ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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大村真理子(マダム・フィガロ・ジャポン パリ支局長)
Text by Mariko OMURA 
[2012.01.10]

オペラ座ダンサー・インタビュー:マチルド・フルステ

Mathilde Froustey マチルド・フルステ(スジェ)
12月は『オネーギン』の舞台で、生き生きと軽やかにオルガ役を好演。

今月末の「Love from Paris エトワール」ではフローリアン・マニョネ、ヤニック・ビタンクールと踊る。愛する東京の街を歩きまわれる機会を楽しみに、年末もリハーサルにいそしむ。

pari1201c04.jpg 「フェードル」
Photo Agathe Poupeney /
Opéra national de Paris

Q:『オネーギン』のオルガは、2009年にオペラ座のレパートリー入りしたときの初役。再び踊れることに喜びを感じられる役ですか。
A :そう、とてもうれしいわ。最初に踊ったときから年月がたち、私も人生 経験を積んで成長しているので、それをみせることができるでしょう。それに、この役には仲良しのマチアス(・エイマン)のエトワール任命という、とっても素晴らしい思い出があるからなの。私のほうが年上なので、姉と弟という関係。彼とは舞台で一緒に踊ることもとても多いのよ。任命の晩、彼が演じるレンスキーと踊るオルガ役は私ではなくミリアム(・ウルド=ブラム)だったので、私は舞台裏で公演をみていたの。そのおかげで裏でだけど、彼の任命に立ち会うことができたわ。その直後の彼との舞台では、最高の友達ではあるけど、エトワールと踊るのだわ!といささかストレスを感じてしまったのよ。おかしいでしょ。「以前と何も変わってないんだから、心配なんていらないよ」って彼がいったくらい(笑)。このときの思い出が、とても強いの。
 
Q:オルガという人物をどうみていますか。
A:最初はいささか軽いキャラクターだけど、後半は演じることが必要な役ね。オペラ座で私はあまりドラマチックな役に配されることがないので、この役のおかげでダンスの幅が広げられる、と、とても満足してます。前回配役されたときのタチアナはオーレリー(・デュポン)、今回はクレールマリ・オスタ。このように異なるエトワールと姉妹役で密に接することができるのも、すごくうれしい。オルガはまだとても若くって、男女の間の感情の機微とかがまだわかってないのね。とても無邪気。だからレンスキーをちょっと嫉妬させてみようとからかう感じに、オネーギンに接するの。愛情や傲慢さとか、そうしたことが悲劇を引き起こすことになる、なんて若いから想像もつかないのよ。この役は振付も好きだわ。テクニック的に第1幕のパ・ド・ドゥはとっても難しい。でも、ヌレエフの『くるみ割り人形』のようなのとは違って穏やかな踊り、といえるかしら。

Q:明るい娘役が多いですね。
A:そうですね、『くるみ割り人形』のクララとか、ね。この作品は華麗壮大に幕を閉じます。最後に死があったり、というものではない。これまでに踊った中で悲壮な終幕を迎える役といったら、『イワン雷帝』があるわ。このアナスタジア役を踊れたのは、とても幸運なことでした。でも、その当時はそんなことが全然わかっていなかったの。17歳でカドリーユの時代。もっそも、そのチャンスの大きさがわかっていたら、怖じ気づいていたでしょうけど、私ったら、あら最高!って思っただけ(笑)。今、もし踊らなければならないとなったら、きっと、すごいストレスに襲われてしまうでしょうね。

pari1201c08.jpg 「イワン雷帝」
Photo Icare / Opéra national de Paris
pari1201c09.jpg 「イワン雷帝」
Photo Icare / Opéra national de Paris

Q :  舞台に上がるのにストレスを感じたり、気が乗らないとかいうことはありますか。
A :    年齢を重ねるにつれて、少し。といっても、私は上がったりするタイプじゃないから。ごく当たり前の程度に不安を感じるくらい。例外はコンクールのときね。さすがにこのときは……。公演で舞台で踊るのは、ポジティブなエネルギーでいっぱい。とりわけ役を踊るときは、その前にたくさん稽古をするので、やる気満々よ。ただ、コール・ド・バレエで毎晩公演が続くと、踊りたい気持ちは一杯なのに、肉体的に辛い、となることはあるわね。スジェというのが大変なのは、ソリストの役も踊れば、コール・ド・バレエもする、ということ。ソリストだけだったら、自分の出の晩でなければ身体を休められるのでしょうけど……。

pari1201c01.jpg 「くるみ割り人形」
Photo Sébastien Mathé / Opéra national de Paris

Q:スジェは主役の代役に配されることもありますね。
A:そう。そして幸いなことに、代役でも、いつも舞台で踊れる機会が私にはまわってくるのよ。例えば『くるみ割り人形』のクララとか。この役は私のお気に入りなんです。とりわけ最後のパ・ドゥ・ドゥが大好き。バスチーユの誰もいない巨大な舞台に大きなシャンデリアが下がっていて、そこに出て行って踊るって、自分がとても小さく感じられてしまうの。この振付はとにかく難しいわ。過去に踊った中で、一番きついといえるかしら。ヌレエフ作品の中でも、これが一番難しいのじゃないかしら。チャレンジそのものね。でも、とにかく壮麗なシーン。あの音楽が聞こえてくるだけで、もう震えがくるわ。

Q :  この仕事での一番の楽しみは何ですか。
A :  演技を要求される役を踊れることかしら。でも、それもそうだけど、コンテンポラリーをもっと踊れたら、って思うわ。クラシック作品に配されることが続いていて、ちょっと物足りなく感じているところなの。私、テアトル・ド・ラ・ヴィルや地方の劇場で、コンテンポラリーの公演をよく見に行くの。素晴らしい作品がたくさんあって、床面との仕事などを身につけることで、クラシック・ダンスを豊かにもしてくれるだろうから、学んでみたい、って思うわ。舞台の楽しみといったら、チャレンジすることにもあるね。舞台に出る前は、どう展開してゆくか決してわからないでしょう。例えば、オーケストラの音楽は生だから、テンポが公演によって異なるので、とても注意深くなければならないのよ。踊るうちに疲労を通りこしたときにおきる、自分の身ながら自分の身でなくなるという感覚。これも素晴らしい瞬間ね。これによって、それまでの辛く長い稽古の時間をすっかり忘れられることができるのよ。

pari1201c02.jpg 「くるみ割り人形」
Photo Sébastien Mathé / Opéra national de Paris
pari1201c03.jpg 「くるみ割り人形」
Photo Sébastien Mathé / Opéra national de Paris

Q :  舞台に上がる前は何か特別なことをしますか。
 A:何か特別な習慣をもたないように、敢えてしているの。というのも、 もし何か上手くゆかないことがあると、それがとても大事なことのように思えてしまうでしょうから。舞台に上がる前に、コーチと自分がした稽古をすべて思い出す、ということはしています。コーチがいったこと、コーチからの直しを冷静に思い出すの。

pari1201c05.jpg 「リーズの結婚」
Photo Sébastien Mathé / Opéra national de Paris

Q:ダンスをはじめたきっかけを話してください。
A :  生まれはボルドーだけど、ダンスを習いはじめたのはビアリッツの近く。あふれる元気をスポーツなどで消費させないと、夜、眠れなかったり、家の中の何かを壊してしまう子供になってしまうでしょう。両親がダンスをなぜ選んだかというと、私が少し猫背ぎみだったから。でも、私、ダンスが最初は全然すきになれなかった。他にもいろいろやっていてテニスや乗馬の方が好きだったけど、素晴らしい先生との出会いがあって、だんだんとダンスが好きになっていったの。私には素質がある、といってくれて…。ダンサーが踊るのをテレビか何かでみて、私も!とか、チュチュや音楽に憧れて、という子供ではなかったわ。

Q :  どのようにオペラ座のバレエ学校に入ることになったのですか。
A :  私、マルセイユのピエトラガラのところで、バレエを習っていたんです。ダンスを仕事にしよう、という意識があって…。そのときに、オペラ座のバレエ学校に学費免除で入るには遅すぎるけれど、学費を払う生徒としてなら、まだチャンスがある、とわかったんです。それで早速ビデオや写真を学校に送って、オーディションを受けました。マルセイユでは1年、その後、オペラ座のバレエ学校で卒業までの3年を過ごしました。

Q :  バレエ学校時代、どんな良い思い出がありますか。

A :  学校は寮生活も含めて、まったく好きになれなかった。とても辛かったので、この3年は二度と経験したくないと思うほど。雰囲気になじめなくて、週末は学校の外にでて、ノエラ・ポントワにバレエを習っていました。

pari1201c06.jpg 「リーズの結婚」
Photo Sébastien Mathé / Opéra national de Paris

Q :  入団後はどうでしたか。
A:17歳で入団し、あとはとても順調。舞台の良い思い出はいろいろあって、例えば、2年前の『くるみ割り人形』。それからマチアスと踊った『リーズの結婚』。二人とも初役で、これは最高だったわ。彼とはマルセイユ時代から知り合いなのよ。オペラ座のバレエ学校では学年が違ったので、交流は途絶えたけれど、入団してからはガラで一緒に踊るようになって…。ガラに一緒に参加するというのは、一緒に旅をすることで、ホテルも自由時間も共に過ごすでしょう。この夏はバカンスも一緒だったのよ。彼と踊るのは本当に素晴らしいわ。二人とも性格が強いので、ときには……(笑)だけど、舞台では最高のパートナーで、彼には100パーセント信頼をおいてるわ。二人とも同じエネルギーレヴェル、同じランゲージを持っているといえ、何か不思議な魔法のようなものが舞台に生まれるの。視線も多くかわすし、とにかく互いに支え合っているといえるわね。ガラで彼がソロを踊ると、必ず会場は盛り上がって、ブラヴォーの連続となるでしょう。次に自分のソロの出を待つ私は舞台裏にいるのだけど、彼の成功ぶりが聞こえてくると、もう、私もやる気満々となってしまうの。私も!私も!っと(笑)。パートナーが成功をおさめるのを快く思わないダンサーもいるようだけど、私は違う。これによって、モティヴェーションがすごく得られるの。

pari1201c07.jpg 「リーズの結婚」
Photo Sébastien Mathé / Opéra national de Paris

Q :  「Love from Paris エトワール」で、マチアスと踊れなくなったのは残念ですね。
A : 彼の怪我は本当に悲しいわ 。『オネーギン』も一緒に踊れず、日本にも行かれず…。でも、彼の代わりにフローリアン(・マニョネ)、ヤニック(・ビタンクール)と踊れる機会が得られたので、これにはすごく満足してるのよ。私にとっては新しい体験ですもの。フローリアンは最高のパートナー、というのはオペラ座の女性ダンサーみんながいってるわ。すべての面で安定していて、舞台の上で信頼しきれる相手なの。彼と組めるのは、女性ダンサーにはすごい喜びなのよ。彼と踊れることもうれしいし、またバリシコニフの『コッペリア』を踊れるなんて、これまたすごくうれしいわ。これは初めての作品なの。つまり、日本のガラだけのために私たちはこれを今、稽古をしている、というわけ。ゲルシー・カークランドが踊ったビデオを見ながら仕事を進めてるのだけど、彼女、とにかく素晴らしいので、いささかプレッシャーを感じるわ。もう1つフローリアンと踊るのは、『ドリーブ組曲』。ジョゼ(・マルチネス)の振付けは好きだし、アニエス(・ルテスチュ)がデザインした衣装は自分がきれいになれる、という感じを与えてくれるし…。ヤニックとは、『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』を踊ります。アメリカでダンスを始めている彼はバランシンの振付は習得できてる、という人。そのおかげで、稽古はとてもスムーズよ。『ミューズを率いるアポロ』も私は初めて踊ることになって…一度にこんなに新しいことにチャレンジできるって、最高ね。

pari1201c10.jpg 「ドリーブ組曲」
Photo Sébastien Mathé / Opéra national de Paris

Q :  海外でのガラに参加することが多いようですね。
A :  そうなんです。とても幸運といえますね。  私、ヴァルナ国際ダンスコンクールで賞をとっているので、その関係でガラのオーガナイザーたちとコンタクトがあって、招待されることが多いんです。オペラ座で踊るのが仕事だから、多くの時間、いつも同じ人たちと仕事をしてることになりますね。でもボリショイ、ロイヤル・バレエなど素晴らしいダンサーが世界のあちこちにいて、ガラではこうした人々の踊りを見ることはできるでしょう。一度に様々なスタイルをみられ、そこから得られることもとても多いの。この「Love from Paris」もそうだけど、オペラ座では踊れない作品も踊れるというのも、ガラの喜びといえます。

Q : 来日は今度で何度めですか。
A:五回目になるかしら。マニュエル・ルグリのグループ公演では日本のあちこちを旅できて、とても楽しかった思い出があります。私、東京については、ちょっと特別な思い出があるの。最初にいったのは入団したてだったから、17歳のとき。当時、カンパニーの誰も知らなくて、友達もいなかったので、何一つ東京のことがわからない。何も食べられない。それで、毎日ポッキーだけ食べていたのよ。というのも、このお菓子はパリではミカドという名前で売られていて知っていたから。その後の来日で、この街を“飼いならした”と表現してもいいわね。相変わらず、生魚は食べられないけれど、今やお気に入りの都市で、自分の場所だと感じられる。東京もパリも都会なので、同じコード、同じ目安となるものがある。でも、同じ都市なのにこんなにも違う、ということで、もっともっと東京を知りたいってわくわくしてるの。

pari1201c11.jpg 「プルースト~失われた時を求めて」
Photo Julien Benhamou / Opéra national de Paris

Q :東京ではどんな街歩きをするのですか。
A :  昨年3月のオペラ座のツアーでは、上野から遠くないところに、昔ながらの家が残り、商店街もある古い地区を発見したのよ。谷中? そんな地名だったかしら。私、行ってみたいところは制覇しないと気が済まないタチで、他のダンサーからはクレージーだっていわれるけど、リハーサルの合間にガイド片手にあちこち歩き回るのよ。ふくらはぎに良くないって、あまり歩かないようにしてるダンサーもいるようだけど……。写真を撮るのが好きなので、一人でぶらぶらと歩きたいの。私、盆栽が趣味なのよ。自宅で、子供のように大切に大切に育ててるの。東京の郊外に盆栽ストリートがあると聞いたので、今回はボーイフレンドも一緒の来日なので、そこに行ってみるつもり。

Q:とてもスリムですが、日常の健康管理はどのようにしていますか。
A :  仕事が続くと痩せてしまうので、体重を減らさないようにと気をつけます。でも細いのは家系なんです。ベトナム系のママは小柄で私よりも細いのよ。パパも細身なんです。私、やせてはいるけどたくさん食べます。健康管理という点では、とにかく睡眠。怪我は私が疲れているときに襲ってくるので、最低8時間は眠るようにしてます。その他には特に…。でんぷん質をたくさんとって、水をたくさん飲んで、という程度。喫煙はダンスにはよくないし、ボーイフレンドにも約束したので、やめなければ、と思っています。

Q:今後どんな作品を踊りたいですか。
A:コンテンポラリー作品のクラシックといえるキリアンやマッツ・エックに、もう少し配役される機会が欲しいですね。オペラ座のレパートリーにはないけれどシディ・ラルビ・シェルカウィとかも踊ってみたい。こうしたコレオグラファーと仕事ができたら、と夢見ます。古典でいえば、『ドンキホーテ』のキトリ。これは絶対に踊りたい! チャンスがあれば、ぜひジュリエットも……今はコール・ド・バレエだけど、まだ先があるのだから、と期待してます。

<<10のショート・ショート>>

1.プティペール:カール・パケット。
2.プティットメール:イザベル・シャラヴォラ。
3. 今凝っていること:写真撮影。旅先だけでなく、パリでもカメラを持ち歩き、また舞台裏で撮影することもある。
4.定年後に考えられる仕事:写真、あるいは、公演のオーガナイゼーション(これはすでに徐々に始めている)。
5.ダンサーでなければ就いていたかもしれない仕事:写真家、あるいは美術館のキュレーター。
6.朝、最初にすること:シャワー。
7.コレクションしているもの:美術館の展覧会で見て気に入った作品のポストカード。裏に日付 ,場所などを記録している。
8.性格:ダイナミック。ポジティブ。
9.家が火事になったら持ち出すもの:撮影した写真が収めてあるハードディスク。
10. 幸せを感じる瞬間:単純なことだけど、レストランで友達と美味しいワインを飲み、美味しい食事をしたとき。