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渡辺真弓 text by Mayumi Watanabe 
[2004.10.10]

●84歳のアンナ・ハルプリンの公演

  昨今、プレルジョカージュやサーシャ・ヴァルツをはじめ、ヌーディズムへの回帰現象がしばしば見られるようになったが、その原点といえば、ポスト・モダン ダンスの草分け、アンナ・ハルプリンである。ハルプリンは、マーサ・グラハム、ドリス・ハンフリー、チャールズ・ワイドマンらによって確立されたモダンダ ンスの流れに乗らず、即興や日常的な動作を発展させながら、自然で根源的な生命力を持ったダンスを探究。マース・カニングハム、メレディス・モンク、シ モーヌ・フォルティ、イヴォンヌ・レイナー、トリシャ・ブラウン等ポスト・モダンダンスの舞踊家に大きな影響を与えたほか、門下には、日本の田中泯、川村 浪子、エイコ&コマ等もいる。そのハルプリンが、<フェスティヴァル・ドトンヌ・ア・パリ>の招きで、初めてフランスで公演すると知った時、にわかには信 じられなかった。ハルプリンは、現在84歳なのである。公演は、9月23日から三日間、ポンピドゥー・センターで行われた。

 プログラムは、1965年初演の『パレードとチェンジ』からの抜粋である『ドレッシング&アンドレッシング』と『ペーパー・ダンス』、そして、ハルプリン自身が出演する、2000年初演の『集中治療、死と臨終に関する考察』の2本。

 『ドレッシング&アンドレッシング』と『ペーパー・ダンス』は、前者は、白のシャツに黒のスーツ姿の 8人のダンサーが、衣服を脱いでは着るという動作をくり返すもの。ダンスというよりハプニングの行為に近い。しかし、非常にスローなテンポで行われる一つ 一つの仕草が、非常に洗練されて見え、今から40年前の作品という感じがあまりしない。後者は、タイトルそのままで、裸になったダンサーたちが、舞台に敷 かれた長い紙に包まれて動くもので、視覚的にも聴覚的にも、波や風のダイナミックなうねりを表わし、素朴な中に、大自然のエネルギーを感じさせた。
 

  『集中治療、死と臨終に関する考察』は、ハルプリン自身が集中治療を受けた際の体験が元になっているそうで、舞台には、ハルプリンを含め3人の患者がイス に座り、病気と死の恐怖と戦う光景がくり返され、痛々しくもある。最後に、ハルプリンは、ダンサーたちに抱きかかえられ、息を引き取る場面が演じられるの だが、そのポーズは、ピエタの像のようであった。
カーテンコールでは、感無量のハルプリンが、観客に、初の来演の喜びの気持ちを語り、客席のスタンディング・オベイションに応えて、うきうきと飛び跳ねる一幕もあった。
このハルプリンの来演は、パリのダンス・シーズン開幕の一つの事件として記憶されるだろう。

アナ・ハルプリン
『集中治療、死と臨終に関する考察』