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渡辺真弓 text by Mayumi Watanabe 
[2004.05.10]

●キラ星のような教え子たちに囲まれた<クロード・ベッシーをたたえるガラ>

 1973年にクロード・ベッシーが校長に就任して以来、数々のスターを輩出してきたパリ・オペラ座バレエ学校。そのベッシ-校長が今シーズンを最後に引退することになり、教え子たちが一堂に会した記念のガラ公演が3月30日ガルニエで開催された。プログラムは次の通り。

1  デフィレ
2  映像(語り:ローラン・イレール)
3  ベジャール振付『バー』ウィリアム・ペドロ・ダ・シルヴァ、三原英二
4  ベッシー振付『ラ・フィユ・マル・ガルデ』マチルド・フルステー、ジョシュア・オファルト
5  アヴリ-ヌ振付『二羽の鳩』カリン・アヴェルティ、アレッシオ・カルボーネ
6  スキビン振付『ダフニスとクロエ』マリ=アニエス・ジロー、ヤン・サイズ
7  リファール振付『白の組曲』
  ---休憩---
8  ランスロ、ベラルビ振付『バッハ組曲2』カデール・ベラルビとバレエ学校生徒
9  キリアン振付『ワン・オブ・ア・カインド』ラファエル・ドロネ、ケン・オソラ
10  ケレメニス振付『キキ・ラ・ローズ』エリック・ヴュ=アン
11  ノイマイヤー振付『ヨンダリング』
12  ベジャール振付『ハサピキ・ソロ』(7つのギリシャの踊り)より、ローラン・イレール
13  キリアン振付『小さな死』オレリー・デュポン、マニュエル・ルグリ
14  ベジャール振付『サロメ』パトリック・デュポン
15  ヌレエフ振付『白鳥の湖』第2幕よりアダージォ、シルヴィ・ギエム、ニコラ・ル・リッシュ
16  バランシン振付『シルヴィア』パ・ド・ドゥ、アニエス・ルテステュ、ジョゼ・マルティネズ
17  ケリー振付『パ・ド・デュー(神々の踊り)』エレオノラ・アッバニャート、カール・パケット、ウィルフリード・ロモリ
18  ベッシ-振付『ニ短調のコンチェルト』バレエ学校生徒
 指揮はダヴィッド・コ-ルマン、演奏はパリ・オペラ座管。

エトワールのレティシア・ピュジョル(デフィレのみ参加)、エリザベト・モラン、クレールマリ・オスタの3人が、けがやおめでたなどの理由で、参加でき なかったにもかかわらず、出演者の顔ぶれといい、内容といい、これだけ充実したガラ公演は珍しい。幕開きのデフィレから最後のカーテンコールまで、4時間 半にわたる長大な夕べだったが、一曲一曲がこの歴史的ガラの重みを実感させ、感動的だった。ベッシ-自身が、自分のお得意のレパートリーから親交の深かっ た現代振付家たちの作品まで、入念に選んだ結果だろうか。そしてなにより、シルヴィ・ギエムだったら『白鳥の湖』というように、教え子たちの美点を一番発 揮できるような演目が、並んでいた点が、名指導者の慧眼といえようか。
余談だが、このガラに関連して、ベッシーはテレビ番組のインタビューに応え、あまたの教え子の中から、特にパトリック・デュポン、シルヴィ・ギエム、マ リ=クロード・ピエトラガラの3人の名を挙げていた。今回ピエトラガラが出演できなかったのを残念がっていた(ちなみに彼女も現在おめでただが、マルセイ ユ・バレエ団を解雇され、今後が渾沌としている)。また、インタビュアーの「エトワールの任命に関しては全面的に同意できますか?」との問いに、「いい え、全然。でもそれは、私の決めることではありませんから」ときっぱり答えたのも、この人らしい。
なお、この公演に際し、ベッシーの足跡をたどった年譜を詳しく掲載した豪華なプログラムが制作されたほか、自伝『La Danse pour Passion』(JC Lattes 社刊)も出版された。

<白の組曲>

<白の組曲>より
シアラヴォラ&ブリダール
  さて、デフィレで幕を開けたプログラム前半。ピュジョルの代わりに抜てきされたコリフェのフルステーのリ-ズは愛らしく、アヴェルティのグルリは、確固と したオペラ座のスタイルを見せ、エトワールになったばかりのジローのクロエは、実にすがすがしい。そして『白の組曲』。オペラ座ならではの美のエッセンス を凝縮したもので、前半の白眉となった。テーム・ヴァリエのデルフィーヌ・ムッサンは確実、優雅で、シガレットのアニエス・ルテステュは堂々たるエトワー ルぶり、さらにアダージォとフルートの2曲を踊ったイザベル・シアラヴォラのシルエットの美しさは絶品で、この人のために上演された演目のような感さえ あった。マズルカは、ジャン=ギヨーム・バールがそつなく踊ったが、できれば予定通りル・リッシュで見たかったところ。
  後半は、オペラ座を離れたスターたちが顔をそろえ壮観だった。とりわけ、しばらく舞台を遠ざかっていたパトリック・デュポンに観客の視線が集中したのはい うまでもない。デュポンが踊ったのは、ベジャールの 『サロメ』の抜粋で、幕が上がった時、かなりボリュームのついたその後ろ姿に、観客は一瞬と惑ったようだった。扇子を大きく振りかざし、見えを切りながら 舞台を駆け巡るデュポン。万雷の拍手が降り注ぐ中、デュポンは、再び踊りへの情熱に目覚めたかのように見えた。聞くところによると、これからベジャールや ノイマイヤーの作品を踊ったり、舞台関係の学校を始める計画があるという。

デュポンと並ぶベッシーの秘蔵っ子であるギエムは、コール・ド・バレエを従え、ル・リッシュのサポートで、極め付けのオデットを披露。相変わらず瑞々しいシルエットには驚かさせる。アダージォだけだったので、もっと見たいという欲求にかられてしまった。
ヴュ=アンのソロは、ニジンスキーの『バラの精』を想起させ、現在アラン・プラテルのカンパニーで活躍するドゥロネは、キリアン作品で内面的エネルギーを強く感じさせた。実に個性的な面々が巣立っていったものだと改めて思う。

ベラルビの『バッハ組曲2』は、昨年の<ヌレエフ・ガラ>の際の古典的な衣裳から、白のシャツに黒のパンタロンというシンプルな舞台姿へと、装いも新た にお目見え。チェリストが舞台上で演奏するところなど、ロビンスの『ダンス組曲』を思い出させるが、子供たちの扱いも気が利いている。
現代作品の秀作は続き、ノイマイヤーの『ヨンダリング』は、バレエ学校時代にこの作品を踊ったセバスチャン・ベルトーやマチュー・ガニオ、ドロテ・ジル ベールら、バレエ団の若手精鋭たちが、再びこの作品のノスタルジックな魅力を蘇らせながら、会場を沸かせ、次のイレールの『7つのギリシャの踊り』のソロ は、精悍で、辺りを払うような威厳に満ち圧巻だった。

デュポンとルグリによるキリアン作品は、 ていねいな仕上がり。上演が珍しい作品では、ケリーの『パ・ド・デュー』が、ガ-シュウィンのピアノ・コンチェルトに乗ってなかなか粋。この作品は、 1960年ベッシーの主演で初演され、63年の日本公演でも踊られたもの。思いがけずアッバニャートやパケットの隠れた持ち味を発見した思いであった。
テクニックの醍醐味と言えば、ルテステュ、マルティネズ組による『シルヴィア』。このパ・ド・ドゥがオペラ座で上演されるのは初めてだが、切れ味のよい妙技の数々に心地よい興奮を感じた。
バレエ学校生徒たちによる『ニ短調のコンチェルト』で幕を閉じると、出演者全員が舞台に勢ぞろいし、ベッシー校長を中央に、カーテンコールがいつ果てるともなく続いた。

<サロメ>
パトリック・デュポン


<ギリシャの踊り>
ローラン・イレール

<白鳥の湖>第2幕よりアダージオ
ギエム&ル・リッシュ

<シルヴィア>パ・ド・ドゥ
ルテステュ&マルティネズ

<パ・ド・デュー>
アッバニャート&パケット

ベッシー・ガラのカーテンコール