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岡元ひかる text by Hikaru Okamoto 
[2017.12.11]

関西のダンサーたちが宮下靖子バレエ団に集って、深川秀夫の3作品を踊った

宮下靖子バレエ団
『パラード』 深川秀夫:振付、レオニード・マシーン:原振付 / 『グラズノフ・スウィート』深川秀夫:振付 / 『真夏の夜の夢』深川秀夫:振付、原振付:ジョージ・バランシン

10月22日、「音楽で見る美術館」と題した宮下靖子バレエ団の公演が、びわ湖ホールで開催された。演目は深川秀夫の振付作品『パラード』(原振付:レオニード・マシーン)、『グラズノフ・スウィート』(深川のオリジナル作品)、『真夏の夜の夢』(原振付:ジョージ・バランシン)の三本である。昼公演と夜公演のうち、筆者は後者に足を運んだが、台風による荒天をよそに客席は埋まっていた。
深川はジョン・クランコやジャン・クロード・ルイーズらに学び、ドイツで活躍後、帰国後は関西や名古屋を中心に振付作品を発表している。この公演ではそんな深川作品の上演を続けてきた宮下バレエ団のメンバーを中心とする関西のダンサーが集い、異なる三作品の中にも貫かれた深川秀夫の世界観への理解を示した。

osaka1712a_01.jpg 「パラード」撮影:岡村昌夫(テス大阪)

一つ目の『パラード』は、今年でちょうど初演から100年目を迎えた作品である。20世紀初頭を風靡したバレエ団、バレエ・リュスが生み出した初演版『パラード』は、振付のマシーンの他にパブロ・ピカソやエリック・サティなど、当時1917年の最先端を走るビッグネームがコラボレーションした総合芸術である。この初演版では中国やアメリカ、フランス出身の多様なキャラクターが登場したが、深川版の出演者は19人の少女たち。使用されたサティの音楽では、美しい旋律やタイピングの音、ピストルの音がコラージュのように脈絡なく繋げられている。この音楽の切り替わりに合わせて、少し大人びた雰囲気の少女たちが、踊りの表情を細かに変化させていた。
二つ目の『グラズノフ・スウィート』は1985年の初演以来、国内のバレエ団で何度も上演され、2005年にはジョン・クランコ・バレエスクールのレパートリーとしても振付けられたこともある、深川秀夫の代表作だ。『ライモンダ』の楽曲が用いられ、ソロのヴァリエーションやトリオ、アンサンブルの短い踊りが順番に登場する構成となっている。
これに限らず、深川秀夫の作品ではしばしば短い時間の中にたくさんの動きが詰め込まれている。ところが今回ヴァリエーションを踊った福田恵美、株田佳香、大塚馨、下村由梨香、植田明美、藤本瑞紀、井澤照予、石川直実らは、早いテンポで動く中にも踊りの間を解釈し、独自のニュアンスを作り出していた。さらに群舞のシーンでは、今回の出演者が異なるバレエ団から集ったメンバーであることを忘れさせるほどに、統一感のある空気が立ち上がっていた。出演者の間で、とりわけ目線使いや、デコルテのラインを美しく見せる方法がよく共有されていたように思われる。そのため個人ばかりではなく、作品全体から高貴さとコケティッシュな魅力を併せもつ女性像が立ち現れてきた。と同時にダンサーらは時折、マスコットのようなかわいらしい瞬間も垣間みせる。そんな多面性が、彼女たちをより美しくみせているのかもしれない。

osaka1712a_02.jpg 「グラズノフ・スウィート」撮影:岡村昌夫(テス大阪)

最後の演目は、シェイクスピアの戯曲とメンデルスゾーンの音楽でお馴染みのバレエ『真夏の夜の夢』の深川版である。宮下バレエ団のコール・ド・バレエには、『白鳥の湖』や『ジゼル』の群舞を彷彿とさせる静謐さが感じられ、恋のドラマを繰り広げるメインキャストたちの人間味との好対照をなしていた。パックを演じた吉田旭は、いたずら妖精としてのキャラクターを演じる中にも、ノーブルな彼の持ち味を残していた。オーベロンの梶田眞嗣の跳躍はいつも人一倍高く、今回の舞台でも彼が飛ぶとハッとさせられる。その相手、タイターニアを演じた井澤照予は、パ・ド・ドゥで魅せるポーズ一つ一つの造形美が印象に残った。軽やかな身の運びで、これまで同じ深川版のパックを好演している窪田弘樹は、今回ディミトリアスをコミカルに演じ、舞台の雰囲気を明るく持ち上げていたように感じられた。
キャストの充実などの点から考えても、今回ほどの規模・質の公演を単独で開催できる大きなバレエ団は、特に関西では少ない。しかし、一人の振付家が信頼を寄せるダンサーが各バレエ団に散らばることで、同じ世界観が団体を超えて共有されている状況は興味深く、そのことはバレエ団のネットワーク拡大という面においても功を奏しているのではないだろうか。
(2017年10月22日夜 びわ湖ホール 中ホール)

osaka1712a_03.jpg 「真夏の夜の夢」撮影:岡村昌夫(テス大阪)
左:井澤照予 右:梶田眞嗣
osaka1712a_05.jpg 「真夏の夜の夢」撮影:岡村昌夫(テス大阪)
ダンサー:吉田旭
osaka1712a_04.jpg 「真夏の夜の夢」 撮影:岡村昌夫(テス大阪)