原 桐子 text by Hara Tohko 
[2016.02.10]
[ シュツットガルト ]

甘美なひとときをもたらしたキリアン、ファン・マーネン、クランコのミックスレパートリーの夕べ

Stuttgarter Ballett シュツットガルト・バレエ
“Kylián, Van Manen and John Cranko, Mixed Repertory Evening “ "Forgotten Land " by Jiří Kylián、" Variations for Two Couples " "SOLO" by Hans van Manen、"POÈME DE L'EXTASE" by John Cranko
「キリアン、ファン・マーネン、クランコ、ミックスプログラムの夕べ」『忘れられた土地』イリ・キリアン:振付、『ヴァリエーション・フォー・トウ・カップルズ』『ソロ』ハンス・ファン・マーネン:振付、『法悦の詩』ジョン・クランコ:振付

久しぶりに冬のシュツットガルトを訪れた。そして、シュツットガルト・バレエ団の本拠地で上演された「ミックスレパートリーの夕べ」を観た。
イリ・キリアン、ハンス・ファン・マーネン、ジョン・クランコによる4作品が上演された。今シーズンは芸術監督であるリード・アンダーソンの就任20周年記念にあたり様々なプログラムが用意されていて、そのうちのひとつである。

1602Stuttgarter08.jpg 『忘れられた土地』
photo :  © Stuttgarter Ballett

まず、キリアンの『忘れられた土地』が上演された。ムンクの絵と使用曲の「シンフォニア・ダ・レクイエム」を作曲したブリテンの故郷、英国イーストアングリアの風景にインスパイアされたという作品。1981年にシュットガルト・バレエで初演された。
モノトーンの海原を背景にシンプルな、ほぼ単色のコスチュームをまとった6組の男女、12人のダンサーが全員後ろ向きで登場する。吹きすさぶ風の音だけがきこえ、不気味な旋律が流れそれぞれのパ・ド・ドゥがはじまる。カップルは黒、白、グレー、ベージュ、そして、赤、ピンクの女性ダンサーがまとうドレスの色で表される。
レクイエムというよりシンフォニアに重きが置かれた構成のブリテンの音楽。それぞれの楽章で黒、赤、白が主要なパートを踊る。第1楽章の黒は暗やみに佇む不安や喪失感、第2楽章の赤は太陽や体内に流れる血そのものの激しい動き。そして第3楽章の白では、穏やかですべてが浄化された世界が、音楽と融けあい舞台上に広がっていく。
腕を大きく広げて肘を折りまげた特徴的なアームスは、波のようにさざめき、風に任せて海を漂うかもめのように羽ばたき、荒廃した場所でメタモルフォーゼした蜘蛛のようでもある。
この忘れられた土地、すなわちこの世界ではない。もはや人ではないものに成り果てたあちらの世界をのぞいているようだ。
クリアな管楽器とシャープな打楽器のクレッシェンドで踊られるそれは、あちら側へ行って人としての全てを忘れてしまっても、踊らずには居られないダンサーの性さえ感じさせた。

1602Stuttgarter07.jpg 『忘れられた土地』photo :  © Stuttgarter Ballett

続いてはハンス・ファン・マーネンの2作品が上演された。『ヴァリエーション・フォー・ツー・カップル』は、男女2組のカップルの駆け引きやせめぎあいが展開される。何組か見たが、バデネス、カマルゴとシモン、ノヴィツキーの回が印象に残った。
このキャストでは美しいラインを堪能できただけでなく、ふとした仕草がチャーミングで、リアリティを感じさせ、以前見たときは海の碧さを思わせたブルーの照明が、この回のみ不思議と天上の碧さを思い出させて心安らかになれた。
『ソロ』は文字通り、男性ダンサーの3人それぞれがソロを踊る。
ヨハン・セバスチャン・バッハの「パルティータ1番」、バイオリン・ソロにのせて踊られるアレグロ。音符のほぼすべてにステップが充てられているかのような細かいムーブメントなのにじつにクリアだ。3人が入れ替わり舞台に現れコミカルな動きを交え、繊細な弦の響きに合わせエナジェスティックにシャープに踊る。
この作品では、純粋に音楽とステップそのものを楽しめ、そのためか観客はの拍手がひときわ大きかった。
ダンサーはアレン、ロビンソン、ラッセル=ジョーンズなど、どのダンサーもすばらしいが目を引いたのがドゥミ・ソリストに昇進したばかりのルイス・スティンス。独特の色気があって空間をはさみで切り裂くようなパワーがあった。

1602Stuttgarter05.jpg 『ヴァリエーション・フォー・ツー・カップル』
photo :  © Stuttgarter Ballett
1602Stuttgarter06.jpg 『ヴァリエーション・フォー・ツー・カップル』
photo :  © Stuttgarter Ballett
1602Stuttgarter03.jpg 『ソロ』photo :  © Stuttgarter Ballett 1602Stuttgarter04.jpg 『ソロ』photo :  © Stuttgarter Ballett
1602Stuttgarter01.jpg 『法悦の詩』(photo :  © Stuttgarter Ballett

最後はジョン・クランコの『法悦の詩』(原題「POÈME DE L'EXTASE」)。音楽はスクリャービンの「ソナタ9番」と「法悦の詩」が用いられ、クリムトをフィーチャーしたユルゲン・ローゼのセットとコスチュームがとにかくゴージャスで美しい。アール・ヌーヴォー風の瀟洒なサロンに人々が集まっている。そこへ現れる歌姫。その歌姫を盲目的に恋してしまう若者との愛の物語が1場。サロンに集まったゲストの動きは、アール・ヌーヴォーにその影響を与えたと言われる、古代エジプトの壁画のよう。神々に捧げられる祭祀の聖なる踊りのようで、身体は横を向いて顔は正面を向く。手をシンメトリーに重ねてひらひらと動かせ、一列に並んで身体をくねらせ揺らす。
若者は彼女に振り向いてもらいたい一心で、これでもかとばかりに情熱的な跳躍、回転技をやって見せる。
2場は歌姫のいうなれば白昼夢。次々に4人の昔の恋人が妖精王のような姿で現れる。マント以外は裸に近い姿で、それぞれが歌姫とまさに愛の営みを繰り返す。歌姫と4人の恋人の間に繰り広げられる、恍惚の眼差しで高く舞い上がるリフトはオーガズムをイメージさせる。そこには現実の恋人、若者がいる。時にはそこに加わってパ・ド・トロワを踊り、一方で膝をかかえて部屋の隅で歌姫と昔の恋人たちとの営みをうらやましく眺めている。
これは現実なのか夢なのか、不思議な空気が舞台を支配する。
最後には若者も去り、歌姫はクライマックスに昇りつめたまま、ひとり満たされて人生を悟り、中央に立ち幕が下りる。
フォーゲルは最近になってその飄々とした一面が出てきたような、味わい深い踊りを見せる。またアマトリアンは、空気のような軽さで官能的にストーリーを語っていて成熟したダンサーの輝きを放つ。
エモーショナルで甘美な彼らのパ・ド・ドゥは観客を酔わせた。

1602Stuttgarter02.jpg 『法悦の詩』(photo :  © Stuttgarter Ballett

滞在中、エゴン・マドセン、トーマス・レンパーツ、マリアンヌ・クルーゼ、そしてユリア・クレーマーの4人、さらにシュツットガルト・バレエのフォーマースターらの公演がシアターハウスで催されていたので足を運んだ。1時間程の公演だったが、ノイマイヤー、ビゴンゼッテイ、グッケ、エリック・ゴーティエなどの作品を交えたウィットに富んだ楽しいプログラムだった。かつてのスター、エゴン・マドセンは、衣装のトレンチコートに身を包んで颯爽としていて、その存在感は健在だった。
(2016年1月10日、1月16日 シュツットガルト州立劇場)

Stuttgarter Ballett
「キリアン、ファン・マーネン、クランコ、ミックスプログラムの夕べ」
会 場:シュツットガルト州立劇場
指揮者:ジェイムス・タグル(10日)、ウルフガング・ハインツ(16日)
演 奏:シュツットガルト州立管弦楽団

プログラム&キャスト
『忘れられた土地』
振 付:イリ・キリアン
音 楽:ベンジャミン・ブリテン
衣装、美術:ジョン・マクファーレン
キャスト
「ファースト・ムーブメント」
アリシア・アマトリアン、ジェイソン・レイリー
ロシオ・アレマン、ロマン・ノヴィツキー
ヒョジョン・カン、ミリアム・カセロヴァ
アンジェリーナ・ズッカリーニ、エレナ・ブシュエヴァ
ダニエル・カマルゴ、フリーデマン・フォーゲル
ルイス・スティンス、マッテオ クロッカード=ヴィラ
「セカンド・ムーブメント」
ヒョジョン・カン、ダニエル・カマルゴ、
アンジェリーナ・ズッカリーニ、ルイス・スティンス
「サード・ムーブメント」
ミリアム・カセロヴァ、フリーデマン・フォーゲル
アリシア・アマトリアン、ヒョジョン・カン
ロシオ・アレマン、アンジェリーナ・ズッカリーニ
エレナ・ブシュエヴァ
ジェイソン・レイリー、ダニエル・カマルゴ
ロマン・ノヴィツキー、ルイス・スティンス
マッテオ クロッカード=ヴィラ

『バリエーション フォー トゥー カップルズ』
振 付:ハンス・ファン・マーネン
音 楽:ベンジャミン・ブリテン、エイノユハニ・ラウタヴァーラ、シュテヴァン・コヴァッチ・ティックマイエル、アストル・ピアソラ
衣装、美術:ケソ・デッカー
キャスト
10日マチネ:エリサ・バデネス、ダニエル・カマルゴ、ミリアム・シモン、ロマン・ノヴィツキー
10日ソワレ:アリシア・アマトリアン、ダニエル・カマルゴ、アンナ・オサチェンコ、ジェイソン・レイリー
16日:アリシア・アマトリアン、ダニエル・カマルゴ、ミリアム・シモン、ジェイソン・レイリー
『ソロ』
振 付:ハンス・ファン・マーネン
音 楽:ヨハン・セバスチャン・バッハ
衣装、美術:ケソ・デッカー
キャスト
10日マチネ:コンスタンティン・アレン、ロバート・ロビンソン、アダム・ラッセル=ジョーンズ
10日ソワレ、16日:コンスタンティン・アレン、ロバート・ロビンソン、ルイス・スティンス

『法悦の詩』
振 付:ジョン・クランコ
音 楽:アレクサンドル・スクリャービン
衣装、美術:ユルゲン・ローゼ
キャスト
ビューティー(歌姫):アリシア・アマトリアン
若者:フリーデマン・フォーゲル
彼らのヴィジョン:ロマン・ノヴィツキー、コンスタンティン・アレン、
マルティ・フェルナンデス・パシャ、ジェイソン・レイリー
ソサエティ(サロンの人々):マッテオ クロッカード=ヴィラ 他