ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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渡辺真弓 text by Mayumi Watanabe 
[2004.04.10]

オペラ座ガルニエでイリ・キリアン特集

 オペラ座では、『ジゼル』と平行して、2月17日から3月3日までキリアンの3作品を特集するプログラムがガルニエで上演された。キリアンのカンパニー はしばしばオペラ座に招かれ、両者の関係は深く、今回初演された新作は、キリアンが長年の友好関係に感謝の意を込め、今季をもって勇退する総監督のユー グ・ガルに捧げられている。初日の舞台の後、キリアンには、ガルからレジオン・ドヌ-ル・シュヴァリエ勲章が贈られた。

世界初演の『 Il faut qu'une porte…(扉は…)』は、オレリー・デュポンとマニュエル・ルグリのために創られた20分ほどの作品。これは、ルーヴル美術館にある、フランスの画家 フラゴナールの18世紀ロココ・スタイルの絵画『閂(かんぬき)』に想を得ていて、絵画が動画に変わったかのような世界が出現する。鍵のかかった寝室にた たずむカップル。男が外へ出ようと鍵に手をかけると女がそれを止めに走る。バレエはここから始まり、驚くほどスローな動きでもつれあいながら、離れようと しても離れられないカップルの関係が官能的に描かれていく。最後に二人は、結局部屋にとどまり、並んでりんごをかじる。これは振付家自身の体験によるもの なのか、それとも空想なのかは定かではない。デュポンとルグリは、奇妙な二人の関係を絶妙なタイミングで淡々とつづっていき、さすがだった。 交替はセリーヌ・タロンとロモリ。

クープランのプレリュードを引用したディルク・ハウブリッヒのオリジナル音楽が、閂のきしむ音や衣ずれの音などを効果的に折り込み、クラシックなトーンをベースにしながら、モダンな感覚を醸成していて面白かった。

他の二作品、ケ-ジ、ウェ-ベルン曲『ステッピング・ストーンズ』(91年)とジェズアルド、モンテヴェルディ他曲の『甘い嘘』(99年オペラ座初演) はともに再演。前者は、三年前にオペラ座で初めて取り上げられた時より、ダンサー個人の個性を一歩引いて、全体にキリアンのスタイルに溶け込んできた印 象。動きが流麗なムッサン、鋭い感覚のデュポン、ダイナミックなジローなどが、キリアンの美学を体現するかのように見ごたえある踊りを見せていた。後者 は、ムッサン&ル・リッシュ、アッバニャート&ルグリの二組がレ・ザール・フロリッサンよるマドリガルやグルジアの歌曲の演奏に乗せて、舞台と奈落を行き 来しながら、『オルフェオとエウリディーチェ』をほうふつとさせる現世と黄泉の国、あるいは恋の甘さと苦さといった、二つの世界を夢幻的に描いていくも の。アッバニャ-トがまだキリアンのスタイルになじめず、浮き上がっていたものの、空間を鋭く官能的に切り裂いていく振付の軌跡が美しい。

キリアン<扉は…>
デュポン&ルグリ



キリアン<扉は…>
デュポン&ルグリ



<甘い嘘>
ムッサン&ル・リッシュ