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三光 洋 Text by Hiroshi Sanko 
[2017.06.12]

フォーサイスの2作とデュシャンの作品をモティーフにしたカニンガム作品が踊られた

Ballet de l’Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団
“Walkaround Time” Merce CUNNINGHAM、 “Trio” “Herman Schmerman” William FORSYTHE
『ウォークアラウンド タイム』マース・カニンガム:振付、『トリオ』『ハーマン・シュマーマン』ウイリアム・フォーサイス:振付

春のガルニエ宮の公演は、20世紀のダンスに新しいスタイル築いたカニンガムとクラシック・バレエの伝統を再構築し新しい地平を切り開いたフォーサイスの作品を取り上げた。マーサ・カニンガム(1919・2009)の狙いは、それまで音楽と一体となっていたダンサーの動きを独立したものにすることにあったらしい。

pari1706b_05.jpg 『ヘルマン・シュメルマン』(C) Opéra national de Paris / Ann Ray
pari1706b_W01.jpg 『ウォークアラウンド・タイム』
(C) Opéra national de Paris / Ann Ray

前半は『ウォークアラウンド・タイム』という奇妙な題のカニンガムが1968年に発表した作品だった。この題名は当時、技術者がコンピューターにデータを入れた後で、機械が情報をインプットして消化するまで待っている状態を指す表現からきている。作品はカニンガムが崇拝していたニューヨーク在住のフランスの美術家で先鋭的なダダイストだったマルセル・デュシャン(1887・1968、モナリザに髯を付け加えた「L.H.O.O.Q.」で広く知られている)へのオマージュとなっており、全体はそれぞれが約七分間のシークエンス七つからできている。
舞台にはデュシャンの絵「彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも」(通称「大ガラス」、1915から1923年制作)を部分的に貼ったプラスチック製の透き通った箱が四つ置いてある。最初は音がなかったが、やがて時計の秒針が刻むような音とともにダンサーがウォーミングアップのように身体を機械的に動かし始めた。砂利道を歩く人の足音、自動車が通り過ぎる音、デフォルメされたデュシャンの言葉が聞こえている間に、ダンサーたちはそれとは別に関係なく歩いたり、一人のダンサーを他の人たちがまるで彫像を持ち上げるようにして、左奥から右奥に移動して床に下ろしたりする。謎めいていて、時間の流れが現実とはかけ離れている不思議な舞台だ。途中で急に天井のシャンデリアに明かりがついて、ダンサーたちは動きを止めた。アルゼンチンタンゴが流れている間、休憩時間に入ったかのように、水を飲んだり、お互いにおしゃべりしたりする。再度シャンデリアの明かりが消えるとダンスが始まり、最後にはバラバラだった箱をダンサーたちが一か所に集まり、その背後でポーズを取ったところで幕が下りた。
意外性に富み、ユーモアあふれる作品だが、通常のダンスとは違うコンセプトでできているために、一部の観客は戸惑いを覚えたようだった。

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pari1706b_W11.jpg 『ウォークアラウンド・タイム』(C) Opéra national de Paris / Ann Ray

後半はウイリアム・フォーサイス(1949 -)振付の二作品が並んだ。1966年にフランクフルト・バレエ団のために作られた男性二人、女性一人の三人による『トリオ』で始まった。三人は肘、肩、尻といった身体の一部を観客に向かって見せびらかす。やがてベートーヴェン作曲『弦楽四重奏曲第15番』の第2楽章が流れ始めたが、途中で途切れた。しばらくして曲が同じところから始まったが、再度休止する。音楽と同様に、ダンサーたちの動きもまた新しい地点から再スタートする。女性はエレノール・ゲリノー、男性は7日がマクシム・トマとユゴー・ヴィオレッティ、13日にはファビアン・レヴィヨンとシモン・ヴァラストロがいずれもユーモアたっぷりに演じた。

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『トリオ』(C) Opéra national de Paris / Ann Ray
pari1706b_06.jpg 『ヘルマン・シュメルマン』
(C) Opéra national de Paris / Ann Ray

次の『ヘルマン・シュメルマン』はニューヨーク・シティ・バレエ団が1992年に初演した作品に、最後のデュオが4か月後にフランクフルト・バレエ団の公演に際して付け加えられて完成している。
前半のパ・ド・サンクは、トム・ヴィレムスのテンポの速い音楽に乗って5人のダンサーたちの動きが途切れることがない。オニール八菜(7日)をはじめとする敏捷そのもののダンサー五人のエネルギッシュな動きに目を奪われているうちに、13分間はあっという間に過ぎ去っていた。後半はフォーサイスが夫人のトレーシー=カイ・マイヤーとマーク・スプラッドリングのために振付け、フランスではシルヴィ・ギエムが踊って有名になったパ・ド・ドゥである。躍動的なフランソワ・アリュと流麗でリズミカルなエレオノーラ・アバニャートの息がぴったりとあった7日に対して、13日はのびやかなオニール八菜に対して、ユゴー・マルシャンがいつになく大柄な身体を持て余しているかのようで今一つエネルギーが放射されないままに、あっけなく終わってしまったのが残念だった。

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『ヘルマン・シュメルマン』(C) Opéra national de Paris / Ann Ray

本シリーズの最後の三公演では、ジェレミー・ベランガールが5月13日のアデュー公演のために新たに創作した『Scary beauty』が特別に上演された。この20分間のビデオ映像と渋谷啓一郎のライブ演奏を使ったソロというオリジナルな作品で、個性的なエトワールはオペラ座の舞台に別れを告げた。ベランガールはこれからも今まで通りに振付家、ダンサーとして独自の活動を続けていくようだ。
http://www.chacott-jp.com/magazine/news/other-news/post-189.html
(2017年5月7日ソワレ、5月13日 ガルニエ宮)

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『ヘルマン・シュメルマン』(C) Opéra national de Paris / Ann Ray

『ウォークアラウンド タイム』(レパートリー入り)
音楽 デーヴィッド・ベーアマン『For nearly one hour』
台詞 マルセル・デュシャン「独身者たちに裸にされた花嫁、さらに」より抜粋
振付 マース・カニンガム(1968年)
装置原案 マルセル・デュシャン
衣装原案 ジャスパー・ジョーンズ
照明 ベヴァリー・イーモンズ
ダンサー チェルシー・アドメティス、ヴィクトワール・アンクティ、ジョセフ・オメール、カロリーヌ・ヴァンス、ジャン=バティスト・シャヴィニエ、ウージェニー・ドリオン、アメリー・ジョアニダス、シモン・ル・ボルニュ、アントナン・モニエ(7日)
ジュリアン・コゼット、リュシー・フェンヴィック、グレゴリー・ガイヤール、ローランス・ラフォン、シモン・ル・ボルニュ、ソフィー・マイユ―、ジュリアン・メザンティ、ソフィア・パルサン、ニノン・ロー(13日)

『トリオ』
音楽 ベートーベヴェン『弦楽四重奏曲第15番 作品132』
振付・装置・照明 ウイリアム・フォーサイス
照明 ステファン・ギャロウェイ
ダンサー エレオノール・ゲリノー、マクシム・トマ、ユゴー・ヴィオレッティ(7日) エレオノール・ゲリノー、ファヴィアン・レヴィヨン、シモン・ヴァラストロ(13日)

『ヘルマン・シュメルマン』
音楽 トム・ヴィレムス
振付・装置・照明 ウイリアム・フォーサイス(1992年)
衣装 ウイリアム・フォーサイス ジャンニ・ヴェルサーチェ
ダンサー エレオノーラ・アバニャート、フランソワ・アリュ
オニール八菜、ロクサーヌ・ストヤノフ、クレマンス・グロス、ヴァンサン・シャイエ、パブロ・レガサ(7日)
オニール八菜、ユゴー・マルシャン
アメリ―・ベレ、ロクサーヌ・ストヤノフ、クレマンス・グロス、ヴァンサン・シャイエ、パブロ・レガサ(13日)

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『ヘルマン・シュメルマン』(C) Opéra national de Paris / Ann Ray