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三光 洋 Text by Hiroshi Sanko 
[2018.01.10]

「今シーズンひとつ見るならこの作品」とデュポン監督が推奨した、アレクサンダー・エクマン振付『プレイ』

Ballet de l’Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団
“ Play” Alexander Ekman
『プレイ』アレクサンダー・エクマン:振付 (世界初演)

師走に入ったガルニエ宮でスウェーデンの振付家アレクサンダー・エクマン(33歳)の新作『プレイ』が上演された。エクマンはスウェーデン王立バレエ団、ネーザーランド・ダンス・シアターII とクルべリー・バレエで踊った後、2006年から振付家として30もの作品を欧州やアメリカで発表してきた。とりわけ、『Cacti』(2010年)、この欄でも取り上げた『白鳥の湖』(2014年)、DVDになった『真夏の夜の夢』(2016年)で話題を集めた。エクマンが初めてオペラ座のために作り上げた『プレイ』は、エトワールのステファン・ブリヨンからコール・ド・バレエに至る36人(男女各16名)のダンサーを使い、オーレリー・デュポン監督が「今シーズンの演目で一つ見るならこの作品」と推奨し、オペラ座バレエ団が総力を投入した約2時間の大作だ。

白いスラックスの4人のサックスフォーン奏者が序奏を演奏している間に、映画のようにクレジットタイトルが幕に映写されてスタートした。幕が開くと、壁面・床から衣装まで全てが白。天井には白い立方体がたくさん吊り下げられていた。後方が高い演壇になり11人のオーケストラがミカエル・カールソンのエレクトロ・ジャズ音楽を奏で始め、ダンサーたちが舞台を駆け回るところから遊戯の時間となった。ダンサーたちは袖からだけでなく、舞台奥にずらりと並んだドアから出たり入ったりした。

pari1801b_01.jpg ステファン・ブリヨン、ミュリエル・ジュスペルギ
(C) Opera national de Paris/ Ann Ray
pari1801b_03.jpg (C) Opera national de Paris/ Ann Ray

エクマンは「私たちは子供の時の遊びをやめてしまったのだろうか。」という問いから作品を構想した。前半はありとあらゆる種類の遊びがボール、リボン、トランポリンといったアクセサリーを駆使して白の空間で繰り広げられる。小学校の教諭を思わせる眼鏡をかけた女性が一人いるものの、「子供たち」のエネルギーを前にして立ち尽くすばかりだ。遊ぶ「子供たち」以外には、宇宙飛行士と上半身裸のオーレリアン・ウエットが大きく膨らんだスカートを穿いて歩き回っていた。

ずっと舞台にいるのは教諭と一人だけオレンジのTシャツを着たシモン・ル・ボルニュの二人だ。特にシモン・ル・ボルニュは狂言回しのような役を演じ、後半にズームアップされたスローモーションでのしかめっ面の映像がスクリーンに映し出された。

数多い遊びにはグループによるものと、二人でのものとがあったが、中でも目を惹いたのは、天井から降りてきた立方体の上に上った茶目っ気たっぷりのマリオン・バルボーがポワントを刻む度に、相方のシモン・ル・ボルニュがマイクを立方体の壁に当てて音を出すシーンだろう。他にはヴァンサン・シャイエとシルヴィア・サン=マルタンが抱き合って床を転げまわる恋愛遊戯もあり、遊びにヴァリエーションがあった。視覚的には、角を付けたヘルメットを被り、鹿に扮した女性たちがミュリエル・ジュスペルギを先頭にやや照明を落とした舞台を縦横に経めぐるシーンがきれいだった。

フランソワ・アリュとアンドレア・サーリによるヒップホップ風のデュオもあったのだが、これと言った特徴のある振付ではなかったのは残念だ。

「観客を驚かせる」のをモットーにしているエクマンの本領が発揮されたのは、天井から6万個の緑のプラスチックボールが降り注いだ場面だった。このボールは遊び道具であるだけでなく、休憩時間に大道具係が箒で掃くとオーケストラピットに次々に落下して、プールのようになって、新しい演技の空間を作り出した。このプロセスはピナ・バウシュの『春の祭典』で舞台一面に土がひかれる作業を思い起こさせた。

pari1801b_02.jpg (C) Opera national de Paris/ Ann Ray

休憩後の後半は一転して、「遊び」を卒業して灰色の背広を着た大人たちが仕事をする世界となった。時計によって分刻みに慌ただしく同じ動作を繰り返している。その傍らで、ヴァンサン・シャイエとシルヴィア・サン=マルタンがクラシックのアダージョをちょっと見せ、マイムの対話をする。また、ミュリエル・ジュスペルギとステファン・ブリヨンによるパ・ド・ドゥもあったが、このクラシック・バレエの挿入が何を意味しているのかは、不明瞭だった。その後、長いアンサンブルにつづいて、シモン・ル・ボルニュが舞台に一人残って、衣装を脱いでパンツ一枚になって退場し幕が下りた。それから再度幕が上がって、ダンサーたちとエクマン、ミカエル・カールソンが登場しカーテンコールになった。この後に最後のサプライズとして、再々度幕が上がると歌手のカリー・デイが舞台中央に現れ、ダンサーたちが客席に向かって大きなボールを投げ送り、平土間の観客たちがボールを回してから、舞台に送り返した。客席と舞台とが一体となったところで、本当のフィナーレとなった。

pari1801b_04.jpg シルヴィア・サン=マルタン、ヴァンサン・シャイエ
(C) Opera national de Paris/ Ann Ray
pari1801b_05.jpg マリオン・バルボー、シモン・ル・ボルニュ
(C) Opera national de Paris/ Ann Ray

スタンディングオベーションで終わった公演は視覚面に工夫が凝らされ、照明、装置、演技、ダンスといった多様な要素を総動員したエンターテイメントとしては成功を収めた。またオペラ座のダンサーたちが一丸となったエネルギーとチームワークには脱帽せざるを得ない。ただし、エクマンにスペクタクルに対する独自の才能があることは間違いないものの、ダンスの振付という点ではどこにも斬新さがなく、作品のメッセージが「現代人にはもっと遊びが必要」というあまりにもありふれたものに過ぎない点はちょっと気になった。

2018年2月初旬に発表される2018・19年度のプログラムを見なければまだはっきりしたことは言えないものの、オーレリー・デュポン監督が2017・18年シーズンのプログラム発表で強調していた「より多くの観客に開かれたオペラ座バレエ団」の新たな方向がこの作品には託されていたのかもしれない。
(2017年12月6日 ガルニエ宮、プルミエ)

pari1801b_06.jpg (C) Opera national de Paris/ Ann Ray

『プレイ』(世界初演)
音楽 ミカエル・カールソン
振付・装置 アレクサンダー・エクマン
衣装 アレクサンダー・エクマン、グザヴィエ・ロンゼ
照明 トム・ヴィッサー
ヴィデオ T.M.リーヴズ
歌手 カリー・デイ
ダンサー ミュリエル・ジュスペルギ、マリオン・バルボー、オーレリア・ベレ、アリス・カトネ、シルヴィア・サン=マルタン、イダ・ヴィキンコスキ、ジュリエット・イレール、ローレーヌ・レヴィ、シャルロット・ランソン、ジェニファー・ヴィゾッキ、クレール・ガンドルフィ、マリオン=ゴーチエ・ド・シャルナセ、クレマンス・グロス、カロリーヌ・オズモン、ソフィア・ロゾリーニ、チェルシー・アドメティス、マルゴー・ゴーディ=タラザック、シャンティ・ムージェ

ステファン・ブリヨン、フランソワ・アリュ、ヴァンサン・シャイエ、オーレリアン・ウエット、アリステール・マダン、マルク・モロー、ジェレミー=ルー・ケール、ダニエル・ストークス、シモン・ヴァラストロ、イヴォン・デュモル、アレクサンドル・ガス、アントワーヌ・キルシャー、ミカエル・ラフォン、ユゴー・ヴィオレッティ、タケル・コスト、シモン・ル・ボルニュ、アントナン・モニエ、アンドレア・サーリ