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三光 洋 Text by Hiroshi Sanko 
[2017.06.12]

オニールとマルシャン他が踊ったバランシン『ラ・ヴァルス』他、ラヴェルの音楽よる3曲が上演された

Ballet de l’Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団
“La Valse” George BALANCHINE “En Sol” Jerome ROBBINS “Boléro” Sidi Larbi CHERKAOUI, Damien JALET
『ラ・ヴァルス』ジョージ・バランシン:振付、『アン・ソル』ジェローム・ロビンズ:振付、『ボレロ』シディ=ラルビ・シェルカウイ&ダミアン・ジャレ:振付

5月に入ってからガルニエ宮ではバランシンの『ラ・ヴァルツ』、ロビンズの『アン・ソル』にシディ=ラルビ・シェルカウイとダミアン・ジャレ振付による『ボレロ』といういずれもモーリス・ラヴェルの音楽を使った作品が並んだ夕べが開かれた。

pari1706a1_03.jpg 『ラ・ヴァルツ』(C) Opéra national de Paris / Laurent Philippe
pari1706a1_05.jpg 『ラ・ヴァルツ』
(C) Opéra national de Paris / Laurent Philippe
記事当日の写真ではありません

公演はバランシンの『ラ・ヴァルツ』(1951年初演)で始まった。ラヴェルが1912年に作曲した「高雅で感情的なワルツ」の8曲と1920年作曲の「ワルツ」をバックにした35分にひとつのドラマが織り込まれている。
導入に使われている第1のワルツが終わると幕が上がり、バーバラ・カリンスカによる洗練されたチュールを素材にしたオレンジや紫の色の長いスカートがひるがえると、古いヨーロッパの優雅な社交界が目の前に姿を現した。今回も若手からベテランまで多くのダンサーが登場したが、第5・6ワルツにはオニール八菜がエトワールのユゴー・マルシャンを相手に気品のある姿を見せてくれた。なお、オニールは7月の『ラ・シルフィード』公演の最終日7月16日(マチネ)にヒロインを踊ることが決まっている。
華やかな世界は観客の目を楽しませていたが、ラヴェルが「われわれは火山の上で踊っている」と楽譜の余白に書き込んだように、この旧世界は徐々に破滅へと向かっていく。ダンサーたちの身振りは次第に複雑になっていって、腕が十字の形で交差したりする。

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『ラ・ヴァルツ』(C) Opéra national de Paris / Laurent Philippe

第8のワルツと1920年の「ワルツ」が流れる場面になると、白いドレスをまとった女性とダンディのカップルが踊る。ここに、黒い衣装の不気味な男性が現れ、女性は彼から遠ざかろうとする。しばらくすると、突如として他の踊り手たちが床に崩折れ、女性のパートナーのダンディは動けなくなる。照明は女性と死神である黒衣の男とに当てられる。最初は拒もうとしたものの、女性は死神が差し出した黒の長手袋をはめ、黒いショールを被って踊り息絶える。
レティシア・プジョルが死神を前にした不安におののき、抗いながらも否応なく相手に惹きつけられていく女性の姿を表情豊かに演じた。カール・パケットとステファン・ブリヨンはことの成り行きに、最初は驚いたものの、取り返しがつかないと分かった途端に、実にシニカルに女性の死体を舞台後方へと引きずっていった。
ラヴェルが音符に託した社交界への批判を、鮮やかな舞台に仕立て上げたバランシンの振付には毎度のことながら圧倒された。

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『ラ・ヴァルツ』(C) Opéra national de Paris / Laurent Philippe
pari1706a2_05.jpg 『アン・ソル』
(C) Opéra national de Paris / Laurent Philippe

休憩後は1975年にニューヨーク・シティ・バレエ団がラヴェルの生誕百年を記念して開いたフェスティヴァルでジェローム・ロビンズが発表した『アン・ソル』(当初の題名は英語で『In G Major』だったが、同じ年にパリ・オペラ座のレパートリーに入った時にフランス語の題名が与えられた。言語の違いだけで「ト長調」という意味は変わらない。)
死神の登場する影のあるバランシン作品から一転して、抜けるような明るい青色で描かれた海と雲の背景画(当時一世を風靡した衣装、装置家のエルテの作品)によって、真夏の海辺に場面が変わった。ダンサーたちは青、緑、紫のパステルカラーの衣装を身にまとって、軽やかに陽気な雰囲気が舞台一面に広がった。
主役のカップルは昨年末に相次いでエトワールとなったレオノール・ボーラックとジェルマン・ルーヴェの若々しいカップルもよかったが、ミリアム・ウルド=ブラームとマチアス・エイマンの二人からは、ためらいがちに、恥じらいながら初めて異性に惹きつけられていく男女の心が、視線や表情から手に取るように伝わったきた。ベテランのエマニュエル・ストロセールのピアノ独奏、フランスの若手マクシム・パスカル指揮によるパリ・オペラ座管弦楽団も小気味の良い演奏だった。

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pari1706a2_08.jpg 『アン・ソル』(C) Opéra national de Paris / Laurent Philippe
pari1706a3_07.jpg 『ボレロ』
(C) Opéra national de Paris / Laurent Philippe

最後は2013年5月に世界初演されたシェルカウイとジャレが振付けた『ボレロ』だった。初演時にはオーレリー・デュポン、マリー=アニエス・ジロ、ジェレミー・ベランガールらのエトワールがそろって登場したのに対し、今回エトワールでは作品の最初と最後に黒のマントを羽織ってあらわれる役を演じたアリス・ルナヴァン一人だけだったが、骸骨をプリントした白の衣装に顔を黒く隈取りされたダンサーたちは揃って熱演していた。巨大な鏡を斜めに置いたマリナ・アブラモヴィッチの装置とウルス・シェーネバウムの巧妙な照明は効果的だった。
しかし、ラヴェルの音楽は単純なモチーフの繰り返しでありながら、最後に向かって巨大なクレッシェンドとなって緊迫感を盛り上げていく。モーリス・ベジャールの振付がこの特徴を見事にとらえていたのに対して、ダンサーたちを一貫して回転させ続けるシェルカウイとジャレの振付は変化に乏しいのが残念だったが、観客からは熱狂的な拍手をもって迎えられていた。

いずれにせよ、初演が1951年、1975年、2003年の三作品を続けて見ると、ほぼ半世紀の時間の経過がバレエ作品の振付の変遷に明瞭に現れていて、興味深いプログラムだった。演奏はマクシム・パスカル指揮パリ国立オペラ座管弦楽団。
(2017年5月16日、24日 ガルニエ宮)

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『ボレロ』(C) Opéra national de Paris / Laurent Philippe

『ラ・ヴァルス』
音楽 モーリス・ラヴェル
振付 ジョージ・バランシン(1951年)
装置 ジャン・ローゼンタール
衣装 バーバラ・カリンスカ
照明 ジャン・ローゼンタール
配役(5月16日、24日)
I「高雅で感傷的なワルツ」
第2ワルツ マリーヌ・ガニオ、藤井美帆、クレール・ガンドルフィ/ファニー・ゴルス、ロール=アデライド・ブーコー、エミリー・アズブーン
第3ワルツ メラニー・ユレル、エマニュエル・ティボー/メラニー・ユレル、エマニュエル・ティボー
第4ワルツ セ・ウン・パク、ジェレミー=ルー・ケール/ヴァランティーヌ・コラサント、オードリック・ブザール
第5・6ワルツ オニール八菜、ユゴー・マルシャン/オニール八菜、ユゴー・マルシャン
第7ワルツ ジェレミー=ルー・ケール、マリーヌ・ガニオ、藤井美帆、クレール・ガンドルフィ/ユゴー・マルシャン、ファニー・ゴルス、ロール=アデライド・ブーコー、エミリー・アズブーン
第8ワルツ レティシア・プジョル、カール・パケット/レティシア・プジョル、ステファン・ブリヨン
II「ワルツ」
レティシア・プジョル、カール・パケット/レティシア・プジョル、ステファン・ブリヨン
死神 オードリック・ブザール/フロリアン・マニュネ
メラニー・ユレル、エマニュエル・ティボー、セ・ウン・パク、ジェレミー=ルー・ケール、オニール八菜、ユゴー・マルシャン/ミュリエル・ジュスペルギ、エマニュエル・ティボー、ヴァランティーヌ・コラサント、オードリック・ブザール、オニール八菜、ユゴー・マルシャン 他

『アン・ソル』
音楽 ラヴェル「ピアノ協奏曲 ト長調」
振付 ジェローム・ロビンズ
本公演指導 クロチルド・ヴァイエ
装置・衣装 エルテ
照明 ジェニファー・ティプトン
ピアノ独奏 エマニュエル・ストロセール
ダンサー レオノール・ボーラック、ジェルマン・ルーヴェ 他/ミリアム・ウールド=ブラーム、マチアス・エイマン 他

『ボレロ』
音楽 ラヴェル
コンセプション シディ=ラルビ・シェルカウイ、ダミアン・ジャレ、マリナ・アブラモヴィッチ
振付 シディ=ラルビ・シェルカウイ、ダミアン・ジャレ(2013年)
装置 マリナ・アブラモヴィッチ
衣装 リッカルド・ティスチ
照明 ウルス・シェーネバウム
ダンサー(シングルキャスト)アリス・ルナヴァン、レティツィア・ガローニ、ジュリエット・イレール、シャルロット・ランソン、アンブレ・キアルコッソ
ヴァンサン・シャイエ、マルク・モロー、ダニエル・ストークス、アドリアン・クヴェ、アレクサンドル・ガス、アクセル・マリアーノ、アンドレア・サーリ