ウルド=ブラームとパケット、パリエロとエイマンが闊達に踊り、ジルベール、オニールなどが舞台を彩った『ドン・キホーテ』

Ballet de l'Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団

" Don Quichotte" Rudolf NOUREEV
『ドン・キホーテ』ルドルフ・ヌレエフ:振付

ガルニエ宮でアレクサンダー・エクマン振付『プレイ』が上演されている間、バスチーユ・オペラでは『ドン・キホーテ』がクラシック・バレエのファンを集めた。12月11日のプルミエから1月6日の最終公演までの18公演だった。2016年末の『白鳥の湖』では、ジェルマン・ルーヴェとレオノール・ボーラックの二人のエトワールが誕生したが、今年度も最終日前日の1月5日にヴァランティーヌ・コラサントがエトワールに任命された。この結果オペラ座のエトワールは男性8名、女性11名となった。
今回のシリーズでのキトリ、バジルには、リュドミラ・パリエロとマチアス・エイマン、ミリアム・ウルド=ブラームとカール・パケット、レオノール・ボーラックとジェルマン・ルーヴェ、ドロテ・ジルベールとポール・マルク、リュドミラ・パリエロとパブロ・ラガサ、イサベラ・ボイルストン(ABT客演)とマチュー・ガニオ、ミリアム・ウルド=ブラームとマチアス・エイマン、アリス・ルナヴァンとイサック・フェルナンデーズ(ENB客演)、ヴァランティーヌ・コラサントとカール・パケットの9カップルが起用された。当初予定されたユゴー・マルシャン、アマンディーヌ・アルビッソン、ジョシュア・オファルトは残念ながら怪我で降板した。
このうち、ミリアム・ウルド=ブラームとカール・パケット(12月13日)、リュドミラ・パリエロとマチアス・エイマン(12月14日)の二組を見ることができた。

ミリアム・ウルド=ブラーム (C) Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

ミリアム・ウルド=ブラーム (C) Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

ヴェテランのカール・パケットは来シーズン、ヌレエフ振付『シンデレラ』で引退する予定だが、最後まで技術的にも、体力的にもむずかしいバジルを4公演踊った。細かなフォローでバートナーが安心して踊れる環境を作り、相手の魅力を引き出しているのは、客席から見ていて気持ちが良い。ミリアム・ウルド=ブラームはちょっとお茶目な、優しい女性像を軽やかに演じていた。ロマンティック・バレエのヒロインにぴったりのダンサーだけに、この役にはちょっと品が良すぎる印象があったが、それはパートナーのカール・パケットもどうしても王子のイメージが強く、床屋という風采からは遠かったからかもしれない。フランソワ・アリュのような庶民的なタイプの男性が相手役だったら印象が変わっていた可能性がある。しかし、二人の心の通い合いはていねいな視線のやり取りやさりげない身ごなしからはっきりと伝わってきた。オニール八菜は街の踊り子で登場したが、卓越したテクニックと艶やかな姿で舞台に花を添えていた。闘牛士エスパーダ役のフロリアン・マニュネやジプシー役のポール・マルクといった脇役も健闘していた。

オニール 八菜 (C) Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

オニール 八菜
(C) Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

ウルド=ブラーム、アリス・ルナヴァン (C) Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

ウルド=ブラーム、アリス・ルナヴァン
(C) Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

第2幕第2場のドン・キホーテが夢を見る場面にはアマンディーヌ・アルビッソン(森の精たちの女王)とドロテ・ジルベールの女性エトワールが二人登場した。ドロテ・ジルベールはキューピッドをヴェテランらしい安定した技術と演技で踊り、登場した時間は限られていながら観客に強い印象を与えた。

翌晩(12月14日)は12月11日のプルミエを踊った第1キャストだった。リュドミラ・パリエロは舞台に現れた時から、スピード感のある、切れ味の良い動きと視線や肩越しにバジルを見やる色香にあふれる表情やまなざしによって、おきゃんな旅籠屋の娘にぴったりだった。アルゼンチン生まれのラテン系という点もキトリに重なった。パリエロのあふれんばかりのエネルギーに触発されたマチアス・エイマンも、普段のロマンティックな王子役の殻を脱ぎ捨てて、若さの横溢したバジルに変身した。エイマンが口元に付けた髯もこの変貌に一役買っていたのかもしれない。高い跳躍ときれいな脚の動きはエイマンならではのものだったろう。第3幕の結婚式でのパ・ド・ドゥに観客から大きな拍手が送られたのは言うまでもない。

ドロテ・ジルベール (C) Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

ドロテ・ジルベール
(C) Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

パリエロと呼吸の合ったカップルを演じただけでなく、キトリの友人のオニール八菜、セ・ウン・パクとの三人の場面も華やかでエネルギーが弾けていた。第2幕第2場ではドロテ・ジルベールがキューピッド役でこの晩も観客の目を奪っていた。
前回まではガルニエ宮が会場だっただけに、バスチーユ・オペラの巨大な空間はやはり舞台と客席との距離が大きく感じられた。しかし、パリ・オペラ座管弦楽団を率いたヴァレリー・オヴシアニコフの指揮はこのマイナスを忘れさせてくれた。レオン・ミンスクの音楽は彼の後任となったチャイコフスキーの水準には程遠いものだが、ツボを押さえた指揮によって、舞台音楽として効果的な響きが引き出され、舞台を盛り立てた。
(2017年12月13、14日 バスチーユ・オペラ)

マチアス・エイマン (C) Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

マチアス・エイマン
(C) Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

リュドミラ・パリエロ  (C) Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

リュドミラ・パリエロ 
(C) Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

ミリアム・ウルド=ブラーム (C) Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

ミリアム・ウルド=ブラーム
(C) Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

セ・ウン・パク、オニール 八菜 (C) Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

セ・ウン・パク、オニール 八菜
(C) Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

マチアス・エイマン (C) Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

マチアス・エイマン (C) Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

『ドン・キホーテ』序幕付き3幕バレエ
原作 セルヴァンテス
音楽 レオン・ミンスク
編曲 ジョン・ランチベリ
振付・演出 ルドルフ・ヌレエフ
原振付 マリウス・プティパ
装置 アレクサンドル・ベラエフ
衣装 エレナ・リヴキナ
照明 フィリップ・アルバリック
配役 (12月13日/14日)
キトリ ミリアム・ウルド=ブラーム/リュドミラ・パリエロ
バジル カール・パケット/マチアス・エイマン
エスパーダ フロリアン・マニュネ/オードリック・ブザール
街の踊り子 オニール八菜/ヴァランティーヌ・コラサント
ドン・キホーテ アレクシス・ルノー/ヤン・シャイユー
サンチョ エルヴァン・ル・ルー/エルヴァン・ル・ルー
ガマシュ シリル・ミティヤン/シリル・ミティヤン
ロレンゾ サミュエル・ミュレーズ/ニコラ・ポール
キトリの友人 シャルリーヌ・ギーゼンダンナー、セヴリーヌ・ヴェスターマン/八菜 オニール、セ・ウン・パク
ジプシー セバスチャン・ベルトー/ポール・マルク
黒衣の男 シリル・シュークルーン/ヤニック・ビッテンクール
森の精の女王 アリス・ルナヴァン/アマンディーヌ・アルビッソン
キューピッド ドロテ・ジルベール/ドロテ・ジルベール

ワールドレポート/パリ

[ライター]
三光 洋

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