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大村真理子(マダム・フィガロ・ジャポン パリ支局長)
Text by Mariko OMURA 
[2014.07.10]

オペラ座ダンサー・インタビュー : ジョシュア・オファルト

Josua Hoffalt ジョシュア・オファルト(エトワール)
オペラ座の今期は、 ガルニエの「ロビンズ/ラトマンスキー」とバスチーユの『ノートルダム・ドゥ・パリ』で締めくくられる。 タイプの異なる2作品で活躍中のジョシュア。後者では、すでに知られているテクニック面の確かさで観客を魅了するだけでなく、冷酷な助祭長フロロ役を巧みに演じて強い印象を残し、話題となっている。

これまでの公演から好青年のイメージが強いジョシュア・オファルト。そのイメージを見事に裏切り、悪の香りを放ってフロロ役を好演中だ(7月13日、16日に出演予定あり)。ダンス&ストリート・ウエアのブランドを設立したこと、また、今年の1月からの新米パパぶりなど、ダンスから脱線した話題にも気軽に答えてくれた。

pari1407b07.jpg 「ノートルダム・ド・パリ」
photo Michel Lidvac

Q:ローラン・プティ振付『ノートルダム・ド・パリ』のフロロ役が好評です。意外に思えるこの役に配役されたのを知ったとき、どう思いましたか。

A:この作品は長い間オペラ座で上演されておらず、最後はおそらく僕の入団直前だから、もう13年くらい前じゃないかな。その公演について、正直なところあまりよくは覚えてないけど、良い思い出だったという記憶はあります。今回、だから、この作品を踊るのも初めてなら、フロロ役も初めて。このフロロ役だけど、実は僕が願ったことなんですよ。ブリジット(・ルフェーヴル芸術監督)と今シーズンについてのミーティングがあったときに、フェビュス役にしか彼女は僕を考えてなかった。それで、いやいや、フロロでなければ、このバレエには出ません! と。フェビュスのようなプリンス的というか、そうした役はもう・・・・・。

Q:それでフロロ役にすぐに変更してもらえたのですね。

A:いや。彼女、僕の反応にはあまり嬉しそうじゃなかったですね。だから、フロロ役が踊れるかどうか、ずっとわからないままだった。で、発表された配役を見たら僕はフロロ役で、しかもファーストキャストでした。

Q:フロロにあなたをイメージするのは難しかったのですが、自身では、この役に自分を重ね合わせることが出来たということですね。

A:これまで、どちらかというと僕はプリンス役にはめ込まれがちだった。クリアーで、優しくって・・・というタイプ。だから、観客 にとっては確かに僕をフロロにイメージするっていうのは、難しかったかもしれないですね。

pari1407b08.jpg 「ノートルダム・ド・パリ」photo Michel Lidvac

Q:ローラン・プティ作品を踊るのは、『プルースト、心の間隙』以来ではないですか 。

A:この作品でモレル役を踊ったのが、プティ作品の最初です。彼のの作品は観客としても楽しんでいて、いつか踊りたいと思ってたので、これはうれしかったですね。その後は、不運なことにプティの作品に配役されるたびに、怪我や何かで実現しないままになってしまって。『ル・ルー(狼)』や『ランデブー』のときは、直前に怪我で降板となってしまって・・・。『カルメン』もそう。リハーサルはしています。で、そのときにプティ作品が持つ演劇性やリズムなど、僕に訴えってくるものがとても大きくて、それゆえ今回プティ作品を踊ることは僕にはとても自然なことに感じられたんだ。フロロのダークなパーソナリティについては、すぐに参考になる作品を思いついたんですよ。奇妙かもしれないけど、例えば、吸血鬼とか、ムルナウなど古いドイツの表現主義の映画。ビデオみて、これはいけるぞ、これはだめだ、ここを強調するといいだろう・・・というように。メークは濃く、表情も大きく目を見開いて大げさで、時には野卑なくらい・・。こうしたことでプティの作品をよく表現できると思ったんです。これは侮辱して言うのではないですよ。僕が思うに、プティが作品で追求したのは繊細さではなく、ヘヴィーで、偽りのない感情であることが多く、それらが観客の目にはっきりをしていることが必要なんです。それで、こうしたドイツの映画が思い浮かんだんですね。最初の稽古のときから、僕には何が上手くいくかが見えていて、コスチュームとメークによって楽に役に入れるということも予測できていたんだ。

Q:自分とは正反対だったり、異なる人物に舞台上でなりきるのは興味深いことといえますね。

pari1407b01.jpg 「オネーギン」photo Julien Benhamou

A:まさにそこなんだ。だから、この仕事をしてるといえますね。役へのアクセスによって、実生活の自分からとてもかけ離れた人物になれる。毎日、誰にでも感じよく、礼儀正しくあろうと僕は努めています。そんな僕が突然、底意地の悪い人物になる・・・そうした人物になりたいというのではないですよ、でも、不愉快な人物になる・・・オネーギンにもそうした面があって、その時に、おいおい別人になるって、なんて快適なんだ! って思ったんですよ。もし、誰かにボンジュールっていいたい気分じゃないとき、このバレエだったらそれができる。こういった喜びがフロロ役にはあるんですよ。極限まで自分と別人になる楽しみ。実生活ではバランスのとれた人物であろうとしてるのが、突然、バランスを崩し・・・でも、だからといって、誰かにとばっちりがいったりすることもないし、誰にも悪いことをするわけではなく、それはあくまでも舞台上の演技。公演が終われば、いつもの自分に戻るのです。それって、最高ですよ!

Q:では、例えば『天井桟敷の人々』で、これまではプレーボーイのフレデリック・ルメートル役でしたが、悪の権化のようなラスネール役を踊ってみたいといえますか。そして『白鳥の湖』なら、ロットバルト役でしょうか。

A:そうですね、ラスネール役は楽しめるだろうな。それにこの作品の中で、一番興味深いパーソナリティが彼ですからね。ロットバルトはというと、これはちょっと別問題だ。というのも、もしもプリンス役を1つ選べといわれたら、僕には『白鳥の湖』のプリンスというくらい、これは踊りたい役なんで。ついに来シーズン踊れることになったので、すごく嬉しいです。確かにヌレエフ版のロットバルトは素晴らしく描かれるけど、この作品に限っては、今のところはプリンス役のほうがいい! もし『ライモンダ』の公演があるとしたら、空っぽのジャン・ド・ブリエンより、アブデラフマンのほうがはるかに踊りたい。これは確かです。

Q:他にもそうした興味をひくダークな役はありますか。

A:問題なのは、そうしたタイプの役ってあまりたくさん踊らないんですよね。『ロメオとジュリエット』だとティボルトかな・・・でも、これはダークな人物とまではいかないな。それにロメオ役で表現する感情はとても幅広いので、これもロメオのほうがいい。つまり、その人物が悪人か善人かといったことより、どのようにその役が描かれてるか、ということによるというわけですね。もし、人物に成長があって、表現する感情が描かれていれば、どんなタイプでも興味深い。『ノートルダム・ド・パリ』では、このフロロがとにかくよく描かれています。

Q:プテイ作品の魅力は、あなたにとって動きよりも作品の演劇性といえますか。

A:そう、演劇性ですね。振付はシンプル。複雑ではありませんよ。彼は一種の効果をいつも求めていますね(注・指を大きく開いた手を下に向け、震わせてみせる)。だから、彼の作品をたくさん見ると、ときに同じようなムーヴメントを見いだせる。僕、『ノートルダム・ド・パリ』のバレエを細かく分析してみたんですよ。原作となってるヴィクトル・ユーゴーの小説を最初に読んだのは昨夏です。プティは娯楽に不要な部分をどんどんとカットしていって、純粋な娯楽を追求したのが、よくわかりました。バレエの中ではどんどんと物語が進行してゆきますね。何も語ってないところがない。大きな樹を剪定して、エッセンシャルな3本の枝だけを残した、という感じ。それゆえに観客に対して上手くいくのだと思います。登場人物についても同じで、各人の2、3の特徴的な面だけを浮き彫りにしています。小説では登場人物のキャラクターはそれぞれもっと複雑に描かれてますけどね。プティのは1時間半のバレエであって、1000ページの小説じゃない。人によっては小説と比べたがる人がいますけど、それは不可能なこと。スペクタクルと小説は別ものなんですからね。

Q:この『ノートルダム・ド・パリ』は今期最後の公演であり、また、ニコラ・ル・リッシュのオペラ座での最後の公演です。その先輩エトワールを舞台上で犬のように扱うことは難しくないですか。

A:ああ、これは正しく面倒な問題だった。すごくストレスを感じましたね。まずニコラの最後の作品なので、僕もダンサーとしてそれにふさわしい高みでありたいですよね。ハイクオリティの公演を作り上げて、彼にオマージュを捧げたいと願って・・・だから彼が12歳上の先輩で、彼がニコラ・ル・リッシュであることを忘れなければとならない。それで、僕と彼の関係は、舞台上では飼い主と飼い犬という関係だ、ということで互いに了承しあったわけです。彼は舞台上では僕にとってカジモドでしかない、と思うことに頭を集中させ、で、公演が終わると、再び彼はニコラ・ル・リッシュでしかなくなるのです(笑)。コスチュームとメークの存在も、これには役立っていますね。

pari1407b03.jpg 「デフィレ」photo Michel Lidvac

Q:この作品は、自身のアデュー公演について考える機会となりましたか

A: 全然! 何の公演で自分がアデューをしたいのか、なども考えたことがありません。エトワールがアデューをするたびに、先のこととはいえ、自分をその身に投影してみることはあるけど・・・・。そうだな、ローラン・プティの作品でアデューができるとしたら、それは悪くないだろうな。ニコラがするようなガラのようなのも、いいアイディアだと思う。でも、今のところ、アデューというと、自分のこと云々よりも、ニコラがオペラ座を去っていってしまうということに僕の気持ちがあります。

Q:あなたにとって彼はどんな存在なのですか。


A:僕のアイドルの一人なんですよ。昨晩(注7月3日)の公演ではカーテンコールの時に、感動してしまいました。というのも彼と舞台に立たてるのは、残すところ1回となったので。僕はフロロをまだ踊るけど、カジモド役はカール(・パケット)でエスメラルダがリュドミラ(・パリエロ)ですから。次回フロロを踊るときは、ニコラの最後の『ノートルダム』なんだと思ったら、涙が浮かんでしまいました。僕は彼を模範にして自分のダンサーのキャリアを築いてきたので・・・.パリに来たのも、彼のルポルタージュを見たからなんですよ。

Q:ニコラの何が気に入ったのですか。

A:小さいとき、最初にすごい! と僕に思えたのは、彼が動くとき、動いてるのは彼だけではなく彼の周囲のすべてが動いてる、と見えたこと。これって、他のダンサーではなかったことでした。僕、8歳だか10歳だったか小さい時で、それだけで、もう信じられない! となってしまって・・。後で観察し、彼の力強さとや役の解釈の仕方なども素晴らしいと思いました。彼には他のダンサーにはない彼ならではの動きの特性がありますね。ある種のことについて、モダーナイズしようとしてることとか・・・いろいろと徐々に。

Q:『ノートルダム・ド・パリ』と並行して、ガルニエではロビンスの『ダンシイズ・アット・ア・ギャザリング』の公演がありますね。
(注・7月6日にて終了。12月24日まで、下記にて視聴可能)。
http://culturebox.francetvinfo.fr/live/danse/danse-classique/dances-at-a-gathering-de-jerome-robbins-au-palais-garnier-158519

pari1407b06.jpg 「ダンシイズ・アット・ア・ギャザリング」
photo Michel Lidvac

A:2012年に初めて踊ったときはブラウン・ボーイだけだったけど、今回は、グリーン・ボーイと両方です。

Q:グリーン・ボーイは複数のダンサーが踊ってますが、それぞれとても異なっています。あなたはどんな青年をイメージしたのですか。

A: 『ノートルダム・ドゥ・パリ』の役作りの仕方とは、また別なんですね、ロビンズは。というのも、特にどんな性格かというような人物像がないので。でも、だからといってアブストラクトな作品でもない。パートナーとなるダンサーに左右される、ということですね。毎回、感情や感動に沿って踊っていますから、特にグリーン・ボーイはこうだ、というような人物を特定せず、僕はこうさ、こうさ、という感じに踊っていて・・・。向かいあうダンサーによって、自分が同じように踊ってないのはわかっています。向かいの人がにこにこしてたら、それにこたえようとするし、メランコリックだったら、それにあわせようと思います。ロビンズ作品については、まずムーヴメントから仕事をスタートします。見いださなければならない特性、一種の流動性。ロビンズの振付ってシンプルなんですよ。例えると、とても細いライン。上手に踊られないと、とても退屈で、もしクオリティ高く踊られたら、素晴らしい! というものです。今回、ファーストキャストの公演では雰囲気をつくりあげることにもすごく力をいれたんですよ。6月27日は公演が録画されたのだけど、その前にリハーサルコーチも一緒になって、僕たち全員の間にムードがつくられるようにと稽古を重ねました。成功したと思っています。他のキャストで踊るときに、その違いが感じられますからね。僕にとってロビンズは、役作りとかではなく、全体の雰囲気なんです。ときに、ちょっとした視線の交差とかがあって・・・。

Q:向かいのダンサー次第の部分が多いとなると、即興的なのですね。

A:正しく! だから、舞台上での自発性をキープしています。それに対してローラン・プティの方では、ここではこうする! 次は・・・というような、観客にたいして作用する効果を考えています。ずっとコード化された仕事です。でもロビンズは向かいの相手に従って・・・。それにピアニストも二人いて、彼女たちそれぞれ違う弾き方をしますからね。この公演、生気に満ちているのです。

Q:グリーンボーイは何度か登場しますが、特に気に入ってる部分はありますか。

A:最初のパ・ド・ドゥ。風のパ・ド・ドゥとも呼ばれているもので、風になびくようにして、タタタタ・・・そして、止まって、また動いて・・というように。この部分、好きですね。それからファーストキャストだとアマンディーヌなのだけど、彼女が踊るパープル・ガールとのちょっとしたパッセージも好きですね。3姉妹の部分で、彼女とはメランコリーというか、いささかシリアスなシーンを展開します。で、触れていた二人の手が徐々に離れていって、別れる。これは現実のことではなくって、彼女の頭の中だけでのこと、彼女の頭の中にある過去の出会いなのか・・などとか時に考えます。この部分も好きなんです。ロビンズ作品では、さまざまなモーメントを想像しています。過去にこの作品を見た時、グリーン・ボーイってそれほど踊らないと思って、高をくくってただけど、約1時間の作品中、ちょっとずつの登場が何度もあって、結局のところ最初から最後まで踊ってることになって、だから、けっこう終わったときはかなり疲労してます。

Q:『ダンシイズ・アット・ア・ギャザリング』では、舞台上のダンサーたちの微笑みがとても印象的です。このリハーサル、公演が『ノートルダム・ドゥ・パリ』と並行というのは大変なのではないでしょうか。

A:ロビンスのはポジティブで明るい作品なので、踊っていたごく自然に笑みが浮かんで来る。とりわけワルツの部分では、全然意識することなく微笑んでしまいます。だからフロロ役とこれを同時期にリハーサルというのは難しく、今も公演が並行してるので、難しいです。毎日、ガルニエとバスチーユのオペラ座をいったりきたり。午後にフロロのリハーサルがあって、その後は、ガルニエでロビンズを踊る・・・という暮らし。2つの正反対のスタイルの作品だから、いささか精神分裂状態です。両者を切り離すことをしないと・・・。バスチーユの仕事を終えて、ここに来て、やっとこ、ひげ剃りの時間だけがあって、という、タクタクタクとリズムが刻まれてる感じ。両者を切り離せる唯一の時間はおそらくメークの間かな。それから舞台裏のフォワイエでウォーミングアップするとき。いつも僕が一番最初に来るので、一人きりでいられる間に気分を変えることができる。

pari1407b05.jpg 「水晶宮」photo Michel Lidvac

Q:来期に何を踊ることになってるのか公表できますか。

A:もちろん! 新しい監督になることで、これまでと違って、僕たちダンサーも先々何を踊るのかがわかってるのですよ。来期のことでは新監督がエトワールそれぞれとミーティングしたんです 。来期、僕は『エチュード』からシーズンを始めます。ドロテ(・ジルベール)、マチアス(・エイマン)とのトリオです。この作品、初めてなんです。最後の公演があったのは、ぼくは入団直後で、そのときは踊ってないので。その後、『パキータ』のツアーでモントリオールに行き、パリに戻ったら、『くるみ割り人形』・・でも実はこれだけが、まだ確定というわけでないんだ。踊るとしたらアマンディーヌと。それから、『白鳥の湖』が『マノン』とほぼ同時期にあって、おそらく両方を踊ります。『白鳥の湖』はアマンディーヌと、『マノン』はエレオノーラと。それから『パキータ』を今度はパリで。『パキータ』では、デンマーク・ツアーもあったと思う。シーズンの最後は、『リーズの結婚』ではなく、『感覚の解剖学』。良いシーズンになると思いますよ。

Q:新監督のバンジャマン・ミルピエとは過去に仕事をしていますか。

A:この間の『ダフニスとクロエ』でも、その前の2つのクリエーションの時も、僕は彼とは仕事をしていません。僕、新しい態勢にはポジティブな気持ちでいますよ。彼は、すごく良いエネルギーに満ちあふれてオペラ座に来ると思うんです。たくさんのことをしたいと願ってるようですね、たとえすべて実現できないにしても・・・。アイディアなしでポストにつくより、いいことだ。こっちも意欲が湧きますからね。

Q:そして、オーレリー・デュポンがバレエ・マスターになるのですね。

A:それは『マノン』で彼女がアデュー公演をした後のことです。彼女は僕のパートナーの一人で、一緒に仕事をたくさんしています。彼女がこのポストにつくことは、少しも奇妙に感じません。彼女がどう仕事するか、どうリサーチするか、どんなディテールに拘るのかを知っているせいでしょう。彼女がバレエ・マスターとして何を追求したいと願うのか、ということに、僕はなんとなく想像できることがあるんです。彼女の就任を 好奇心いっぱいに待ってます。彼女はダンサーに対するレスペクトがありますし、オープンマインドなので、ダンサーに解釈の余地を残すことが出来る人だから、何も不安はありません。

Q:服のブランドを立ち上げる、あるいは立ち上げた、といったことを耳にしました。いかにして始まったことなのでしょうか。

A:僕には1つ年上の気の合う兄がいて、彼と何かを一緒にしたいという願いがずっとあったのが出発点なんだ。兄のルカ・オファルト(Lucas Hoffalt)はパリの有名な美術学校ボ・ザールを卒業していて、家具のデザイナー。二人のそれぞれの経験を生かして、何か共通のプロジェクトはできないものかと、ずっと探していた・・・なぜモードかというと、 実は母は自分のためにだけど自宅に裁縫のアトリエを設けていて、小さいときから僕たちはボタンや端切れで遊んだり、というようにクチュールの環境で育ったんだ。モード、テキスタイルって、僕の大好きなこと。彼女はぼくたちの最初のコレクションのサンプルを縫ってくれ、プロからもその仕事は高く評価された。今でも、上手くゆかない部分などがあるとアドヴァイスをくれるんですよ。

Q:ブランド設立には、引退後の自分の仕事にという思いがあるのですか。

A:それはホワイノット! 先のことといってもあっという間に時はたつし、何も次の予定がないまま引退、ということになってしまうこともある。42歳で何もしない自分なんて、僕は想像できない。42歳のときに、すでに軌道に乗せらた企業があって、それが上手く回っていたらパーフェクトでしょう。脛骨の治療、それに続いて肩の故障があって昨年ずっと怪我で休んでいたときに、ダンス以外のプロジェクトを推進するにはこの時期を活用するのがいい、となって進めました。

pari1407b04.jpg 「眠れる森の美女」photo Michel Lidvac

Q:どんな服のブランドなのですか。

A:ダンス仕事をするときに着る服で、ああ素晴らしい! と思える服が市場にはない。ダンスのブティックでラックにかかってる服を見て、ラベルを見ないでブランドがあてられるといったアイデンティティのあるダンスウエアのブランドもない。この現状からスタートしました。僕たちの目的は、ダンスのスタジオとストリートを結びつける、ということです。エレガンスを保ちながら、スタジオでダンスをするのにふさわしいシルエットやディテール。クラシックに限らず、あらゆる種類のダンサー向けですよ。街着としては、さらっと着られて、着心地がよくって・・。僕はダンサーとしての鑑定眼をもたらし、兄はビジュアルという点での教養が深く、それに過去にベルギーでアントワープのファッションクリエーターとも仕事をしたことがあるので、経験と人脈があります。

Q:服はフランスで生産されるのでしょうか。

A:はい。というのもクオリティの高い服であることも目的にしてるので。オペラ座のエトワールダンサーである僕は、ある種の卓越を代表しているわけだから、それに相応しいレヴェルであるべきだと思うからです。良い品質、美くしさ、エレガンス・・・これらを追求するとなると、どうしてもメード・イン・フランスということになる。実はこの土曜にフランスの製造アトリエのディレクターと会うことになっているんですよ。まだ原価の計算もしてないので、どれくらいの価格となるのかわからないけど、おそらく、こうしたタイプの服としては高級なブランドとなるだろうな。

Q:ブランド名は決まっていますか。


A :Hoffalt(オファルト)です。 何かダンスに関係する名前にしようかとも考え、周囲の人やモード関係者などにいろいろアドヴァイスを求めてみたんだ。オファルトは美しい名前だし、それに兄弟のプロジェクトなのだから、という意見が圧倒的で・・。ロゴももう決まってるんですよ。これには、兄の友だちのグラフィックデザイナーが協力してくれました。

Q:スニーカーのコレクターとしては、自分のブランドのスニーカーも考えていますか。

A:今のところは服だけです。他のブランドとのコラボレーション、ということはいずれ考えられなくもないけど。それにスニーカーに限らず、どこで販売されるかにもよるけれど、他のブランドとの小さなカプセル・コレクションのようなことも考えられますね。

Q:プレタプルテのブランドのように年に2回のペースで、新しい服を発表してゆくのですか。

A:まだそこまで考えてはないけれど、クラシック、スタンダード・・といった服にしたいと考えてるから、多分そうはならないと思う。模範としてるブランドは、テニスウエアから始まったラコステ。テニス・プレーヤーのルネ・ラコステがテニス向きのニット・シャツをクリエートしたことから始まったブランドで、その歴史を眺めると、そのシャツから発したポロ・シャツはずっと存続し、しかもテニスをしない人も着ている。そして今やメンズもレディースもあって、世界中に普及し、ファッションショーも開催していて・・・ つまり、このようにプロフェッショナルな分野から始まり、裾野が一般へとひろがってゆくというブランドを目指してるんです。定番モデルを色や素材を変えて続けてゆくというような方法となると思う。世間が、今度はオファルとはどんな素材でだすのだろう、ああ、軽い素材だとか・・そういった感じに。レディースもありますよ。ピュアにダンス用のレオタードやタイツもあれば、街着としても問題なく着られるタイプのものとかも・・・。アマンディーヌをモデルに、撮影も終えました。まだ、販売場所など決まっていないけど、2014年内にはどこかの店頭に並ぶようにと・・・理想ですけど。

Q:最近父親になられたそうですね。

A:はい、今年の1月、パートナーのミュリエル(・ジュスペルギー)との間に男子が生まれました。名前はマリウス。これは僕の出身地であるプロヴァンス地方の名前。でも、僕ではなくミュリエルのアイディアなんです。彼女は大西洋側の南西出身なのだけど・・・。いい名前でしょ。南仏的だし、それにダンス界にはマリウス・プティパもいることだし。

Q:父親になって 、仕事との関わり方などで何か変わりましたか。

A:ダンスより私生活を優先する、といったようなことにはなりません。確実に変わったのは、確かに毎日のオーガナイズが変わったこと。まず、以前より早起きしますね。これはちょっと疲れるけど、その一方ですごいエネルギーを得ることができる。なぜって、僕を見て彼が微笑んできて・・こうして1日をスタートできるのはいいことですよ。自宅にいるときは、子どものために可能なかぎり時間をさけるように務めます。でも、ここオペラ座では子どものことは考えず・・ときっちりと分割するようにしています。これは集中の問題。あいにくとダンスのビデオを自宅で見る、というようなことはあるけど、こうして切り離す、ということをするようになったことが大きな違いですね。最悪だったのは、誕生が『オネーギン』のリハーサルの真っ最中だったこと。これは辛い時期だった。夜に眠れないこともあって・・。リハーサルはがっつり集中し、最大級の力をだし、終わるや、頭を切り替えて・・というように。最初は難しかったです。

pari1407b02.jpg 「オネーギン」photo Julien Benhamou

Q:女性ダンサーがよく「出産後、自分がより成長したと感じられます」といいます。男性ダンサーの場合はどうでしょうか。

A:そのフレーズ、確かによく聞きますね。観客にしても、「彼女、出産してから、すべてが変わって信じられないほどだ」などとも。でも、これって心理的なことに過ぎないと思うんだ。僕、長男の出産は本当にうれしいですよ。でも、だからといって突然翌日にかわる、なんてことは思いません。子どもの誕生後も、いつも通りに舞台上で進歩、変遷を求め続けます。僕が舞台ですることに子どもが何か凄い衝撃をもたらす、なんてことはないでしょう。これは僕の意見にすぎないけど。

Q:親となって、環境や食べ物への意識が変わりましたか。

A:子どもには最高な物を与えたい って親は思うもの。僕もミュリエルも、もともと健全な食事をしてるし、どこで食材を買うかにも気をつけているけど、以前よりよけいに気をつけるようになるのは確か。でも、大気汚染が気になるからといいって、家に閉じ込めるようんなことはしませんよ。子どもに何よりも強く願うことは、彼の幸せです。だから僕たちも幸せであるようにと務めています。不幸せな両親をみて育った子どもは不幸せですからね。

Q:今年前半はオペラ座のベビーブーム。他の新米パパ・ダンサーと意見交換などしますか。

A:誰もが携帯には子どもの写真ばかり。写真やビデオをみせあって、子どもの話に花を咲かせてますよ。子どもがいない時代は他のことを話、今は子どものことを話して・・と。変化してゆく人生の1パッサージュです。子どもが親離れする時代になったら、僕たちはまた別なことを話題にするだろうな。 ぼく、子どもを持つ前、どうんな風に子どもに対していいかわからなかっただけど、奇妙なことに自分の子どもには何の不安なかった。もうじき6か月。 微笑むと、微笑み返してくるし・、僕たちが何か話してると耳を澄ませて聞いてるようだし・・。彼に何かしかけると、すぐに大きな反応を見せて・・すごくくすぐったがりやなんです。すでに彼とはやりとりが出来るので、いくらでも一緒に時間をすごせます。

Q:将来はダンサー ? とよく聞かれませんか。

A:彼をそちらに押すつもりはないし、でも、彼がしたいというのなら禁じません。僕の経験からダンスがもたらしたすべてのポジティブな面を教え、同時に、この仕事の難しさも彼に教えるでしょう。僕は何も知らずにダンスを始めました。多くをもたらしてくれて、一度として後悔はありません。素晴らしい仕事だ。だからもし彼がダンサーになりたいと望むなら、併せて、どれだけ厳しいことがあるかも知らせたいです。これは彼にとって幸運といえますよね、仕事の両方の面を知ることができるだから。

Q:ところで、この楽屋ですが、以前はスニーカーを壁にかざっていませんでしたか。

A:今は片付けて袋にいれてあります。ここ、仮の楽屋ということで入ったのだけど、かれこれ1年以上。仮にしては長いけど、かといって、まだ楽屋の空きがないので。だから、 せいぜい、ごちゃごちゃにならないように整理整頓するくらいで、本格的に自分の楽屋としてパーゾナライズできないまま。

Q:ピアノも置かれていて、他のエトワールの楽屋よりかなり広 いですね。

A:ここ、巨大ですよ。 天井は高いし、窓も大きいし僕、ここをシャトーって呼んでいます。ソファがなかったので、それを追加でお願いして、前から持っていた椅子を持ってきて..。広いですよね。明るくて快適なスペースなので、居られるものなら、この楽屋にずっと居たいです!