ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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大村真理子(マダム・フィガロ・ジャポン パリ支局長)
Text by Mariko OMURA 
[2011.09.12]

オペラ座ダンサー・インタビュー:ミリアム・ウード=ブラム

Myriam Ould-Braham ミリアム・ウード=ブラム(プルミエール・ダンスーズ)
来年、久々に日本へ、ネオクラシック作品を披露するのが楽しみ
pari1109int06.jpg 「感覚の解剖学」
photo / Anne Deniau : Opéra national de Paris

日本で踊った最後の舞台は2007年に参加した、「ルグリと輝仲間たち」のツアーだった。 フランス人形のような愛らしい顔立ち、確かなテクニック、理想的な甲を持つミリアム。この来日公演で彼女に魅了された日本のバレエファンも少なくないだろう。彼女がどのように作品に立ち向かい、また、どのようにダンサーの日々を生きているのか。新シーズンが始まったオペラ座で、インタビューはどうも苦手という彼女にダンス、私生活について話してもらった。

Q:今年はどんな夏休みでしたか。
A:今夏はガラ公演には1つも参加しなかったので、旅行をしたり、長いお休みを楽しみました。といっても、ルルヴェだけは毎日欠かさず。 やる気があるときは腹筋もしたりして…。また、プラハの有名なバレエ研修で4つの授業も受けたんです。7月半ばに前のシーズンが終わってからずっと何もしないでいると、仕事を再開したときが本当にたいへんなので。お休みなのだからダンスは脇において他のことをするのは大切なことだけど、怪我をすることがないように休み中もパーソナルな仕事は続けるというのは私には必要なことなんです。

Q:仕事の再開は夏休みの終わりを意味します。どんな気持ちで新シーズンを迎えましたか。
A:ダンスが好きなのだから、クラスレッスンが始まったのはとてもうれしかったわ。バーレッスンで身体を伸ばし、呼吸をして、というのは休暇中にはしていなかったでしょう。身体を動かして、自分自身の身体を感じるって、とても快適なことよ。ヒップの引き締め、美しい身体のライン、アンドゥオールの足…身体のラボというか、こうした追求を楽しんでいます。

Q:2011〜12年シーズンの最初の作品は何ですか。
A:リファール振付の『フェードル』です。年代はあまり確かではないのですが1970年ごろの公演が最後で、オペラ座では久しぶりの作品なんです。私の役はアリシーといって、フェードル(王妃)が恋するイポリット(王妃の義理の息子)に愛される娘の役です。『眠れる森の美女』のときもそうしたけど、原作のある作品を踊るときは本を先に読むようにしています。でも、ラシーヌのこの大悲劇はまだこれから。リハーサルが始まったばかりということもあるし、この手の作品は私の好みのジャンルというものではないので…。

Q:アリシーはドラマチックな演技を要求される役ですか。
A:私、演技が要求される役を踊るのはとっても好きなんです。でもこのアリシー役ではドラマチックな見せ所はあいにくとないんです。イポリットに愛され、幸福な娘。まだ若いので人生の不幸とかは未経験で、という役どころと私は解釈してます。

pari1109int02.jpg 「ロメオとジュリエット」
photo / Julien Benhamou: Opéra national de Paris

Q:愛される若い娘という役に配されることが多いですね。
A:ええ、そうね。でも、『ロメオとジュリエット』のジュリエットも4月には初役で踊っているんですよ。第一幕は確かに恋する若い女性ね。ちょっとばかりお転婆娘、と私は演じました。ロメオを踊ったのはクリストフ・デュケンヌ。彼とはとても仲良しで気も合うので、彼と組めてとてもうれしかったわ。で、この第一幕は私の地に近い女性。お転婆というか、私、あまり服装とか髪のほつれとか、かまわないほうで…気取りのないところが似ています。それが第二幕の最後、ティボルトがロメオに殺されたところで一転して、それまでのお転婆娘じゃなくなるんですね。もう誰もが知ってる愛らしいミリアムではなくなるんです。とても身近な存在だった従兄ティボルトの死を前にトランスしてしまう…。第三幕はパリスとの結婚という宿命に、第二幕からさらに変化していて自分の内なる声と対話するジュリエット。 1作品で3人の別の女性を演じた感じで、ジュリエット役は心から楽しめました。この作品では、過去にジュリエットを何度も踊ったエリザベット・モランが素晴らしい指導をしてくれたんですよ。こうした個性の強い役を演じられるという可能性を自分でも確認し、またオペラ座の幹部も確認するというチャンスが得られました。

Q:『ロメオとジュリエット』ではロザリーヌ役も踊りましたね。
A:ええ。でも1つの作品でどちらも初役という2つの役を踊るのは、簡単なことではなかったと言えます。もちろん、しょっちゅう音楽を聴くことができ、他の配役も見ることができて、という点では興味深いことですけど…。たいへん、でも、私、やったわ。そして、幸いにも上手くいったんです。上層部も満足してくれました。もっともジュリエット役に思うように集中することができなかったことは、心残りですね。私はロザリーヌ役がメインなので、こちらの責任を全うすることがまず第一だったので。学ぶことが多すぎたので、できれば1つの初役だったらよかったのに、と思わなくもありません。

pari1109int04.jpg 「くるみ割り人形」
photo / Julien Benhamou: Opéra national de Paris

Q:演技という点でここ数年あなたはとても進歩した、といっていたバレエファンの声を耳にしました。
A:進歩があったと見てくれた人がいるのを知って、うれしいです。演じることについては、わざとらしく見えないよう、自然に見えるようにといつも願っています。演じる面で進歩したい! と強く意識をしたのは、プルミエール・ダンスーズになってから。ミリアムでありながら、ミリアムに留まっていたくないって。それに私自身も成長してるのですから、23歳のときと今とでは見せられる物が違ってくるということもあります。豊かな感情表現を観客に見て欲しい、私の内にあるものを見せたいと思ってるので、ジュリエット役を得たときは本当にうれしかった。

Q:進歩のためには具体的にどんなことをしていますか。
A:パートナーが演劇に興味がないので劇場にゆくことはありませんが、映画はよく見ますね。それに私、読書家なのよ。以前はバルザックとかも読みましたが、最近は現代小説を多く読みますね。主人公の心理に入り込むんです。いかに主人公が出来事を経験しているか、と。私はインターネットはあまりしません。実際に本を手にとるという行為が好きなんです。紙を手に感じることが好きなんです。

Q:これまで舞台を一番楽しめたのはどの作品ですか。
A:それはやはり『ロメオとジュリエット』ですね。実に多くを学ぶことができたので。第三幕目では、本当に役に入り込んでいて、自分じゃなくなっていました。1か月かけて彼女の感情を追求した 結果です。一人の人物の三面を見せることは素晴らしかったけれど、この作品、テクニック的にはきつかったんですよ。特に第一幕。まるでマラソンですからね。でも振付は場面ごとに人物の心理に沿っていて、とてもよくできた作品です。ヌレエフのバレエはどれもそうですね。

Q:ヌレエフ作品は過去に『眠れる森の美女』が経験済みですね。
A:はい。私が主役を踊った最初の大作です。当時まだスジェだったんですよ。本を読み、資料を読み、準備しました。これもテクニック的にとてもきつい作品でした。でもすべて上手くいって…。もっとも今思えば、未熟だったかもしれません。だからこそ、もう一度踊ってみたいと思っています。今シーズン、『眠れる森の美女』が再演されると聞いて楽しみにしてたのですが…。

pari1109int01.jpg 「アーティファクト」
photo / Sébastien Mathé : Opéra national de Paris

Q:今シーズン、他には何か決まってる作品がありますか。
A:『フェードル』の後は、ジャン・ギヨーム・バールの『泉』です。そして、『オネーギン』があります。オルガ役です。これまた恋する若い娘の役ですね。私、いつかはタチアナ役を踊ってみたいの。それから私はネオクラシック作品を踊るのも大好きなので、今シーズンもぜひ、と期待をしてるんです。過去には特にフォーサイスの『アーティファクト』が楽しめました。オペラ座がはやく再演してくれないかしらって、思っています。ネオクラシック作品は身体に語らせるでしょう。これが好きなんです。身体が縮まり、身体が広がり、身体が下に向かい、身体が上に向かい……。身体が解放される感じが素晴らしいわ。フォーサイスとの仕事でたくさんのことを学びました。また『ジェニュス』『感覚の解剖学』でマクレガーと仕事をしたときには、これは数学だわって、思ったんですよ。クラシック・バレエと違って現代物はステップに特に名前がないでしょう。だから他の人という視覚的な指標をあてにして踊るのも、クラシック作品と違って面白いですね。

Q:クラシック作品と現代作品を同時に踊ることもありますか。
A:ええ。『パキータ』と『アーティファクト』が重なったことがありました。でも、1年中というのではないので、身体的な危険は感じませんでした。それどころか互いに補うようで、興味深かったほどなのよ。きっと年齢も関係してるのでしょう。今のところはまだ大丈夫よ。

Q:ダンスはクラシック・バレエから始めたのですか。
A:長い話となってしまうのですが…。アルジェリアに住んでいたときに、体操を始めたんです。平均台です。でもそのクラスがクローズしてしまい、母はその時間帯は私の面倒が見られないというので、姉が習っていたクラシック・バレエの教室に私を預かってもらうことにしたんです。そうしたら私は音楽に乗せて踊るのが気に入ってしまって、ただ大人しく見てるだけのはずだったのが、私もバレエを始めることになって…。5歳くらいだったかしら。その後フランスに引っ越して、すぐにではないけれどパリ郊外の教室に週3回通い始めました。そうしたら、“この子は素晴らしい、パリで学ばせなければ!”となって、11歳でパリの教室に。そこで今度は“この子はオペラ座で学ばなければ!”と。でも、それからすぐにではないのよ。その後、コンセルヴァトワールに通ってたときに、教師の勧めでクロード・ベッシーに写真を送って、オーディションをお願いしたんです。幸いにも学費支払生として第三ディヴィジョンに受け入れてくれたんです。14歳のときでした。バレエを始めたのも遅く、下から来た他の生徒のレヴェルにはとても至ってなかった私の面倒を、教師のリリアンヌ・ウダールがとてもよくみてくれ、助けてくれました。第三ディヴィジョンのとき、平日は学校で、週末はプライヴェートレッスンを受けて、という1年でした。というのも親が1年の学費を払ってくれ、果たして自分がそれに報えることができるのかどうかを知るのに時間を無駄にしたくなかったからです。オペラ座のバレエ学校には3年在籍しましたが、これは素晴らしい3年間でした。

Q:バレエを仕事に、ということを意識したのはいつ頃ですか。
A:コンセルヴァトワール時代、プロのダンサーたちと話す機会があって、ああ、いつも踊れていたら素晴らしいわ! って思いました。でも、仕事という意識を持ったのはオペラ座の学校に行ってからです。 バスチーユで『ラ・バヤデール』を最前列で見て、もうウットリ。そのときに二キアを踊ったのはアニエスで、彼女、まだエトワールになる前だったんじゃないかしら。私、子供のように憧れの眼差しで舞台を見ていました。ダンスで生活してゆけたら、と思った んです。

pari1109int05.jpg 「ドン・キホーテ」
photo / Sébastien Mathé : Opéra national de Paris

Q:昇級試験の自由課題には自分が見せたいものを選ぶと聞いています。あなたは何を選びましたか。
A:コリフェに上がったときの自由課題は『眠れる森の美女』でした。まだ舞台で踊る前のことです。なぜ、これを選んだかというと、入団以来私をコーチしてくれているローラン・ノヴィスの提案なんです。 長い脚、きれいな足といった “バレリーナ” の資質が私には備わってるから、と。私はこの選択にはちょっと躊躇いましたが、ローランに100パーセントの信頼を置いいるので。振付はアカデミックで簡単じゃなかったですね…でもたいへんなので、逆に、さあやるぞ! となって…。その結果コリフェに上がりました。スジェに上がった次の昇級試験では、『ドン・キホーテ』のキトリのヴァリエーション。これも同じ理由からの選択です。プルミエールに上がったときは、テクニック面で私の可能性がみせられ、かつチュチュで脚をちゃんと見せることもできるという課題を選びました。『ラ・バヤデール』のガムザッティのヴァリエーションです。若い娘というより女という面でも、過去に踊った自由課題とはまったく別物でした。それでプルミエールに昇級しました。
   
Q:いつか踊れたらと願っている役は何ですか。
A:ずっとジュリエット! ジュリエット! って言っていたのですが、それは4月に実現できて。今願うのは、『ラ・バヤデール』の二キア。でも、ガムザッティから始められるのなら、それも悪くないでしょうね。この役を演じるに十分な強さを私、持ってると思うの。そう見えないとしたら、私の隠されてる一面ということね、きっと(笑)。そして、先にも話したように『オネーギン』のタチアナ。ああ、それに『ジゼル』も。ごくわずかの例外を除いてエトワールしか配役されないというのだけど…。大作のヒロインは何でも踊ってみたいわ。私に合う、合わないということより、役の中に自分をはめこんでみたいの。カメレオンのように他人に成りきるのは、この仕事の醍醐味のひとつでしょう。とりわけ、私は実生活ではどちらかというと控えめな方なので。舞台でこうして他人になるのは、まるで小さな女の子がああなりたい、こうなりたいって願う夢のようね。

Q:オペラ座のレパートリー以外で興味を持っている作品はありますか。
A:パレ・デ・コングレで開催された日本のためのガラ公演でビゴンゼッテイの作品を見て、とても気に入ったんです。彼と仕事ができたら! って思っています。

pari1109int03.jpg 「コッペリア」
photo / Cosima Mirco Magliocca
: Opéra national de Paris

Q:グループ公演「Love from Paris  」で来年1月には日本ですね。
A:足首の故障で昨年の3月のオペラ座ツアー  には参加できなかったので、本当に久しぶりです。今からとても楽しみ。私、日本がとても好きなんです。観客はパリと違って温かいし、日本語はわからないけれど、日本人っ誠実で善良な人々だって感じられます。この間の大震災のときの国民の連帯には、フランスでは考えられないことなので、とても感動しました。もちろん外部からの視点にすぎないかもしれませんが…。

A:ジョジュア(・オファルト)と『白鳥の湖』の黒鳥のパ・ドゥ・ドゥを踊ります。ロットバルトも加えてパ・ドゥ・トロワという話も最初はあったけど  …。そしてマチュー(・ガニオ)と『アポロン』。彼ら二人とはオペラ座ですでに舞台を共にしていて、気が合うし、信頼のおけるパートナーです。ジョジュアとは『コッペリア』で一緒でしたが、彼の高い音楽性は良い拠り所となりましたね。演目は未定ですが、初めてバンジャマン・ペッシュと踊るんですよ。また私はぜひ日本でネオクラシック作品を踊りたいと思っていて、まだ確定ではないので詳しく話せないのですが、マチューとネオクラシック作品もおそらく踊ることになると思います。このグループ公演の素晴らしいことのひとつは、オペラ座では出来ないことが出来ることですね。

Q:1月の来日時、してみたいと思っていることはありますか。
A:最近、日本でもワインが作られていると聞いたので、ぜひ日本産ワインをテースティングしてみたいと思っています。私、量は飲みませんが、ワインが大好きなんです。後はもし時間があれば街を歩いて、人々の暮らしを見てみたいですね。

pari1109int07.jpg ptoto / Mariko Omura

<<10のショート・ショート>>
1 . プティ・ペール:ローラン・ノヴィス。
2.   プティット・メール:ダニエル・ドゥサール。
3. コレクション:変かもしれないけれど、映画館の半券。
4.    一番最近見た映画:『猿の惑星』。
5.   来年の夏のバカンス先:希望はタイ。でも夢に終わりそう。
 6.  火事にあっても絶対手離せない3点:ブルーアイのシャム猫ルールー。もちろん、愛しいパートナー。そして 再発行手続きが面倒な証明書類が入っていてるのでハンドバッグ。
7.   ストレス解消法:料理。
8. 今凝っていること:クレープ作り。
9. ダンス以外に考えられる仕事:料理関係。
10. 公演後最良の褒め言葉:素晴らしかった。良い時間を過ごせた。夢をみられた。