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三光 洋 Text by Hiroshi Sanko 
[2016.03.10]

オニール八菜がマチュー・ガニオ、ジェルマン・ルーヴェと『ゴールドベルク変奏曲』を踊った

Ballet de l’Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団
"Tombe" Jérôme Bel, "La nuit s'achève" Benjamin Millepied, "Les Variations Goldberg" Jérôme Robbins,
『墓場』ジェローム・ベル:振付、『夜の終わり』バンジャマン・ミルピエ:振付(2月20日を除く)、『ゴールドベルク変奏曲』ジェローム・ロビンズ:振付/(2月20日のみ)『イン・ザ・ナイト』ジェローム・ロビンズ:振付、『ル・パルク』アンジュラン・プレルジョカージュ:振付

パリ・オペラ座は2月にガルニエ宮でジェローム・ベルとバンジャマン・ミルピエの新作にロビンズの『ゴールドベルク変奏曲』と三作品を上演した。最終日はエトワールのバンジャマン・ペッシュのさよなら公演となり、演目が一部変更された。
公演はジェローム・ベル(1964年生)の新作『墓地』で始まった。ベルは1983年にアヴィニョン演劇祭でピナ・バウシュの『ネルケン』とアンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルの『Rosas danst Rosas』を見てコンテンポラリー・ダンスの世界に入り、ダンサーからNon danse(踊らないダンス)の振付家になった人で、すでにパリ・オペラ座でソロ作品『ヴェロニック・ドワノー』が上演されている。
今回、ベルは新作を作るために、オペラ座のダンサーたちに本来ガルニエで自分のパートナーとして踊ることはありえない人とのデュオを提案してほしい、と呼びかけた。これに対する多くの案の中から3つのシナリオが選ばれ、約30分の作品となった。

pari1603a1_01.jpg 『墓場』(C) Opéra national de Paris/ Benoite Fanton

幕が上がると舞台上に『ジゼル』第2幕の森と墓地、後方に教会という張りぼての装置が現れた。客席からは見えない袖の向こう側にいる二人の会話がマイクを通して聞こえてくる。コリフェのグレゴリー・ガイヤールと彼がいつも買い物に行くスーパーのレジ係だ。ガイヤールは穏やかな口調で初めてガルニエに足を踏み入れ、バックステージを見た女性に装置、衣装、照明を説明していく。装置が天井に引き上げられ、後方に照明機材、さらに奥に金色に輝くフォワイエ・ドゥ・ダンスが姿を見せる。
やがてレジ係の出身国マリの音楽が流れ、本来ならエトワールに当てられるスポットの光の輪の中で彼女が踊りだし、その動きに合わせてガイヤールがクラシックの動きで応え、デュオとなった。
二組目はスジェのセバスチャン・ベルトーが事故で一方の膝下を失い、車椅子に乗った女性ダンサーと『ジゼル』のパ・ド・ドゥを踊った。
最後はエトワールのバンジャマン・ペッシュが半世紀以上オペラ座のバレエ公演にほぼ毎回通い続け(日本ツアーにも足を運んだという)、終演後楽屋口で彼を待ち続けた85歳の女性という組み合わせだった。不幸にして女性が入院して舞台に立てなくなったために、最終リハーサルの録画ビデオが映写された。『ジゼル』の手を取る優しい眼差しとパートナーへの心配りに満ちた所作にはペッシュの人となりが巧まずして出ていて、映像であることを忘れさせた。残念だったのは、いずれの晩もカーテンコールで客席の一部からブーイングが飛ばされたことで、その当人がいかに作品や振付のコンセプトに納得できなかったとしても、出演ダンサーに対し余りにも礼を失していると感ぜずにはいられなかった。

pari1603a1_03.jpg 『墓場』(C) Opéra national de Paris/ Benoite Fanton pari1603a1_02.jpg 『墓場』(C) Opéra national de Paris/ Benoite Fanton

続いてバンジャマン・ミルピエバレエ監督の振付けた新作『夜の終わり』が上演された。
フランスのベテランピアニスト、アラン・プラネスが弾くベートーベン「ピアノソナタ第23番『熱情』」の密度のある音に乗って、三組のカップルが男女の多様な形を描き出していく。エトワール2人に将来を期待される若手4人という配役で、昨年秋の昇級試験以来久しぶりにセウン・パクも元気な姿を見せてくれた。
振付家は第1楽章で、ある晩、男女が出会う場面からスタートした。第2楽章では長いデュオを踊ったエルヴェ・モローとアマンディーヌ・アルビッソンのカップルから、自ずと立ち上ってきた香りには優雅な気品が漂い、それとなく秘めやかな官能があふれてきて目が離せなかった。嵐の夜から夜明けまでのより激しい第3楽章が終わると、ブラヴォーの声が飛び交い、ダンサーに促されて舞台に登場したミルピエに大きな喝采が送られ、振付家も満面の笑顔で観客に応えた。

pari1603a2_01.jpg 『夜の終わり』
(C) Opara national de Paris/ Benoite Fanton
pari1603a2_02.jpg 『夜の終わり』
(C) Opara national de Paris/ Benoite Fanton
pari1603a2_03.jpg 『夜の終わり』
(C) Opara national de Paris/ Benoite Fanton
pari1603a2_04.jpg 『夜の終わり』
(C) Opara national de Paris/ Benoite Fanton
pari1603a3_02.jpg 『ゴールドベルク変奏曲』
(C) Opéra national de Paris /Benoite Fanton

ソワレの最後はジェローム・ロビンズ振付の『ゴールドベルク変奏曲』だった。パリ・オペラ座では初めて取り上げられレパートリーに入ることになったが、実に1時間20分という長大な作品である。
最初と最後に演奏される「主題(アリア)」にブリュノー・ブーシェとロール=アデライド・ブーコーの二人が、まずは18世紀風の礼服、幕切れでは簡素な現代の衣装で登場する。一方、他のダンサーたちは最初は現代の衣装だが、第30変奏の終曲では雅やかな礼服に着替える、という衣装によるシンメトリーによって、ロビンズは作品に大枠を与えている。
長い第1部ではコール・ド・バレエがよく揃って、きれいな幾何学模様を描いてロビンズの様式美を見せてくれた。後半の第2部で踊った3組のカップルには多くのエトワールやプルミエール・ダンスールが参加していた。15日にはオニール 八菜がジェルマン・ルーヴェと若やいだ第1カップルを踊り、さらに20日には優雅そのもののソロを見せてくれたマチュー・ガニオと組んで、気品あふれる第2カップルを踊って、舞台に素敵な華やぎを添えていた。

pari1603a3_01.jpg 『ゴールドベルク変奏曲』
(C) Opéra national de Paris /Benoite Fanton
pari1603a3_05.jpg 『ゴールドベルク変奏曲』
(C) Opéra national de Paris /Benoite Fanton
pari1603a3_06.jpg 『ゴールドベルク変奏曲』
(C) Opéra national de Paris /Benoite Fanton

2月20日はエトワール、バンジャマン・ペッシュのさよなら公演でプログラムがミルピエの『夜の終わり』の代わりに、ロビンズ振付の『イン・ザ・ナイト』となり、ドロテ・ジルベールをパートナーにペッシュが自分のキャリアの最初に出合った作品の一つに立ち戻った。そして最後にアンジュラン・プレルジョカージュ振付の『ル・パルク』第3幕のパ・ド・ドゥをエレオノーラ・アヴァニャートを相手に踊って、オペラ座でのダンサーとしてのキャリアにピリオドを打った。

pari1603a3_03.jpg 『ゴールドベルク変奏曲』
(C) Opéra national de Paris /Benoite Fanton
pari1603a3_04.jpg 『ゴールドベルク変奏曲』
(C) Opéra national de Paris /Benoite Fanton
pari1603a3_07.jpg 『ゴールドベルク変奏曲』
(C) Opéra national de Paris /Benoite Fanton
pari1603a3_08.jpg 『ゴールドベルク変奏曲』
(C) Opéra national de Paris /Benoite Fanton
pari1603a3_09.jpg 『ゴールドベルク変奏曲』
(C) Opéra national de Paris /Benoite Fanton
pari1603a3_10.jpg 『ゴールドベルク変奏曲』
(C) Opéra national de Paris /Benoite Fanton

『墓場』(世界初演)
振 付 ジェローム・ベル
ダンサー バンジャマン・ペッシュ、セバスチャン・ベルトー、グレゴリー・ガイヤール
『夜の終わり』(2月15日)
振 付 バンジャマン・ミルピエ
ダンサー アマンディーヌ・アルビッソン、セウン・パク、イダ・ヴィキンコスキ、エルヴェ・モロー、ユゴー・マルシャン、マルク・モロー
衣 装 アレッサンドロ・サルトリ
音 楽 ベートーヴェン「ピアノソナタ第23番『熱情』」
演奏 アラン・プラネス
『ゴールドベルク変奏曲』
音 楽 ヨハン=セバスチャン・バッハ
振 付 ジェローム・ロビンズ
衣 装 ジョー・ユーラ
照 明 ジェニファー・ティプトン
ピアノ シモーネ・ディナーシュタイン 
ダンサー(2月15日)主題 ロール=アデライド・ブーコー、ブリュノー・ブッシュ
第1部 ヴァランティーヌ・コラサント、ピエール=アルチュール・ラヴォー、ミヒャエル・ラフォン、シャルリーヌ・ギーゼンダンナー、エマニュエル・ティボー、アクセル・イボ、他
第2部 第1カップル ジェルマン・ルーヴェ、オニール 八菜 第2カップル ユゴー・マルシャン、マリー=アニエス・ジロ 第3カップル カール・パケット、レオノール・ボーラック
(2月20日)主題 ロール=アデライド・ブーコー、ブリュノー・ブッシュ
第1部 エロイーズ・ブルドン、ファビアン・レヴィヨン、アントニオ・コンフォルティ、メラニー・ユレル、フロリモン・ロリユー、ポール・マルク他
第2部 第1カップル ミリアム・ウルド=ブラーム、マチアス・エイマン 第2カップル オニール 八菜、マチュー・ガニオ 第3カップル アマンディーヌ・アルビッソン、オードリック・ブザール
『イン・ザ・ナイト』(2月20日)
振 付 ジェローム・ロビンズ
音 楽 ショパン「4つのノクターン」
ピアノ演奏 久山亮子
衣 装 アンソニー・ドーウェル
照 明 ジェニファー・ティプトン
ダンサー ドロテ・ジルベール、バンジャマン・ペッシュ、ローラ・エケ、マチュー・ガニオ、エレオノーラ・アバニャート
『Le Parc』『ル・パルク』より抜粋(2月20日)
振 付 アンジュラン・プレルジョカージュ
音 楽 モーツアルト 「ピアノ協奏曲第23番K488」より「アダージョ」
衣 装 エルヴェ・ピエール
ダンサー エレオノーラ・アバニャート、バンジャマン・ペッシュ