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吉村 麻希 text by Maki Yoshimura 
[2016.07.11]
From Osaka -大阪-

瑞々しさが眩しい中尾早織のキトリ、深い存在感を表わした法村圭緒のバジルが魅せた『ドン・キホーテ』

法村友井バレエ団
『ドン・キホーテ』法村牧緒:芸術監督/演出 ゲンナジー・セリュツキー:監修

関西を代表するバレエ団、法村友井バレエ団の第15回アルカイック定期公演として『ドン・キホーテ』が上演された。バジル役で出演している法村圭緒がワガノワ・バレエ・アカデミーに留学していた時の恩師であり、マリインスキー劇場バレエのバレエマスターを務めるゲンナジー・セリュツキーが監修している。1992年に初演されたが、『ドン・キホーテ』全幕上演は関西で初めてのことだった。以来同団のレパートリーとなり、今回が4回目の再演となる。
この作品を選んだ理由を、法村友井バレエ団団長の法村牧緒は「現在それができるダンサーがいるから」と語った。実際、老舗バレエ団のダンサーの層の厚さが存分に発揮された配役である。キトリ 中尾早織、バジル 法村圭緒の二人の恋物語を、ドン・キホーテ 井口雅之、キトリの父ロレンツォ 岩本正治、メルセデス 法村珠里ら才気溢れるダンサーたちが踊る見応えのある公演となった。

osaka1607a_8017.jpg 第一幕 “バルセロナの広場” 撮影 / OfficeObana 尾鼻文雄(すべて)

osaka1607a_5175.jpg 中尾早織、法村圭緒
第一幕、仄暗い部屋の中で騎士道物語を読みふけるドン・キホーテが、サンチョ・パンサ(奥田慎也)を率い、空想上のヒロイン “ドルネシア姫” を敵から救出するべく冒険の旅に出ると、一転して、目に鮮やかな紺碧の海を見渡す港町バルセロナの広場にシーンが転換する。力強い太陽を浴びて育ったバレンシアの柑橘類を思わせる黄や橙の衣装を纏った町の女達、タンバリンを携えた快活な町の男達の登場で大いに賑わい、舞台の高揚感は一気に高まる。その中心で一際、存在感を発揮したのは、中尾早織のキトリ。最近の中尾は、丁寧な役作りで観る毎に鮮やかな印象を残している。今回のキトリ役でも持ち味である優雅な軽やかさに加え、輪郭のはっきりした気っ風のいい足捌きと、軽快な振り。そして軸がぶれないしなやかな上体、くるくると自然に変化する愛らしい表情で観客を魅了した。恋人の法村圭緒のバジルとの駆け引きも小気味良く、息の合った仲の良さを伺わせる。しかし、貴族のガマーシュと結婚させたいキトリの父親ロレンツォが、二人の仲に割って入る。そこにキトリをドルネシア姫と思い込んだドン・キホーテやサンチョ・パンサも加わって大騒ぎ。それに乗じて恋人たちは駆落ち。広場を後にする。
喧噪から一転して静けさの漂う第二幕。二人は町外れのジプシーたちの野営場に辿り着いた。ジプシーたちは彼らを追ってきたドン・キホーテという珍客に驚きつつ歓迎し、宴でもてなす。その席で披露されたイスパニアの歴史を元にした芝居の最中、イスパニアの姫君がムーア人に襲われる場面のこと。現実と芝居が分らなくなったドン・キホーテは、劇中の姫君を救わねばと猪突猛進、さらに怪物と勘違いした風車にまで突進して巻き込まれ、地面に叩き付けられる。怪我を負い横になるうちに夢の中へ。優美な姫となって現れた中尾早織のドルネシア姫、妖精やキューピッドたちは、ドン・キホーテとともに幻想の世界に遊ぶ。儚い時間も束の間、キューピッドの矢に胸を打ち抜かれ、ドン・キホーテは夢から醒める。そして恋人たちを追ってきたロレンツォとガマーシュとともに、町へと戻ってゆく。
第三幕は町外れの喧噪な酒場。なおもキトリにガマーシュとの結婚を迫るロレンツォの目前で、大胆な狂言自殺を図るバジル。そして泣き崩れるキトリ。哀れな二人に同情したドン・キホーテの説得に渋々結婚を認めたロレンツォ。その様子をうかがい知ると、結婚できる喜びを弾けさせるキトリとバジル。

osaka1607a_10207.jpg 法村圭緒、中尾早織

晴れて結ばれた第四幕は結婚の宴。バジルの法村圭緒はベテランらしい余裕ある見事なサポートで、天衣無縫のキトリをより魅力的に見せる。集中力を最後まで途切れさせることなく、パ・ド・ドゥも華々しく踊り、音楽とともに端正で安定した技術で緩急自在に踊り、観客に清福な余韻を残した。幸せ溢れる二人を祝福し、再びドン・キホーテは “心の旅” を追い求め旅立っていった。

この物語には欠かせないキャラクター・ダンスもそれぞれに印象深かった。情熱的で艶やかな街の踊り子のメルセデスを踊った法村珠里は、溌剌とした跳躍と大きな身のこなしが華やかな闘牛士のエスパーダ役の今村泰典との相性もよく、物語の彩りには充分すぎるほどの存在感が感じられた。指先にまで憂いを含んだ妖艶さが満ちているジプシーの坂田麻由美、清廉さと風格を兼ね備えた森の女王の河野裕衣、ふわりと舞い上がる軽やかさと繊細さを併せ持った愛の妖精の久村萌子、滑稽ながらも貴族らしい優雅さを纏い、どこか憎めないガマーシュのドミトリー・プィハチョフらの熱演も成功の鍵となった。ダンサーの動きや表情を逃すことなく、機微に富んだ演奏で、この人間味溢れる物語を盛り上げた関西フィルハーモニー管弦楽団(指揮:江原 功)の好演も讃えたい。
(2016年6月5日あましんアルカイックホール)

osaka1607a_8030.jpg 第二幕“ドン・キホーテの夢” osaka1607a_5004.jpg 井口雅之、奥田慎也
osaka1607a_5405.jpg ドミトリー・プィハチョフ osaka1607a_6072.jpg 今村泰典、法村珠里
osaka1607a_7439.jpg 坂田麻由美 osaka1607a_6893.jpg 中尾早織
撮影 / OfficeObana 尾鼻文雄(すべて)