[ シュツットガルト ] ラドメーカーがシュツットガルト・バレエへさよならを告げた『ジルベスター・ガラ』

Stuttgart Ballet シュツットガルト・バレエ団

"SILVESTER GALA" 「ジルベスター・ガラ」

冬の冷たさが清々しい夜だった。シュツットガルトでジルべスター・ガラが上演された。
シュツットガルト・バレエは、イングリッシュ・ナショナル・バレエからアリーナ・コジョカル、英国ロイヤル・バレエからエドワード・ワトソンをゲストに迎えた。バレエ団のほとんどのプリンシパル、ソリストたちが顔を揃え、オーケストラの指揮は常任であるジェイムス・タグルとウルフガング・ハインツのふたり。大晦日ならではの豪華なガラだ。
マルコ・ゲッケ、デミス・ヴォルピ、クリスチャン・シュプックなどを始め、ハンス・ファン・マーネン、イツィク・ガリリ、クランコ、マクミラン、ノイマイヤーなどの振付家の15の作品群がずらりとプログラムに並んだ。ハンブルク・バレエのニジンスキー・ガラやウィーン国立バレエのヌレエフ・ガラのような華やかさ、目新しさはないが、シンプルながらコンテンポラリーからネオ・クラシックまでバランスがとれていて、バレエ団の「今」を等身大で見せるには良い構成だったと思う。
最初に芸術監督のリード・アンダーソンの挨拶があり、客席にはバレエ団の往年のスター、マリシア・ハイデや他ダンサーたちの姿もあった。

1部はクランコの『ボリショイに捧ぐ』から始まる。リフトテクニックを見せる作品で、今のバデネスとカマーゴには似合っているピースだったと思う。
続くデビッド・ムーアによる『モペイ』。彼が踊ると男でも女でもない、ユニセックスで不思議な魅力があった。 『AUS IHRER ZEIT』は昨年カールスルーエで初演されたヴォルピ振付。アマトリアンのチュチュの先が、スクエアの型でピルエットのたびにひらひらと揺れる。アレンが、その花に吸い寄せられたみつばちさながらに飛び跳ねるようなパはコケティッシュでユニークだった。
1部最後はラドメーカーの『エフィ』。ジョニー・キャッシュの歌う "いつかは分からないけれど、晴れた日にまた会いましょう" という歌詞のくだりが、今宵はラドメーカーからのメッセージに聞こえる。果てしないエネルギーにつき動かされるような渾身のパフォーマンスだ。

「ヴァリエーション・フォー・トゥー・カップルズ」©Stuttgart Ballet

「ヴァリエーション・フォー・トゥー・カップルズ」©Stuttgart Ballet

2部はシュツットガルト・バレエ初演、ファン・マーネンによる『ヴァリエーション・フォー・トゥー・カップルズ』。闇夜の月を思わせる半円のブルーのライトに照らされたアマトリアン、アレンとオサチェンコ、ジョーンズの2組のカップル。特にプロットはないバレエだが、2組のカップルが鏡のあちら側とこちら側、光と影がときどきで入れ替わるようなイメージのムーブメントで、完璧なユニゾンは静謐でとても美しかった。
次はクルグがシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』をベースに、現代版として振付けた『レディオとジュリエット』のパ・ド・ドゥ。冒頭でダンサーのカチェロワ、ノヴィツキーのシルエットのみがライトに照らされ浮かび上がる様子には、客席から感嘆のため息がもれ聞こえた。抜粋なのでストーリー性までは感じられなかったが、レディオヘッドのメランコリックな歌声とワルツのように優雅なパ・ド・ドゥは観客に気に入られたようだった。

マノン」寝室のパ・ド・ドゥ ©Stuttgart Ballet

マノン」寝室のパ・ド・ドゥ
©Stuttgart Ballet

昨年ロンドンのメン・イン・モーションで上演された『3 WITH D』。ハビエル・デ・フルートス振付による男性デュオがラドメーカーとワトソンで踊られた。シンガー兼ギタリストが現れ、ダンサーふたりも現わる。男性ふたりの濃密な関係性が描かれたこの作品は、かつて見た若者たちの葛藤や愛をテーマとしたアメリカのロードムービーのワンシーンのよう。主人公が焚火を前にして相手にぽつりと愛を打ち明ける。若者の純粋さ、一途さが垣間見られるその美しい場面を思い出させた。
2部の最後はフォーゲル、コジョカルによる『マノン』より寝室のパ・ド・ドゥ。東京、ロンドンで『ロミオとジュリエット』で初めて組んだカップルだが、それぞれに何度も踊っている役柄。相性もよいのか、マノンとデ・グリューが逃げ出して束の間の暮らしを楽しむこのシーン、ふたりきりの時間を愛おしんでいるのがわかる。柔らかく弧を描く美しい足さばきが物語を紡ぐ様は幸せなオーラをかもし出した。

3部は『レオンスとレナ』2幕からアンサンブルによるものよりスタート。ポーズをとるダンサーが少しずつ動き出す。間の取り方がとても絶妙でコミカルな表情は観客の笑いを誘った。
『ドン・キホーテ』3幕のパ・ド・ドゥ。この日のプログラムの表紙にも写真が使われていたが、衣装に使われている赤の色合いがシックで、デザインはシャープなのにとてもエレガント。カマーゴとバデネスの華やかでダイナミックなステップ。バデネスのフェッテはダブルを5、6回、後半にも入れ、カマーゴの力強いジャンプは爽快で一気にお祭りムードで喝采を浴びた。
ガラッと雰囲気が変わりイツィク・ガリリの『The Chambers of a Heart』。男性ふたりによるデュオでレイリーとフォーゲル。Tシャツにパンツのカジュアルな衣装。ベートーヴェンのピアノソナタ、月光が使われ、振付からは親しい人をなくしてしまったかのような喪失感、孤独が伝わった。

「ドン・キホーテ」パ・ド・ドゥ ©Stuttgart Ballet

「ドン・キホーテ」パ・ド・ドゥ
©Stuttgart Ballet

ラストを締めくくったのはスージン・カンとマライン・ラドメーカーによる『椿姫』より第3幕のパ・ド・ドゥ。ラドメーカーはこの日がシュツットガルト・バレエを去って、母国のオランダ国立バレエ団にプリンシパルとして移籍する。。スージン・カンも韓国国立バレエ団の芸術監督に就任したので、ここシュツットガルトではあまり踊っていない。
ガラなどで見る機会も多いこのパ・ド・ドゥ、他のダンサーと比べて、リフトやスローは驚異的なスピードがあるにも関わらず、豊かな演技力は損なわれることがなく、リリカルで生々しい踊りは観客の心を捉えた。アルマンとマルグリットの最後の逢瀬はそのまま、ラドメーカーとカン、またはシュツットガルトの人々と彼らとの別れとシンクロして胸を熱くさせた。2014年の最後を飾るにふさわしい感動的な幕切れに観客から惜しみない拍手が送られた。
(2014年12月31日 ドイツ、シュツットガルト州立劇場)

「The Chambers of a Heart」©Stuttgart Ballet

「The Chambers of a Heart」
©Stuttgart Ballet

「椿姫」3幕パ・ド・ドゥ ©Stuttgart Ballet

「椿姫」3幕パ・ド・ドゥ
©Stuttgart Ballet

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©Stuttgart Ballet

プログラム&キャスト
第1部
『ボリショイに捧ぐ』

振 付:ジョン・クランコ
音 楽:アレクサンドル・グラズノフ
指揮者:ジェイムス・タグル
演 奏:シュツットガルト州立管弦楽団
ダンサー:エリサ・バデネス、ダニエル・カマーゴ
『モペイ』
振 付:マルコ・グッケ
音 楽:C.P.E.・バッハ
ダンサー:デビッド・ムーア
『AUS IHRER ZEIT』(シュツットガルト初演)
振 付:デミス・ヴォルピ
音 楽:エドワード・グレッグ
指揮者:ウルフガング・ハインツ
演 奏:シュツットガルト州立管弦楽団
ピアノ:デビッド・ダイアモンド
ダンサー:アリシア・アマトリアン、コンスタンチン・アレン
『バイト』
振 付:カタルツィナ・コツィエルスカ
音 楽:ガブリエル・プロコフィエフ
ダンサー:アンナ・オサチェンコ、ジェイソン・レイリー
『エフィ』
振 付:マルコ・グッケ
音 楽:ジョニー・キャッシュ
ダンサー:マライン・ラドメーカー
第2部
『ヴァリエーション フォー トゥー カップルズ』(シュツットガルト初演)

振 付:ハンス・ファン・マーネン
音 楽:ベンジャミン・ブリテン、エイノユハニ・ラウタヴァーラ、シュテヴァン・コヴァッチ・ティックマイエル、アストル・ピアソラ
ダンサー:アリシア・アマトリアン、アンナ・オサチェンコ、コンスタンチン・アレン、アレクサンダー・ジョーンズ
『レディオとジュリエット』よりパ・ド・ドゥ(シュツットガルト初演)
振 付:エドワード・クルグ
音 楽:レディオヘッド
ダンサー:ミリアム・カチェロワ、ロマン・ノヴィツキー
『アリュール』
振 付:デミス・ヴォルピ
音 楽:ニーナ・シモーネ
ダンサー:ミリアム・サイモン
『3 WITH D』(ドイツ初演)
振 付:ハビエル・デ・フルートス
音 楽:コール・ポーター、ジョージ・ガーシュイン、ダン・ギレスピー・セルズ、シアラン・ジェレマイア
シンガー/ギター:ダン・ギレスピー・セルズ
ピアノ:シアラン・ジェレマイア
ダンサー:エドワード・ワトソン(英国ロイヤル・バレエ)、マライン・ラドメーカー
『マノン』より寝室のパ・ド・ドゥ
振 付:ケネス・マクミラン
音 楽:ジュール・マスネ
指揮者:ジェイムス・タグル
演 奏:シュツットガルト州立管弦楽団
ダンサー:アリーナ・コジョカル(イングリッシュ・ナショナル・バレエ)、フリーデマン・フォーゲル
第3部
『レオンスとレナ』より2幕の場面、アンサンブル

振 付:クリスチャン・シュプック
音 楽:ヨハン・シュトラウス、ベルント・アロイス・ツィンマーマン、マーティン・ドナー
指揮者:ウルフガング・ハインツ
演 奏:シュツットガルト州立管弦楽団
ダンサー:ヘザー・マックアイザック他アンサンブル
『ドン・キホーテ』よりパ・ド・ドゥ
振 付:マキシミリアーノ・グエラ
音 楽:ルートヴィヒ・ミンクス
指揮者:ジェイムス・タグル
演 奏:シュツットガルト州立管弦楽団
ダンサー:エリサ・バデネス、ダニエル・カマーゴ
『The Chambers of a Heart』(世界初演)
振 付:イツィク・ガリリ
音 楽:ルートヴィッヒ・バン・ベートーベン
ピアノ:アレクサンダー・ライテンバッハ
ダンサー:ジェイソン・レイリー、フリーデマン・フォーゲル
『ファンファーレLX』
振 付:ダグラス・リー
音 楽:マイケル・ナイマン
指揮者:ウルフガング・ハインツ
演 奏:シュツットガルト州立管弦楽団
ダンサー:アリシア・アマトリアン、アレクサンダー・ジョーンズ
『椿姫』より3幕のパ・ド・ドゥ
振 付:ジョン・ノイマイヤー
音 楽:フレデリック・ショパン
ピアノ:アレクサンダー・ライテンバッハ
ダンサー:スージン・カン、マライン・ラドメーカー

ワールドレポート/その他

[ライター]
原 桐子

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