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斎藤 珠里 text by Julie Saito 
[2009.01.13]

『これが死か?』ル・リッシュ、ムッサン、ジルベール、オスタ・・・

BALLET DE L’OPERA NATIONAL DE PARIS  パリ・オペラ座バレエ公演  HOMMAGE A MAURICE BEJART  「モーリス・ベジャールへのオマージュ」

 2007年11月22日に他界した振付家モーリス・ベジャールとパリ・オペラ座の縁は切ってもきれない。
 1964年、ベルリオーズのオペラ『ファウストの刧罰』の舞台演出を皮切りに、65年にストラヴィンスキーの曲を用いてバレエ『狐』を世界初演、『結婚』『春の祭典』もオペラ座初演、67年に『ウェーベルン作品5』、70年にラヴェルの『ボレロ』、『火の鳥』を世界初演・・・最後は2006年にオペラ座バレエ学校のレパートリーとなった『ドン・ジョヴァンニのヴァリエーション』(ショパン作曲)。オペラ座および付属バレエ学校のレパートリーとなったベジャールのバレエは新作の9作品を含め23作品に上る。
 ジョルジュ・ドン、シルヴィ・ギエム、ルドルフ・ヌレエフ、パトリック・デュポン、ドミニク・カルフーニ、マリ=クロード・ピエトラガラ、ミカエル・ドナール、エリザベット・プラテル・・・ベジャールの作品を世に知らしめたオペラ座ダンサーたちが舞台に放ったオーラも忘れられない。

 私も1979年、パリ・オペラ座で初めてベジャールの『孤独な男のためのシンフォニー』や『ボレロ』を観たときの衝撃は忘れられない。これまでの私のバレエに対する見方を根底から覆されるようだった。その晩は眠れず、何が何でもバレエに携わる仕事がしたいと心に誓ったのを覚えている。なぜ、そんな衝撃を受けたのか? いま考えると、バレエの美的フォルムを追及しながらも、もっと根源的な人間の生命力やエロチシズムに真っ向から挑んだ身体表現のインパクトに、ただただ圧倒されたのだと思う。 

 晩年、ベジャールは心臓を患っていたが、最期まで気迫があったという。今回の公演プログラムにはベジャールと長年親交を温めたゴンクール賞受賞作家フランソワ・ヴェイエゴンが、こんな故人のエピソードを紹介した。
「ベジャールは無類のロールス・ロイス好き。亡くなる数日前も、ローザンヌの大学病院で集中治療とモルヒネ投与を受けながら私にこう言った。『ここから早く出よう。ロールス・ロイスが買いたいんだ。死後にカネを残すなんて、まっぴらごめん。だからロールス・ロイスを注文するのを手伝ってくれ。それから私の治療に必要なすべてを手に入れよう、ヴェニスもここからそう遠くないし・・・』」。ニーチェや三島由紀夫、マーラー、ワグナーといった精神世界に傾倒していながら、貪欲なまでの肉欲と物欲が混在していたのがベジャールの本質だと思う。

 今回、オペラ座は12月9~29日、ガルニエ宮でベジャールを偲ぶプログラムを上演した。演目は、リヒャルト・シュトラウスの『最後の四つの歌』に振付けた『これが死か?』(1970年に20世紀バレエ団がマルセイユ国立オペラ座で初演、パリ・オペラ座では79年からレパートリー)、ストラヴィンスキーの『火の鳥』(70年、パリ・オペラ座バレエがパレ・デ・スポールで初演)、同『春の祭典』(59年にバレエ・テアトル・ド・パリがモネ劇場で初演、オペラ座では65年からレパートリー)。

『これが死か?』は「男」のニコラ・ル・リッシュと、「死」のデルフィーヌ・ムッサン、「娘」のドロテ・ジルベール、「経験」のクレールマリ・オスタ、「洗練」のエミール・コゼットという豪華キャスティングで上演された。舞台上にソプラノ歌手を配し、4曲が進行するなかで歌手も舞台に横たわったり、移動したりする演出が加わり、曲と動きの一体感が生まれていた。ル・リッシュは4人の女性一人ひとりとのデュエットを通して人間くさい男の生き様を描いて出色の出来。白いレオタードのムッサンは全編を通して重力を感じさせないしなやかな動きをみせ、迫りくる甘美な死の世界を垣間見せてくれた。
(※写真は今回の公演のものではありません)

(c)Laurent Philippe/Opera National de Paris