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三光 洋 Text by Hiroshi Sanko 
[2017.03.10]

プティパ以来のバレエの枠組みを破壊し、驚くべき想像力の連鎖により激烈なスペクタクルを創造したフォーサイス『インプレシング・ザ・ツァー』

Semperoper Ballet, Dresden ドレスデン ゼンパー歌劇場バレエ団(引越公演)
"Impressing the Czar” William FORSYTHE 『インプレシング・ザ・ツァー』ウィリアム・フォーサイス:振付

パリ・オペラ座恒例の年初招聘公演に、今年は初めてドイツのゼンパー歌劇場バレエ団が招かれた。ザクセン候の宮廷都市だったドレスデンにあるドイツ有数のバレエ団で、2006年からフランクフルト・バレエ団でフォーサイスに学び、その後アシスタント・コレグラファーとなったカナダ人アーロン・ショーン・ワトキンがバレエ監督を務めている。

pari1703a_01.jpg (C) Opéra national de Paris/ Laurent Philippe

引越し公演に選ばれたのはフォーサイスが1988年にフランクフルト・バレエ団のために振付けた4部構成の大作『インプレシング・ザ・ツァー』だった。この作品は世界初演の前年にパリ・オペラ座で現在の第2部『イン・ザ・ミドル・サムホワット・エレベイテッド』がイザベル・ゲラン、シルヴィ・ギエムらによって独立して初演され、従来なかったダンスのスタイルとオランダの現代作曲家トム・ウィレムスのつんざくような音の連続が大きな反響を呼んだ。パリでは2012年にシャイヨ劇場でフランドル王立バレエ団により上演され、齊藤亜紀とウィム・ファンレッセンの傑出したデュオが高く評価されている。
ゼンパー歌劇場バレエ団には本公演に出演した藤本かな子、綱木彩葉、山田夏生といった日本人や、昨年プランシパルに昇進し、本公演でも優れた演技を披瀝した韓国人サングン・リーのように欧州だけでなく、世界各地からダンサーが集まっている。パリ・オペラ座バレエ団の身長から体形、顔の輪郭まで酷似したダンサーたちに見慣れているだけに、ドレスデンのダンサーの多様性がまず目に付くとともに、どのダンサーからも踊る喜びが周囲に拡散するエネルギーとなって客席まで伝わってきた。

第1部「ポチョムキンの署名」にはミカエル・サイモンが考案した巨大なチェス盤と修復中の西洋名画を配した「絢爛豪華」な装置が置かれていた。金箔をふんだんに使った小道具も華美だ。べートーヴェンの「弦楽四重奏曲第14番嬰ハ短調op.131」や、これをトム・ウィレムスが編曲した音楽が流れ、豪華な衣装をまとったダンサーが登場する、というクラシックなバレエを思わせる要素がある。その一方で、裸足で上半身裸のピーナッツ氏(ジュリアン・アミール・レイシー)が弓を手にして歩き回り、白黒の制服の生徒に扮した女性ダンサーたちがたわいない台詞をしゃべったり、といった演劇的な要素とダンスとがないまぜになっている。筋はありそうでいて、脈絡がなく混沌としている。

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Photos:(C) Opéra national de Paris/ Laurent Philippe

しばしば独立して上演される第2部「イン・ザ・ミドル・サムホワット・エレベイテッド」は一転して床には何もない裸の舞台で、トム・ウィレムスの電子音楽がダンサーのテンポの速い、激しい動きを支える。天井からは二つの金色のサクランボが吊り下がり、題名を喚起していた。9人のダンサーが登場した中で、藤本かな子のきびきびした動きが目に付いた。

第3部「ラ・メゾン・ド・メッツォ・プレッツォの家」の競売の場面では客演女優のヘレン・ピケットがアグネス役で活躍し、再度、演劇的な要素が前面に出た。黄金の衣装をまとった男性がオークションにかけられるが、途中で矢によってピーナッツ氏が殺されてしまう。荒唐無稽な「筋」だが、目まぐるしいダンサーたちの動きに目を奪われているうちに、舞台はなめらかに進行していく。

第4部「ボンボ・ボンゴ・ナゲーラ」の狂ったような輪舞は、女子生徒の服装のコール・ド・バレエが圧巻だった。この踊りの輪の中心に倒れていたミスター・ピーナッツが復活する第5部「ミスター・ピーナッツ・ゴーズ・トゥ・ザ・ビッグ・トップ」で「筋」は完結した。

プティパ以来のクラシック・バレエの枠組みを驚くべき想像力の連鎖によって破壊しながら、全体として一つのまとまったスペクタクルを作り上げたフォーサイスの世界が、ゼンパー歌劇場バレエ団のエネルギーあふれるダンサーたちによって繰り広げられた。フォーサイスと音楽を担当したトム・ウィレムスの二人もパリまで足を運び、作品を入念に仕上げるという力の入った公演に客席からは大きな拍手が送られていた。

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Photos:(C) Opéra national de Paris/ Laurent Philippe

(2017年1月7日 ガルニエ宮)
『インプレシング・ザ・ツァー』
音 楽 トム・ウィレムス、レスリー・スタック、エヴァ・クロスマン=ヘヒト、ベートーヴェン
装置・照明 マイケル・サイモン、ウィリアム・フォーサイス
衣 装 ウィリアム・フォーサイス、フェリアル・ミューニッヒ(第1・3・4部)
プロダクション キャサリン・ベネッツ

第1部「ポチョムキンの署名」
音 楽 ベートーヴェン「弦楽四重奏曲第14番嬰ハ短調op.131」、レスリー・スタック、トム・ウィレムス
テキスト ウィリアム・フォーサイス、キャサリン・フィッツジェラルド、リチャード・ファイン、ヘレン・ピケット
配 役
アグネス ヘレン・ピケット
ローザ ラケル・マルティネーズ
ロジャー・ヴィルコ クレイグ・ダヴィドソン
ピーナッツ氏 ジュリアン・アミール・レイシー、他

第2部「イン・ザ・ミドル・サムホワット・エレベイテッド」
音 楽 トム・ウィレムス
ダンサー 藤本かな子、エイダン・ギブソン、ジェニー・ローダディオ、サングン・リー、アリス・マリアニ、アンナ・メルクロヴァ、トーマス・ビーツカ、ヒューストン・トマス、デニス・ヴィジニー

第3部「ラ・メゾン・ドゥ・メッツオ・プレッツォ」
音 楽 エヴァ・クロスマン=ヘヒト
テキスト ウィリアム・フォーサイス、キャサリン・フィッツジェラルド
配 役
アグネス ヘレン・ピケット
ローザ ラケル・マルティネーズ
ピーナッツ氏 ジュリアン・アミール・レイシー、他

第4部「ボンゴ・ボンゴ・ナゲーラ」

第5部「ミスター・ピーナッツ・ゴーズ・トゥ・ザ・ビッグ・トップ」
音 楽 トム・ウィレムス
配 役
ピーナッツ氏 ジュリアン・アミール・レイシー、他