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三光 洋 Text by Hiroshi Sanko 
[2014.07.10]

プジョルとルナヴァンが繊細で美しい表現をみせた、ラトマンスキー振付『プシュケ』

Ballet de l’Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団
Défilé du Ballet『デフィレ』/
Jérôme Robbins "Dances at a gathering"『ダンシズ・アット・ア・ギャザリング』ジェローム・ロビンズ:振付 /
Alexeï Ratmansky "Psyché" 『プシュケ』 アレクセイ・ラトマンスキー:振付

幕が上がると、一番奥まですべての敷居が取り払われた舞台が客席の前に広がった。
少女のプティ・ラの頭が一つ現れ、それに続いてオペラ座バレエ学校生徒たちが年少組から、ついでコール・ド・バレエ、プルミエ・ダンスール、エトワールが勇壮なベルリオーズのオペラ『トロイアの人々』からの行進曲をバックに、前方に歩み出る。最後に登場した今年7月9日の特別公演で引退するエトワールのニコラ・ル・リッシュに一段と大きな拍手が沸いた。このデフィレは19日と21日の二回、パリ・オペラ座バレエ団が、ロビンズ財団からジェローム・ロビンズ賞を受賞したことを記念して行われた。プティ・ラからエトワールまでが一堂に会するデフィレは、ダンサーの出発点から、キャリアの頂点までの道のりが一目で見られる稀な機会で、その華やぎには抗いがたい魅力がある。

pari1407a_01.jpg 『ダンシイズ・アット・ア・ギャザリング』
(C) Opera national de Paris/ Sebastien Mathe

デフィレの熱気覚めやらぬ中、ピアニストの久山亮子が空っぽのオーケストラピットに置かれたグランド・ピアノに向かい、ジェローム・ロビンズ振付の『ダンシイズ・アット・ア・ギャザリング』の舞台が始まった。
ロビンズのショパンへの憧憬から生まれたこの作品にはこれと言った筋書きはないが、ピアノをバックに10の異なる色彩のコスチュームをまとった10人のダンサーたちがソロ、パ・ド・ドゥ、トリオやアンサンブルでつかの間の出会いに揺れる心の動きを多様に描いていく。
19日の初日公演では、6人のエトワール、3人のプルミエ・ダンスール、スジェ1人の競演となったが、最も鮮やかに目に残ったのは最初に登場したダークブラウンのマチュー・ガニオだった。のびやかな身体から漂うエレガンスはこのダンサーならではのもので、涼やかな視線とともにショパンの気品あふれる旋律にふさわしい。ローズのリュドミラ・パリエロと紫のカール・パケットの二人も息の合ったなめらかで軽快な動きで、音楽と身体の対話を感じさせてくれた。常に優雅なオーレリー・デュポンは緑の役でコミカルな側面を垣間見せてくれた。
一時間をこえる大作だが密度の高い振付と音楽から、刻々と生み出される感情の機微は実に変化に富んでいて、見所が多く観客は時間の経過を忘れた。

pari1407a_02.jpg 『ダンシイズ・アット・ア・ギャザリング』(C) Opera national de Paris/ Sebastien Mathe
pari1407a_04.jpg 『プシュケ』
(C) Opéra national de Paris/ Sébastien Mathé

休憩後はアレクセイ・ラトマンスキー振付の『プシュケ』だった。ヒロインの名前はフランス語ではプシシェだが、原語のギリシャ語ではプシュケで、「魂」という意味だ。先月のバンジャマン・ミルピエの新作『ダフニスとクロエ』もそうだったが、帝政ローマ時代のアプレイウスの小説『黄金のろば』が原作である。
プシュケは、美貌ゆえに美の女神(ヴィーナス)に嫉妬されるが、愛の神エロスに愛される。しかし、好奇心と疑念から見ることを禁じられているエロスの姿を見てしまう。罪を犯した罰としてエロスを失い、ヴィ−ナスの奴隷にされるが、数々の試練を経てエロスに救われ、永遠の愛を生きる。
2011年の世界初演では、オーレリー・デュポンがためらいがちな乙女が恋に目覚めていく姿を、涼しいまなざしとやわらかな肢体で描き出したが、今回のヒロインを演じたのはレテシア・プジョル。極端に細い腕にはある種の痛々しさがあり、ドラマチックな動きもあいまって、また一味違うヒロイン像を見せてくれた。これに対しマルク・モローは切れ味のよい激しい所作によって、若々しい愛の神アムールを演じた。昨年12月20日にエトワールに昇進したばかりのアリス・ルナヴァンは、プシュケに嫉妬するヴィーナスに扮した。3月にアグネス・デ・ミル振付の『フォール・リヴァー伝説』のヒロイン(被告)では、抑圧された女性の内面をえぐりだしたが、今回はまったく違う役柄で美の女神として、赤の衣装が際立たった踊りで抜群の存在感を示した。
『交響曲ニ短調』でよく知られるセザール・フランクの音楽の寄せては返す波のようなきれいな旋律の繰り返しから、いわく言いがたい詩情が静かに舞台に広がり、プジョルとマルク・モローの二人を、寓話のヴェールにやさしく包み込んでいった。この曲の魅力に動かされて振付を考案したアレクセイ・ラトマンスキーは客席でこの公演を見ていたが、終演後ダンサーたちから舞台に招かれ、満ち足りた微笑を浮かべながら観客のあたたかい拍手にこたえていた。
(2014年6月19日 ガルニエ宮)

pari1407a_03.jpg 『プシュケ』(C) Opéra national de Paris/ Sébastien Mathé

「デフィレ」
音 楽 ベルリオーズ「トロイアの人々」から行進曲
エトワール、プルミエ・ダンスール、コール・ド・バレ、オペラ座ダンス学校生徒
『ダンシイズ・アット・ア・ギャザリング』
音 楽 ショパン
振 付 ジェローム・ロビンズ(1969年、1991年11月16日 パリ・オペラ座バレエ団レパートリー入り)
衣 装 ジョー・ユーラ
照 明 ジェニファー・ティプトン
ピアノ演奏 久山亮子
配 役(登場順)
マチュー・ガニオ(ダークブラウン)
ノルヴェン・ダニエル(黄)ジョスア・オッファルト(緑)
リュドミラ・パリエロ(ローズ)カール・パケット(紫)
シャルリーヌ・ギーゼンダンナー(青)クリストフ・デュケンヌ(青)
アマンディーヌ・アルビッソン(葵)
オーレリー・デュポン(緑)
エマニュエル・ティボー(煉瓦赤)
『プシュケ』
音 楽 セザール・フランク(1890年)「交響詩プシュケ」
振 付 アレクセイ・ラトマンスキー(2011年9月21日にパリ国立オペラ座バレエ団により初演)
装 置 カレン・キリムニック
衣 装 アデリーヌ・アンドレ
照 明 マジッド・アキミ
合 唱 アクサントゥス合唱団
合唱指揮 クリストフ・グラペロン
配 役
プシュケ レティティア・プジョル
エロス マルク・モロー
ヴィーナス アリス・ルナヴァン
姉妹二人 クリステル・ガルニエ カロリーヌ・ロベール 
そよ風 ダニエル・ストークス シモン・ヴァラストロ アドリアン・クーヴェーズ アレクダンソル・ラブロ他