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渡辺真弓 text by Mayumi Watanabe 
[2004.03. 5]

リヨン・オペラ座バレエ団がマッツ・エックの夕べ


リヨン・オペラ・バレエ
マッツ・エック振付<フロック>


  リヨン・オペラ座バレエ団が、2月3日から7日までテアトル・ド・ラ・ヴィルに来演。4年ぶりのパリ公演で、マッツ・エック作品を特集した。 プログラムは、当初2作品の予定が、間にエックのミューズであるアナ・ラグナが特別出演し花を添えることになった。 92年にこの劇場でエック振付の『カルメン』を演じた時は全く鮮烈だった。今回ラグナが踊ったのは、録音のパヴァロッティの歌をバックにした『オ・ソレ・ ミオ』。5分足らずの長さだったが、大胆でおおらかな魅力は変わっていない。

幕開きは、シルヴィ・ギエムとニクラス・エックによる映像で知られるペルト曲『ソロ・フォー・トゥー』(1996)。マルケタ・プルザコヴァとミシャ・コストルツェフスキが張りつめたデュエットを熱演した。
メインの演目『フロック』は、上演時間約1時間。パリ・オペラ座のために振付けた『アパルトマン』(2000年)に続く、フレッシュ・カルテットとのコラボレーション(生演奏でなかったのが残念)である。

  作品の傾向は似ているものの、巨大な黒いキューブを移動させながら展開するミステリアスな舞台は、エックの豊かなイマジネーションの世界を提示し、大きな 喝采を浴びた。踊り手は12人。スキンヘッドで、黒のスモーキング姿のダンサーが一人、闇の支配者といった趣で、舞台に出没し、突然キューブの上から宙に 消えるなど、まさに神出鬼没。ソロからデュエット、アンサンブルに至るまで、エック作品独特のエネルギッシュなパワーが充満し、終盤は、中国風のメロ ディーに乗った”中国の祭”で盛り上がり、最後に、おもちゃのねずみが舞台を走って幕が降りる。ユーモラスで、気のきいた演出に感心させられた。

 一方、第二劇場のレ・ザベスでは、アクラム・カーンの『カーシュ』(2002年)の再演があった。カーンは、バングラデシュ出身の両親のもと、ロンドン に生まれ、近年急速に脚光を浴びるようになった舞踊家である。頭を刈り上げ、インドの修行僧を思わせる風貌はそれだけでなにか神秘的ものを感じさせる。 『カーシュ』というヒンズー語のタイトルは、プログラムによれば”それから?”といった意だそうで、カーンを含めた5人のダンサーが、1時間近くの間、時 に激しく、時に静かに、踊りによる瞑想の世界へ引き込んでいく。踊りへの欲求を駆り立てるような乾いた音響(ニティン・ソーニー)に合わせて、手や腕の雄 弁な動きがくり返され、そこにインド舞踊との融合を見る思いがした。

  このところ、ヨーロッパでは、日本の勅使川原三郎やモロッコ系のシディ・ラルビ・チェルカウイなど欧米以外の国からの新進振付家に熱い目が注がれるようになってきたが、カーンもこれからの活躍が期待される振付家の一人である。



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