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三光 洋 Text by Hiroshi Sanko 
[2015.01.13]

プジョル、パリエロの二人のエトワールが情感豊かに輝いた、パリ・オペラ座バレエ団『泉』

Ballet de l’Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団
"La Source" Jean-Guillaume BART 『泉』ジャン・ギヨーム・バール:振付

2011年10月22日にジャン=ギヨーム・バールの振付で1世紀半ぶりに復活上演された『泉』がガルニエ宮に戻ってきた。

pari1501a_04.jpg パリエロ、パケット
(C)Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

台本作家のニュイテールが書いた筋はコーカサスの山岳地帯を舞台に、猟師のジェミルに恋した泉の精ナイラが自分を犠牲にして、彼が愛しているヌーレッダとの愛を成就させる、という悲しい物語だ。
天井から太い縄とビロードの帯が垂れ下がったコメディ・フランセーズ芸術監督で俳優のエリック・リュフが考案した装置は品がよく、中央アジアの山地を様式化して表現している。
クリスチャン・ラクロワの衣装をまとった、コーカサスの男性たちのダイナミックな踊りやカラフルな民族衣装の女性たちの華麗な群舞は、誰の目も楽しませてくれる。

ソリストでは、ヒロインの泉の精ナイラにつき従う妖精ザエルを演じたエマニュエル・ティボーが天上からすっと縄のブランコに乗って降りてきたり、猟師ジェミルがヌーレッダのために峻厳な岩の上にある、不可思議な光を放つ珍しい花を取るのをそれとなく助けたり、舞台を軽々と飛び回った。
カーン(皇帝)に寵姫として差し出した妹ヌーレッダに軽んじられた兄モツドクが、全身に怒りみなぎらせる姿をありありと演じたヴァンサン・シャイエ、傲慢で移り気な皇帝役のアレクシー・ルノーと脇役も充実していた。
カール・パケットも気品ある演技で、泉の精ナイラとヌーレッダの二人から愛される猟師ジェミルを的確に演じ、また女性二人を安定したリフトでしっかりと支え、ヒロイン二人が最高の踊りを心置きなく踊れる素地を作っていた。

pari1501a_02.jpg プジョル、パケット
(C)Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

しかし、この夜の観客の胸を熱くしたのは二人の女性エトワールだった。レテシィア・プジョルは哀愁をたたえた視線とデリケートな腕から指先によって、皇帝(カーン)に寵姫として差し出されたヌーレッダの心の内を微妙に表現した。旅芸人に扮したナイラに皇帝の気持ちが一瞬にして移ってしまった場面で動揺し、床に崩れ落ちる場面では、その哀しみが客席までひたひたと伝わってきた。
前回もヒロインのナイラを踊ったリュドミラ・パリエロはのびやかなきれいな脚、感情が手に取るように見える視線によって、さらに演技に深まりを見せた。猟師ジェミルに恋心を告白する場面はその頂点だった。自分が人間の心を持ったことに驚きながらためらいがちに相手に向かい、その気持ちが分かたれていないことがわかった時には哀しみが瞳から指先まで全身にぱっと広がった。フィナーレで魔法の力を持つ花によってジェミルの望みをかなえ、彼とヌーレッダが幸せなパ・ド・ドゥを踊る周囲を幻のように舞う姿ははかなく、泉の精の穢れひとつない純情が見る人の胸に沁みた。

音楽演奏はコーン・ケッセルズがコロンヌ管弦楽団をよくまとめて、前半のミンクス作曲による部分の一部を除いて、舞台に水を差すことのない音楽に仕上げていた。
(2014年12月12日 ガルニエ宮)

pari1501a_03.jpg カール・パケット
(C)Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
pari1501a_05.jpg エマニュエル・ティボー
(C)Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
pari1501a_06.jpg ヴァンサン・シャイエ
(C)Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
pari1501a_07.jpg パリエロ、プジョル、パケット
(C)Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
pari1501a_01.jpg パリ・オペラ座バレエ団『泉』
(C)Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

『泉』シャルル・ニュイテールとアルチュール・サン=レオン台本による2幕3場のバレエ
音 楽 レオ・ドリーブ ルートヴィッヒ・ミンクス 
編 曲 マルク・オリヴィエ・デュパン
演 奏 コーン・ケッセルズ指揮 コロンヌ管弦楽団
振 付 ジャン=ギヨーム・バール
装 置 エリック・リュフ
衣 装 クリスチャン・ラクロワ
照 明 ドミニック・ブリュギエール
ドラマチュルギー クレマン・エルヴィユー・レジェとジャン=ギヨーム・バール
<配 役>
ナイラ(泉の精):リュドミラ・パリエロ
ジェミル(猟師):カール・パケット
ヌーレッダ(カーンの婚約者):レテシィア・プジョル
モツドク(ヌーレッダの兄):ヴァンサン・シャイエ
ザエル(ナイラの妖精):エマニュエル・ティボー
ダジェ(カーンの寵姫):ノルヴェン・ダニエル
カーン(皇帝):アレクシー・ルノー