静寂の『ジゼル』と享楽的な『グランドホテル』のダブル・ビル、法村友井バレエ団創立80周年公演

法村友井バレエ団

『ジゼル』マリウス・プティパ:原振付、法村牧緒:改訂振付
『グランドホテル』ジャン・ブラバン:原振付、クリス・ラトレ:改訂振付

静寂の『ジゼル』、賑やかで享楽的な『グランドホテル』という時代も雰囲気も異なる作品を並べたダブル・ビルによる、法村友井バレエ団創立80周年記念公演。80年の歴史の中で、カンパニーを彩ってきた名花たちが踊り継いできた『ジゼル』が上演されるということも感慨深い。

一部は、バレエ・ブランで定評のある法村友井バレエ団の持ち味が如何なく発揮された『ジゼル』。
秋が深まりつつあるドイツ北部の山村、彼方に葡萄畑と古城がのどかに見渡せる舞台で幕が開く。ジゼルはバレエダンサーとして成熟期に入ってきた法村珠里。アルブレヒトは跳躍の脚さばきの美しさ、長い腕の柔らかな動きで気品ある雰囲気の今村泰典。ヒラリオンには法村圭緒という盤石の配役だ。近年の法村珠里は役柄の心理描写、表情、そこに描き出す輪郭が美しく、技術の高さに加えて舞台を重ねる毎にバレエダンサーとしての深みが増している。

「ジゼル」河野裕衣、今井大輔 撮影:尾鼻文雄

「ジゼル」河野裕衣、今井大輔 撮影:尾鼻文雄

一幕では、恋に心躍らせる初々しい可憐な様子から、アルブレヒトの裏切りを知って絶望し、狂乱するまでの表現がが圧巻だった。幸せであった頃の花占いの戯れをつかの間思い出し、花を手に顔をあげた瞬間に乱れた髪から覗いた瞳は空しい。すでにアルブレヒトからも裏切られた現実からも精神が乖離していて、死の気配に足元を引きずられていく。客席は水を打ったような静寂に支配された。
二幕では、ウィリーたちの群舞の中で、精霊の女王として威風辺りを払う坂田麻由美のミルタ、そして冷ややかで酷薄なドゥ・ウィリーの今井沙耶の踊りが際立って、生と死に分けられた悲恋のドラマに奥行きを与えた

「ジゼル」撮影:尾鼻文雄_

「ジゼル」法村珠里 撮影:尾鼻文雄

「ジゼル」法村珠里、今村泰典 撮影:尾鼻文雄

「ジゼル」法村珠里、今村泰典 撮影:尾鼻文雄

「ジゼル」撮影:尾鼻文雄

「ジゼル」撮影:尾鼻文雄

二部は、華やかな中に哀愁が共存するチャーリー・チャップリンの音楽に、王立フランドル・バレエ団の故ジャン・ブラバン女史が1979年に振付した『グランドホテル』。法村友井バレエ団では2004年に初演し、今回が4度目の上演となる。この作品は、映画『グランド・ホテル』をベースにしており、1920年代のベルリンの高級ホテルを舞台に、その時代のスターたちが織りなす様々な人生模様を描いている。当時、全盛だったアール・デコ風の美しくシンプルな曲線が施されたホテルに、ローウエストのドレスと、漆黒が麗しいスーツで着飾った往年のスターたちや上流階級の人々、初々しい新婚夫婦、また、どこか憎めないホテルに忍び込んだ泥棒などが登場して、小気味よく次から次へと展開していく。クラシック・バレエの優美な踊りが流麗に輝く、胸躍るひとときだった。
『ジゼル』のような群舞の緻密さ美しい舞台、『グランドホテル』のような主役級のダンサーたちが活躍する作品を並べて、どちらも遜色なく、見応えのある公演を行える実力のあるダンサーが揃っている。あらためて80年間を歩み育んできた、このカンパニーのバレエ芸術の重みを感じた公演だった。
(2017年6月4日 あましんアルカイックホール)

「グランドホテル」安武達朗、佐藤 航 撮影:尾鼻文雄

「グランドホテル」安武達朗、佐藤 航 撮影:尾鼻文雄

「グランドホテル」今井沙耶、岡田兼宜 撮影:尾鼻 葵

「グランドホテル」今井沙耶、岡田兼宜 撮影:尾鼻 葵

「グランドホテル」撮影:尾鼻文雄

「グランドホテル」撮影:尾鼻文雄

「グランドホテル」撮影:尾鼻文雄

「グランドホテル」撮影:尾鼻文雄

ワールドレポート/大阪・名古屋

[ライター]
吉村 麻希

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