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三光 洋 Text by Hiroshi Sanko 
[2012.07.10]

マイムも楽しかったウルド=ブラームとオファルトの『ラ・フィーユ・マル・ガルデ』

Ballet de l’Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団
Frederick Ashton ¨LA FILLE MAL GARDÉE¨
フレデリック・アシュトン振付『ラ・ フィーユ・マル・ガルデ』

『ラ・フィーユ・マル・ガルデ』の第1キャストを見た。このタイトルは『リーズの結婚』とされることもあるが、直訳すれば「親の監督が行き届かなかった娘」という意味だ。父のいないリーズが母の目をかいくぐって相愛のコラ(英語ではコラス)と結ばれる、という単純な筋である。しかし、ボルドーで初演されたのが1789年のフランス革命勃発直前だっただけに、庶民の日常を題材とした初めての作品として大きな成功を収めた。
今回の公演は1960年にフレデリック・アシュトンがコヴェントガーデン歌劇場のために制作し、2007年にパリ国立オペラ座のレパートリーに入ったものの再演である。

pari1207b04.jpg (C)Opéra national de Paris/Julien Benhamou

第1幕は農家の中庭。フルートやピッコロが鳥のさえずりを奏でる牧歌的な音楽。そこへ、ぬいぐるみの雄鶏と雌鳥たちが登場し、リズミカルで軽快な音楽に合わせて滑稽なパントマイムを演じて舞台が始まった。
舞台左にある農家の母屋にヒロインのリーズを演じるミリアム・ウルド=ブラームの晴れやかの笑顔がのぞいた。二階からさっと階段を下りて、中庭のベンチに座って、木の鉢に入っていたクリームをちょっと舐めてからピンクのリボンを取り出す。おしゃまな村娘だが垢抜けしている。オーボエのソロをバックに、リボンを手に踊ってから、犬小屋の上にある鉄を輪に恋人コラへの合図のリボンを巻きつけてから退場した。
そこへやってきらコラが杖にリボンを巻いてのソロとなった。オファルトの長い速度のあるピルエットに客席が沸いた。ベンチに置いてあったクリームをコラも舐めてから、母屋をのぞこうとしてリーズの母シモーネに見つかり、キャベツを投げつけられる。富農トマの息子アランとリーズを結婚させたいシモーネはコラを娘から引き離すが、それでもリーズは母のスカートを引っ張って抵抗する。ファヴァロンとウルド=ブラームの表情たっぷりのパントマイムに客席から笑い声が起こった。
母がようやくいなくなって、やわらかなハープとオーボエのアルペッジオに乗ったパ・ド・ドゥで恋人たちの幸せがはじけた。リボンでコラの手を動けなくしたり、長いリボンをたぐって相手に近づいて接吻したり、と小道具が興趣を添えていた。
プルミエでエトワールに任命された喜びが誰にも伝わってくるような、明るいウルド=ブラームとこれまたエトワールに昇進したばかりのオファルトという若々しいカップルはリーズとコラにぴったりの陽気さと若さにあふれていた。

pari1207b09.jpg (C)Opéra national de Paris/Julien Benhamou

しかし、『ラ・フィーユ・マル・ガルデ』が「バレエ・パントマイム」というジャンルで、パントマイムが大切であることを教えてくれたのは、リーズの母シモーネ役のステファーヌ・ファヴァロンと富農の馬鹿息子アラン役のシモン・ヴァラストロの二人だった。ファヴァロンは強引でいながら、それでいて女性としてのしゃれっ気もあり、心の底では娘をかわいがっているシモーネという多面性を持ったキャラクターを描き出していた。ヴァラストもちょっと頭が弱いものの、気のよい青年を茶目っ気たっぷりなダンスとマイムで演じた。
農民たちを演じたよくそろったコール・ド・バレエの群舞からも、ゆったりした田園生活の喜びが伝わってきた。先述したリボンだけでなく、馬鹿息子のアランが大事にしている赤い傘も小道具として忘れられない。幕切れはリーズの家に忘れてしまった赤い傘を窓からそっと忍び込んだアランが探しに戻って来て、見つかるとうれしそうに後退して退場するところだった。
舞台の陽気さが子供連れの多い客席にも伝わって、誰にも楽しめる夕べだった。
(2012年6月21日 ガルニエ宮)

pari1207b01.jpg  (C)Opéra national de Paris/Julien Benhamou pari1207b02.jpg  (C)Opéra national de Paris/Julien Benhamou
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pari1207b07.jpg (C)Opéra national de Paris/Julien Benhamou pari1207b08.jpg  (C)Opéra national de Paris/Julien Benhamou

音楽/ルイ・ジョセル・フェルディナン・エロール
フィリップ・エリス指揮パリ国立オペラ座管弦楽団
音楽改訂/ジョン・ランシュベリ
振付/フレデリック・アシュトン(1960年)
装置・衣装/オズバート・ランカスター
照明/ジョージ・トムソン
リハーサル/クリストファー・カール
配役 
リーズ/ミリアム・ウルド=ブラーム
コラ/ジョシュア・オファルト
シモーネ/ステファーヌ・ファヴァロン
アラン/シモン・ヴァラストロ
トマ(アランの父)/アレクシ・サラミット
笛吹き/ピエール・アルチュール・ラヴォー