよいものではないですね。でも、表現の場のないコール・ド・バレエのダンサーにとっては、踊りたいと夢見るヴァリエーションを踊れる機会なので、ストラテジーが必要。1か月とか稽古するのだから、音楽も含めて自分の気に入るヴァリエーションをみつけることが、大切なんです。最近はジャン=ギヨーム・バール、そしてイザベル・シアラヴォラに指導をしてもらっています。

Q:私生活での楽しみは何ですか。

A:読書です。通勤の地下鉄の中でも読み、現実から別世界へと・・。ジャンルは問わず、最近、日本の女性作家の小説を読み終えたところです。多くはアメリカの作家の小説でしょうか。パートナーが映画の仕事をしているので、映画の話もよくしますね。映画館に行く時間はないけれど、自宅はDVDの宝庫。最近の作品も見れば、40年代や50年代の古い作品も見ます。彼によって私に映画の世界が開け、彼は私によってダンスの世界が開けたんです。5年前に出会ったのですが、まったくダンスのことを知らなかった彼は、今や知識はプロ並みで、コードは理解できるし、彼自身の好みもできていて。バレエのことを彼と話すのは、とても役立つんですよ。私たちはその中にどっぷりだけど、彼は距離を置いてみることができるので。例えば役の解釈など、別の業界の人がみると別の視線があって・・。とくに彼は映画の仕事なので、被写体によって見ることに慣れている。舞台の仕事とはまるで正反対なので、面白いです。

photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

Q:女優としてのキャリアについて考えますか。

A:いいえ、女優という職業にはリスペクトがあるので・・・。先のことはわからないけれど、今は全く考えません。それに私は話すことがあまり得意ではないんです。だから、話さなくてもいいダンスをしてるのかもしれない(笑)。

<9のショート・ショート>

1. プティット・メール:ジェラルディーヌ・ヴィアール(現在、学校で女子第六ディヴィジョンの教師)
2. 朝食の定番:ムスリ、大麦など。
3. オペラ座外の活動:内向きの肩の修正のため15歳からピラテス。ジャイロも。
4 .ストレス解消法:ホメオパシーの錠剤。バッグの中には、マグネシムの錠剤も常に入っている。
5. 舞台に出る前の習慣:特にかわったことはせず、歯磨き、ヘアメークを確認という程度。やりすぎる傾向があるので、あえて特別な習慣をもって自分を疲れさせるようなことのないようにしている。
6. コレクション:ティーカップのコレクション。ブロカントや旅先で購入する。コレクション数、そしてなぜティーカップに取り憑かれているのかの理由は不明。
7. 2008年同期入団のダンサー:マリオン・バルボー、レオノール・ボーラック、シルヴィア・サン・マルタン。
8. ダンサー以外に考えられる職業:具体的にはわからないが、芸術的な仕事。
9. ガラ公演で選ぶ演目:『白鳥の湖』のパ・ド・ドゥ。音楽、衣装、パートナーとの密接な関係、役の解釈などが好き。

ワールドレポート/パリ

[ライター]
大村真理子(在パリ・フリーエディター)

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