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三光 洋 Text by Hiroshi Sanko 
[2011.11.10]

135年ぶりにジャン=ギヨーム・バールによりオペラ座に復元された『泉』

Ballet de l’Opéra national de Paris  パリ・オペラ座バレエ団
Jean-Guillaume Bart "La Source" ジャン=ギヨーム・バール振付『泉』

1866年11月12日にパリのルペルチエ劇場(当時のオペラ座)で初演された『泉』が一世紀半ぶりに蘇った。エキゾティックな中央アジアを舞台に、猟師のジェミルに恋した泉の精ナイラが自分を犠牲にして、彼が愛しているヌーレッダとの愛を成就させる悲恋がテーマである。

pari1111a01.jpg (C)Anne Deniau/Opéra national de Paris

優れたバレエ評論を残した小説家テオフィル・ゴーチエによれば、台本作家ニュイテールはアングルの絵画にインスピレーションを得て、バレエの物語を書いたという。「美女の多いコーカサス山地に湧き出ている泉こそ題材としてふさわしい」と。
『コッペリア』で知られるアルチュール・サン=レオンの振付(レオ・ドリーブ音楽)だが、『泉』は69回上演されただけで、1876年に来仏したペルシャ皇帝を歓迎するガルニエ宮の杮落とし公演を最後に、オペラ座のレパートリーから消えた。

パリ・オペラ座バレエ団の元エトワールのジャン=ギヨーム・バールはオペラ座バレエ学校在籍中にレオ・ドリーブの音楽を使ったレオ・スターツの『祭りの夜』を踊った。そして、わずか30歳のドリーブが『ドン・キホーテ』の作曲家ルドヴィッヒ・ミンスクとともに作曲した曲に、ロシア滞在中のサン=レオンが振付けた『泉』の特異な制作過程をバレエ史の本で知って興味をそそられたという。1990年になって指揮者のリチャード・ボニングが録音した『泉』のレコードを聴き、描写力に富んだ音楽に魅了された。やがてバールには、初演当時のパの記録が失われたこの作品を、ガルニエ宮の舞台に復活させたいという夢が広がった。

pari1111a02.jpg (C)Anne Deniau/Opéra national de Paris

1997年にバールの話を聞いたオペラ座バレエ団芸術監督のブリジット・ルフェーブルは、演劇、美術の専門家に声をかけた。この結果、コメディ・フランセーズの俳優、クレマン・エルヴュー・レジェがドラマトゥルギーを、やはり同劇場の俳優エリック・リュフが装置、クリスチャン・ラクロワが衣装、ドミニック・ブリュギエールが照明と豪華メンバーによるパリ国立オペラ座の総力をかけたプロダクションとなった。
振付家のバールは物語と無関係のディヴェルティスマンと長いパントマイムをカットすることで、3時間以上もあった原作を2時間20分にまとめあげた。本筋とは無縁のジプシー女や後宮の番人といった無駄な登場人物を外し、複雑な筋を明快にした。現代の作曲家のマルク=オリヴィエ・デュパンによって音楽も大幅に入れ替えられ、ドリーブの他の作品が織り込まれて編曲され、全体の統一性が目指された。
バールはヌレエフ流のテクニックを見せることに主眼を置くのではなく、バランシンやロビンズに範をとった流麗さと音楽性を重視したパを取り入れ、エレガンスを本領としたフランス流のバレエの理想を実現しようとした。このため、むずかしいテクニックが盛り込まれながら、見た目にはその困難さが感じられなくなった。ヒロインに起用されたレティシア・プジョルが練習中に怪我をし、パリエロが初日を踊った。

幕が上がると、天井から太い縄とビロードの帯が垂れ下がったすっきりした装置が現れ、コーカサスの山中に観客を誘った。妖精たちや後宮の寵姫たちの群舞はラクロワのオリエント色の濃厚な華麗な衣装が彩りを添えた。
登場人物の中では、ヒロインに影のようにつき従い、狂言回し的な重要な役である妖精ザエルをマチアス・エイマンが踊った。ヒロインの命の象徴であり、美女ヌーレッダと猟師ジェミルを結び付けるきっかけともなる花を、岩場から摘み取るのを宙吊りで助けたり、山の石切り場とカーンの宮殿という全く異なる空間を自在に軽快に駆け巡る。エイマンの突出した跳躍力と全身で周囲の空気を大きく掴み取るスケールある動きが一際、鮮やかだった。
ナイラに扮したリュドミラ・パリエロは、優れた技術で泉の精らしい重さをまったく感じさせない動き。イザベラ・シアラヴォラのヌーレッダは、妖艶な眼差しに連動した微妙な指先の動き、腕のかすかな震えといったディティールを積み重ねていく演技。そうした優れた表現によって、皇帝カーンに棄てられたフィアンセが、ヌーレッダに熱い思いを寄せている猟師の若者の純情に次第に傾いていく様が、ごく自然に感じとられた。カール・パケットもヒロインとヌーレッダの二人の女性から愛される猟師ジェミルの純情を巧みに表していた。

第1部のミンスクの音楽はダンサーの踊りやすさという点では効果的なものの、冗長でせっかくの完成度の高い舞台に値しないものだった。しかし後半はドリーブのめりはりのある情感豊かな曲は、急展開するドラマをオーケストラが気品高く奏で、哀しいフィナーレまで時間の経過を忘れさせた。

筋はかなり複雑だが、明快なバールの振付と装置・衣装の魅力もあいまってプルミエの観客は、大きな拍手でカーテンコールに現れたダンサーとスタッフを讃えた。今後は、ガルニエ宮のレパートリーとして定着することは間違いないだろう。人物像を掘り下げる余地がまだあるので、再演が楽しみな作品だ。
(2011年10月22日 ガルニエ宮)

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『泉』
シャルル・ニュイテールとアルチュール・サンレオン台本による2幕3場のバレエ
音楽/レオ・ドリーブ、ルートヴィッヒ・ミンクス マルク=オリヴィエ・デュパン編曲
コーン・ケッセルズ指揮パリ国立オペラ管弦楽団
振付/ジャン=ギヨーム・バール
装置/エリック・リュフ
衣装/クリスチャン・ラクロワ
照明/ドミニック・ブリュギエール
ドラマツルギー/クレマン・エルヴィユー=レジェとジャン=ギヨーム・バール
配役
ナイラ(泉の精)/リュドミラ・パリエロ
ジェミル(猟師)/カール・パケット
ヌーレッダ(カーンの婚約者)/イザベル・シアラヴォラ
モツドク(ヌーレッダの兄)/ヴァンサン・シャイエ
ザエル(ナイラの妖精)/マチアス・エイマン
ダジェ(カーンの寵姫)/ノルウェン・ダニエル
カーン(皇帝)/クリストフ・デュケンヌ