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三光 洋 Text by Hiroshi Sanko 
[2015.06.10]

濃艶な女性の香りを漂わせたアバニャートのマノン、そしてアリュのレスコーの鮮やかな悪党振り

Ballet de l’Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団
"L’Histoire de Manon" Kenneth MacMillan 『マノン』ケネス・マクミラン:振付

2012年6月以来3年ぶりに『マノン』がガルニエ宮に戻ってきた。今回は5月18日に行われたオーレリー・デュポンのさよなら公演に話題が集中したが、残念ながら満席で見ることができなかった。(この公演についてはチャコットニュースに掲載された記事をご欄ください。)

pari1506b_17.jpg アバニャート、マニュネ
(C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

2012年にはオーレリー・デュポンとジョシュア・オファルト、イザベル・シアラヴォラとマチュー・ガニオの2組を見たが、今回はエレオノーラ・アバニャートとフロリアン・マニュネ(5月5日)とドロテ・ジルベールとユゴー・マルシャン(5月20日)を見た。
5日の公演は、舞台中央に黒いマントを羽織ったレスコーが座っているシーンからスタートして、ルイジアナの沼沢地でマノンが息絶えるまで、息もつかせないスピード感があった。エレオノーラ・アバニャートが旅籠前の広場に馬車で下りた途端に周囲に濃厚に色香が広がった。自分に関心を寄せる老貴族GM氏にそれとなく視線を投げかける。その一方で若いデ・グリューに扮した長身のマニュネがソロを踊っているのを熱い眼差しで追う。二人の最初のパ・ド・ドゥでは「エレジー(悲歌)」の旋律が哀切に響いて、感覚で結ばれた恋人たちの悲劇的な末路を暗示しているかのようだった。
アバニャートの演じるヒロインは動物的と言ってもよいような、強烈な女性の香りがある。それも華美で退廃が影を落としている。フランス語でファム・ファタルと呼ばれる男性を滅ぼす魔性の女だが、カルメンのような自分の魅力を意識しているのでないことが、時折横顔をかすめる不安な表情によって表現されていた。これに対してフロリアン・マニュネがちょっと意志の弱い品の良い良家の青年をていねいに演じて、説得力のあるカップルになっていた。オードリック・ブザール扮するやくざな兄のレスコー、ヤン・サイズの好色な老貴族GM氏がそれぞれ役柄にぴったりだったので、ヒロインの周辺の自堕落な空気を肌で感じることができた。久しぶりに復帰したサラ・コラ・ダヤコヴァが娼館の女将を、またミリアム・カミオンカが男装の娼婦を艶やかに演じ、その雰囲気を盛り上げた。
このバレエでは18世紀のフランスをよく想起させる衣装と装置、王朝時代の雰囲気にぴったりのマスネの音楽、ソロやパ・ド・ドゥと群集場面とが交互に現れるが、主要人物だけでなくコール・ド・バレエにも勢いが感じられ、ドラマが淀みなく流れて、時間の経過を忘れさせた。

pari1506b_18.jpg アバニャート
(C) Opéra national de Paris/
Julien Benhamou
pari1506b_19.jpg
アバニャート
(C) Opéra national de Paris/
Julien Benhamou
pari1506b_22.jpg アバニャート、マニュネ
(C) Opéra national de Paris/
Julien Benhamou

一方、5月20日は12回あったシリーズの最終公演だった。前々日の18日にオーレリー・デュポンのさよなら公演があった直後だったことも影響したのか、最初はもうひとつ熱気に欠けた。この舞台の前半をリードしたのは間違いなく兄レスコー役のフランソワ・アリュだった。アリュが思い切りのよい、スケールの大きい跳躍をショーマンシップたっぷりに見せ、見得を切ると客席からは女性ファンの黄色い声が飛んだ。レスコーの悪党振りをまざまざと見せ付けるアリュの派手な演技から周囲にエネルギーが放射され、舞台に活気が蘇った。老貴族GM氏のオーレリアン・ウエットも役柄にはまっていた。
ドロテ・ジルベールは丁寧な演技で妖艶そのもののアバニャートとは全く違うヒロイン像を描いた。これに対して、ユゴー・マルシャンは最初は抑え目の演技だったが、幕が進むにつれ、表情が豊かになり、最後のヒロインの死の場面では青年の慟哭に誰もが胸を突かれ、情感あふれる幕切れとなった。
(2015年5月5日、20日 ガルニエ宮)

pari1506b_20.jpg (C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou pari1506b_21.jpg (C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

『マノン』 アベ・プレヴォー著「デ・グリュー騎士とマノン・レスコーの物語」による全3幕
音 楽 ジュール・マスネ(ライトン・ルーカス編曲)
振付・演出 ケネス・マクミラン
装置・衣装 ニコラス・ジョージアディス
照 明 ジョン・B・リード
マーティン・イエーツ指揮 パリ・オペラ座管弦楽団
配 役 (5月5日、20日)
マノン=エレオノーラ・アバニャート/ドロテ・ジルベール
騎士デ・グリュー=フロリアン・マニュネ/ユゴー・マルシャン
レスコー=オードリック・ブザール/フランソワ・アリュ
レスコーの愛人=ヴァランティーヌ・コラサント/ミュリエル・ジュスペルギー
GM氏=ヤン・サイズ/オーレリアン・ウエット
マダム=サラ・コラ・ダヤノヴァ
ホームレスの頭=ユゴー・ヴィリオッティ/アドリアン・クヴェ
老紳士=ピエール・レティフ
男装の娼婦=ミリアム・カミオンカ/ローラ・バッハマン
牢番=オーレリアン・ウエット/ヤン・サイズ

オーレリーのさよなら公演のカーテンコール写真
1506dupont-3.jpg (C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou 1506dupont-4.jpg (C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
1506dupont-1.jpg (C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
1506dupont-2.jpg (C) Opéra national de Paris/ Julien Benhamou