ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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渡辺真弓 text by Mayumi Watanabe 
[2004.07.10]

●ベラルビの新作『結ばれた二人~ゴッホ兄妹』

カデール・ベラルビが、ヴィンセントとテオのゴッホ兄弟をテーマにした作品を考案中という話を聞いたのは、 確か、98年、東急文化村で行われた<ピカソとダンス>の企画で、『サルタンバンコ』を上演した後だったと思う。 それからしばらく時がたち、この企画は日の目を見ることになり、6月15日から19日まで、オペラ・バスティーユの地下にあるアンフィテアトルで新作披露 の日を迎えた。

天才画家のヴィンセントは、弟テオに、18年間にわたり、668通の手紙を書き、それは『ゴッホの手紙』としてまとめられ、世界中で出版されている。 ベラルビの創作のインスピレーションの源となったのはまずこの手紙だったそうだが、 彼は、この手紙を読んで汲み取れるような兄弟間の深い信頼や愛情といったものを劇的に表わすようなことはしていない。

バレエ団きっての美男子として、雑誌のファッション・ページに登場することの多いべラルビだが、今回の新作は、 彼の物静かな外見からは想像できないような力強い男性的魅力を押し出した作品となった。ニコラ・ル・リッシュとウィルフリード・ロモリという、 ベラルビが絶対の信頼を置く二人の個性的な演者を得て、両者の個性と存在感がそのまま作品のムードを作り上げたようだった。

ベラルビは、2年前、オペラ座のために『嵐が丘』を振付け、 昨年のヌレエフ・ガラや今年のベッシ-・ガラで披露したバッハ組曲のような古典舞踊のアレンジにもなかなかのセンスを見せるのだが、 今回は、完全にコンテンポラリー・ダンスの領域に入り、どちらかというとプレルジョカージュ振付の男性デュエット『ある関係』や人間の身体の問題に踏み込 んだ 『カサノヴァ』の世界を想起させるデュエットが誕生した。

ゴッホの手紙から、アントナン・アルトゥ-やフランシス・ベ-コンの世界へとのめり込み、ついには、プレルジョカ-ジュのグロテスクでアスレティックな、 身体の有り様を問いかける世界に行き着いたという感じである。

台本は、ベラルビとドミニク・ロートレ、音楽は、セルジオ・トマッシに委嘱したオリジナル、装置、衣裳は、ヴァレリー・ベルマン。 踊り手二人の他に女優のノラ・クリエフが台詞や手紙の一節を口に出すなどして二人とかかわっていく。 演出や振付には、まだ改訂の余地があるように感じられたものの、ル・リッシュとロモリの兄弟にとどまらない親密な関係が、 こじんまりした小劇場でまじかに迫ってくる面白さがあった。