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三光 洋 Text by Hiroshi Sanko 
[2011.12.12]

ヒロインのサンドリヨンの心の揺れを細やかに踊った、ルテステュ

Ballet de l’Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団
Rudolf Noureev " Cendrillon " ルドルフ・ヌレエフ振付『サンドリヨン』

『サンドリヨン』はフランスの作家シャルル・ペローの童話だが、意外なことにパリ・オペラ座でバレエが上演されたのは、1986年になってからである。そのヌレエフ版がバスチーユ・オペラ(初演はガルニエ宮)で再演された。

pari1112a03.jpg (C) Sebastien Mathé/Opéra national de Paris
幕が上がるとサンドリヨンの父が営んでいるバーが現れる。薄暗い照明に照らされた舞台はまるでセピア色のモノクーム写真を見ているようだ。中央左のベンチに継母と姉二人が座り、右の暖炉前にほうきを手にした灰色の服を着たサンドリヨンが立っている。姉たちが、ピンクと青のスカートなのと対照的だ。サンドリヨンは『ザ・キッド』という映画のポスターに見入っている。奥の扉の前には自由の女神像がある。
ヌレエフは時代を1930年代のハリウッドに移し、ヒロインが映画プロデューサーに見出され、スター俳優の心を捉えるという設定に置き換えた。サンドリヨンがチャップリン風に黒いシルクハットにステッキを手にして踊ったり、プロデューサーが髭に葉巻とメガネのグーチョ・マルクスの格好で登場したりする。
第1幕第2場は四季の踊りを取り入れたファッション・ショーで、サンドリヨンが新人女優として初舞台に立つための衣装を選ぶ場面、ついで第3場の映画スタジオとなる。背中にローマ数字を付けた12人の男性ダンサーが時計を演じるのは面白い。

pari1112a02.jpg (C) Sebastien Mathé/Opéra national de Paris

第2幕に入ると、3つの映画の撮影場面でキングコングまで登場する。第3幕のヒロイン探しは、スペイン・バー、中華クラブ、ロシア・キャバレーを経て、最後にサンドリヨンのいるバーで行われる。
この設定変更はバレエ評論家の解説によれば、女性が王子との結婚によって幸せになる、という夢が現代では才能をプロに見出されて著名人となって社会的地位と富を手にするという風に変わったからだということになる。しかし、その結果として、原作の童話にあった残酷さやメランコリー、ロマンチックな雰囲気は一掃されてブロードウエイのショーを思わせる舞台となった。時代設定を変えるという手法は1960年代からオペラで使われ、やがてバレエの世界にも取り入れられたものだが、初演から四半世紀が経過した今となっては、古くさい印象はぬぐえない。当時は斬新に見えたものが、今では失われたものにばかり注意がいく。

pari1112a05.jpg (C) Sebastien Mathé/Opéra national de Paris

カール・パケット(プロデューサー)やステファーヌ・ブリヨン(スター俳優)といったダンサーたちもこのヴィジョンにうまく溶け込めず、折角の抜群のテクニックが生かされなかった感じが否めなかった。
それでも、エンターテイメントとしてうまくいったのは、脇役の活躍によった。ステファーヌ・ファヴァロンが爪にやすりをかけたり、人差し指で首筋に触れたりする動作で気取った女性のイメージを巧みに創り、メラニー・ユレル、リュドミラ・パリエロが、見事なマイムと「下手な」踊りで姉二人の滑稽さを生き生きと描き出した。
しかし、クリスマス公演に連れられて来た子供たちの身を乗り出して拍手を送ったのは、やはりヒロインのアニエル・ルテステュだった。自分が掃いている床という現実と宙を漂う華やいだ夢との間を行き来する儚なげなまなざし、姉たちのバレエのレッスンを横目でみながら、そっとパを試してみる時の足先。ヒロインの心の揺れを積み重なれた細部によってそれとなく表現した。ブリヨンにリフトされ、見事にのびた長い手と脚に白いショールがたなびくフィナーレには、客席の誰もが見とれていた。
(2011年11月25日 バスチーユ・オペラ)

pari1112a01.jpg (C) Sebastien Mathé/
Opéra national de Paris
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Opéra national de Paris
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Opéra national de Paris

 

 

 
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pari1112a07.jpg (C) Sebastien Mathé/Opéra national de Paris pari1112a08.jpg (C) Sebastien Mathé/Opéra national de Paris

『サンドリヨン』
シャルル・ペローの童話による3幕バレエ
音楽/セルゲイ・プロコフィエフ
ファイサル・カルイ指揮 パリ国立オペラ管弦楽団
振付・演出・翻案/ルドルフ・ヌレエフ(パリ国立オペラ座 1986年初演)
装置/ペトリカ・イヨネスコ
衣装/森英恵
照明/グイド・レヴィ
配役
サンドリヨン/アニエス・ルテステュ
スター俳優/ステファーヌ・ブリヨン
姉/メラニー・ユレル、リュドミラ・パリエロ
継母/ステファーヌ・ファヴァロン
プロデューサー/カール・パケット
ダンス教師/クリストフ・デュケンヌ
父/ピエール・レティフ
春/ミリアム・ウルド・ブライム
夏/エヴ・グリンツタイン
秋/ノルヴェン・ダニエル
冬/サラ・コラ・ダヤノヴァ