ジルベール&ガニオ、オニール&ビッテンクールがラヴェルの音楽の魅力とともに踊った『ダフニスとクロエ』

ワールドレポート/パリ

三光 洋
Text by Hiroshi Sanko

Ballet de l'Opera national de Paris パリ・オペラ座バレエ団

"Daphnis et Chloé"Benjamin MILLEPIED "Boléro" Maurice BEJART
『ダフニスとクロエ』バンジャマン・ミルピエ:振付
『ボレロ』モーリス・ベジャール:振付

2月24日から3月24日までバスチーユ・オペラでモーリス・ラヴェルの音楽を使った二つの作品による公演が行われた。
前半は2014年5月に世界初演された『ダフニスとクロエ』だった。オペラ座バレエ監督就任を目前にしたバンジャマン・ミルピエが、オペラ座音楽監督のフィリップ・ジョルダンと組んで作り上げた作品。オペラ座のバレエ団とオーケストラとの一体化を目指したステファン・リスナー総監督の新路線が結実したものだ。わずか二年間でミルピエがバレエ監督を退任したために、この路線がとん挫してしまったのは残念な限りだ。

© Opéra national de Paris/ Little Shao

© Opéra national de Paris/ Little Shao

4年振りの再演は世界初演でエルヴェ・モローとオーレリー・デュポンが踊った主役二役に、マチュー・ガニオとドロテ・ジルベール、ヤニック・ビッテンクールとオニール八菜、マルク・モローとミリアム・ウルド=ブラーム、ジェルマン・ルーヴェとヴァランティーヌ・コラサントの4組が踊った。そのうちの最初の二組を見た。
第1キャストのガニオとジルベールの組み合わせは安定した技術に支えられ、息の合った演技を見せた。ドルコン役は初演に続いてアレッシオ・カルボーネだったが、ヒロインに横恋慕する牛飼いを表情豊かに描き出していた。ダフニスを誘惑するリセニオンにエレオノーラ・アバニャートが妖艶な姿態と視線でぴったりだったことは言うまでもない。
しかし、観客を熱狂させたのは海賊の頭ブリャクシス役で舞台狭しと飛び回ったフランソワ・アリュだった。 第2キャストのダフニス役はスジェのヤニック・ビッテンクールで若さにあふれる踊りを見せたものの、恋人を見やる視線といった細部においてはやはり経験を積んだガニオには及ばなかった。一方、ヒロイン、クロエ役のオニール八菜は気品あふれる物腰と優れたテクニックを発揮して、はつらつとした清純な羊飼いの娘らしい雰囲気を出していた。
誰にもよく知られ、ガルニエ宮のシャガールの天井画にも描かれているギリシャの物語を、わかりやすく振付けたミルピエの作品はラヴェルの音楽の魅力(フランスの若手マクシム・パスカルが切れ味のよい棒捌きでオペラ座管弦楽団・合唱団からラヴェルらしい優雅な情緒を引き出していた)もあいまって、オペラ座バレエ団のレパートリーとして定着しそうだ。

パリ・オペラ座バレエ団『ダフニスとクロエ』 (C) Opéra national de Paris/ Laurent Philippe

パリ・オペラ座バレエ団『ダフニスとクロエ』
(C) Opéra national de Paris/ Laurent Philippe

パリ・オペラ座バレエ団『ダフニスとクロエ』 (C) Opéra national de Paris/ Laurent Philippe

パリ・オペラ座バレエ団『ダフニスとクロエ』
(C) Opéra national de Paris/ Laurent Philippe

© Opéra national de Paris/ Little Shao

© Opéra national de Paris/ Little Shao

後半はモーリス・ベジャール振付の『ボレロ』。中央におなじみの赤い大きなテーブルが置かれ、周囲三方の椅子にずらりと男性ダンサーが座って舞台が始まった。3月31日のピナ・バウシュ振付『オルフェとユーリディス』で引退することが決まっているマリー=アニエス・ジロが舞台に立った。(全15公演のうち、5回出演。マチアス・エイマンとアマンディーヌ・アルビッソンもそれぞれ5回出演した)
スネアドラムが同じリズムを延々と繰り返す中で、オーケストラの音量が大きくなってクライマックスを迎える、というきわめて単純な音楽だが、テーブルの上のソロダンサーは15分間という長い時間、じょじょに動きを大きくしていかなければならない。前に見たニコラ・ル・リッシュの野性味にみち、エネルギーがほとばしるような動きは未だに忘れられない。今回、マリー=アニエス・ジロは身体が許す限りの動きを最大限に生かして、より内面的なアプローチによって全く違う『ボレロ』を見せてくれた。この演技には賛否があったようだが、現在これだけ舞台上で存在感のあるダンサーは少ないだけに、3月末での引退は寂しい限りだ。
(バスチーユオペラ 2月27日、3月1日)

Daphnis et Chloé『ダフニスとクロエ』

音楽 ラヴェル
振付 バンジャマン・ミルピエ(2014年)
装置 ダニエル・ビュレン
衣装 ホリー・ハイネス
照明 マジッド・ハキミ
配役(2月27日/3月1日)
クロエ オニール 八菜/ドロテ・ジルベール
ダフニス ヤニック・ビッテンクール/マチュー・ガニオ
リセニオン オーレリア・ベレ/エレオノーラ・アバニャート
ドルコン アリステール・マダン/アレッシオ・カルボーネ
ブリャクシス アントニオ・コンフォルティ/フランソワ・アリュ 他

Boléro『ボレロ』

配役(2月27日/3月1日)
マリー=アニエス・ジロ/マリ=・アニエス・ジロ
フランソワ・アリュ、アレッシオ・カルボーネ/オードリック・ブザール、ヴァンサン・シャイエ 他
パリ・オペラ座バレエ団
マクシム・パスカル指揮 パリ・オペラ座管弦楽団
合唱指揮 アレッサンドロ・ディ・ステファノ

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