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三光 洋 Text by Hiroshi Sanko 
[2011.12.12]

瀟洒なヴェルサイユ王立歌劇場で上演された『マリー・アントワネット』

Theatre national de Chaillot  ヴェルサイユ王立オペラ
Patrick de Bana " Marie-Antoinette"
パトリック・ド・バナ振付 『マリー・アントワネット』

ヴェルサイユ王立歌劇場は、マリー・アントワネットの王太子(後のルイ16世)との結婚祝典のためにルイ15世が建造し、1770年に完成している。瀟洒な木造の600席の劇場は今でもバロックオペラやクラシック音楽の演奏会に使われている。
悲劇の王妃をヒロインにしたウイーン国立バレエ団の公演にとってこれ以上ぴったりした舞台はない。11月3日のプルミエには激しい嵐にも関わらずパリから多くのバレエ関係者が詰め掛けた。(パリ・オペラ座バレエ団のエトワール、マチアス・エイマンの姿も見られた)
マニュエル・ルグリ芸術監督から振付を依頼されたパトリック・ド・バナはナイジェリア人とドイツ人の血を引き、ジョン・ノイマイヤーのハンブルクバレエ団で腕を磨いた。その後、モーリス・ベジャールとナチョ・デュアトのソリストとして踊っている。

pari1112b01.jpg (C)Wiener Staatsballett/Dimo Dimov

バナの初めての全幕バレエ『マリー・アントワネット』は、50分の幕二つからなる。第1幕が「影からの登場」「ウイーンの宮廷で」「ロココ趣味の王妃」「トリアノン宮殿」、第2幕が「革命派のヴェルサイユ攻撃」「ヴァレンヌ逃亡事件」「監獄・王妃の孤独」と時系列をたどっているが、場面場面の歴史を描くのではなく、一人の女性の内面を身体と光によってとらえようとしている。
冒頭、青の照明に照らされた薄闇に奥の階段が浮かび上がる。装置はきわめて簡素で、舞台転換が容易になり、スムーズな流れが作られている。
例えば、第1幕1場が終わると天井からビーズの簾が下りてきて、2場のウイーンの宮廷となる。まず観客の目を惹いたのは、チュチュもトウシューズもはいていないダンサーたちの衣装だろう。パリ・オペラ座バレエ団のエトワール、アニエス・ルテステュのデザインは、軽いオーガンジー生地でダンサーの肌が透けて見え、身体のムーブマンが明瞭に見て取れる。効果的な照明とともに、上品な印象を与えていた。
クラシックの動きにコンテンポラリー・ダンスのジェスチャーを取り込んだバナの振付に対しては、「明瞭で効果的」(フィガロ紙アリアーヌ・バヴリエ)、「新しいものは何もない」(ヌーヴェル・オプセルヴァトワール誌)と評価は真っ二つに分かれた。

pari1112b02.jpg (C)Wiener Staatsballett/Dimo Dimov

ダンサーでは晴れやかなウイーン宮廷にデビューした少女の戸惑いを初々しく表情付けたオルガ・エジナ。遠国にいる娘を気遣う母であるオーストリア王妃を優雅に演じたダグマール・クロンベルガーのきれいな舞台姿が印象に残った。
バナの振付はおしゃれな肩の凝らないスペクタクルとしては成功しているものの、故ローラン・プティがプーシキン原作の『スペードの女王』を老公爵夫人と主人公ゲルマンとのパ・ド・ドゥだけに凝集させ、身体によらなければ不可能な濃密な情念の表現に到達していたような舞台からは程遠い。ヨーロッパと非ヨーロッパ世界との双方からの視点に立つことで、新しい地平を切り開こうとしているバナだけに、次の作品には彼独自の世界をに期待したい。
(2011年11月3日 ヴェルサイユ王立オペラ)

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pari1112b05.jpg (C)Wiener Staatsballett/Dimo Dimov pari1112b06.jpg (C)Wiener Staatsballett/Dimo Dimov

『マリー・アントワネット』
パトリック・ドゥ・バナ振付の2幕バレエ フランス初演
ウイーン国立バレエ団 
芸術監督/マニュエル・ルグリ
演出・振付/パトリック・ド・バナ
衣装/アニエス・ルテステュ 
装置/マルセロ・パチェコ、アルベルト・エステバン
照明/ジェームス・アンゴ
配役
マリー・アントワネット/オルガ・エジナ
ルイ16世/ロマン・ラジク
マダム・エリザベット/ケテヴァン・パテヴァ
運命/キリル・クルラエフ
マリー・アントワネットの影/アリス・フィレンツェ
アクセル・ドゥ・フェルセン/カミル・パヴェルカ
マリー・テレーズ(マリア・テレジア)/ダグマール・クロンベルガー
メルシー/ファブリツィオ・コッポ
ルイ15世/クリストフ・ヴェンツェル
ウイーンの宮廷人たち、ヴェルサイユの宮廷人たち/コール・ド・バレエ