ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Osaka Nagoya <大阪・名古屋>: 最新の記事

From Osaka Nagoya <大阪・名古屋>: 月別アーカイブ

すずな あつこ text by Atsuko Suzuna 
[2015.10.13]
From Osaka -大阪-

ユーゴーの「ノートルダム・ド・パリ」を篠原聖一オリジナル振付で下村、青木、福岡、山本らが踊った

佐々木美智子バレエ団
『AΝ'AΓKH』篠原聖一:演出・振付

“AΝ'AΓKH”──“宿命”、“運命”といった意味のギリシャ語だそうで、ヴィクトル・ユーゴーがノートルダム大聖堂を訪れた時に、壁にこの“AΝ'AΓKH”という落書きがあるのを見て、小説『ノートルダム・ド・パリ』を執筆したと言われている。この言葉をタイトルにした篠原聖一振付の新作バレエ。選曲から篠原が行ってのまったくのオリジナルで、本当に人間の“宿命”について想いを馳せさせる深みのある作品に仕上がっていた。

osaka1510a_1449.jpg 下村由理恵、青木崇
撮影:文元克香(テス大阪) 

主役エスメラルダを踊ったのは下村由理恵。ジプシーとして育ったことを納得させる天真爛漫な明るさと、周囲の男性たちを夢中にさせる魅力を見せながら、フェビウス(青木崇)への一途で清純な恋心、そしてその奥の、カジモドの心を受け止める優しさ。そうした感受性の豊かさと、場面場面での複雑な心情をそれぞれ繊細に表現していてさすがだった。人というのは、1人の中にもさまざまな面がある、エスメラルダはジプシーとして粗野にも見える振る舞いも見せるが、清らかで初心な少女でもある──それが違う役のように見えるわけでなく、同じ人物のなかにあるさまざまな面だと受け止められるように演じられているのが本当に素晴らしいと思った。
加えて、他のキャストも実力派が揃っていた。“詩人”、物語を語る存在、といった役柄で表されることの多いグランゴワールは、今回の舞台ではスケッチブックを抱えた画家という設定で福岡雄大が踊った。若い初心な青年で、チャーミングなジプシーのエスメラルダに心をかき乱される役どころ。荒々しい登場人物が多い中、品を感じさせて役柄をよくこなしていた。フェビウスの青木崇は、エスメラルダが恋をするに相応しい華のある格好良さ、バレエテクニックも良い。また、聖職者でありながらエスメラルダに肉欲を抱くフロロは山本隆之、さまざまな役柄をこなしてきたベテランだからこそ、と思える演技。不気味とも言える冷徹さや葛藤が静かに表現されていた。
そして、醜い姿に美しい心を持ったカジモドは佐々木大。普段のバレエとは違う不自由な身体独特の動き、その動きのなかで、やはり場面ごとの感情を繊細に表現。特にエスメラルダが処刑される直前のソロは、テーマ“宿命”そのものを踊るような──悔しさ、決意などさまざまな感情が複雑に絡み合って伝わってきて圧巻。
そんなベテラン勢を中心とした実力派ソリストたちの素晴らしさはもちろん、ジプシーたちや民衆たちの群舞も、このバレエ団だからこそといえそうな荒々しい魅力があったことも忘れられない。ジプシーの中心クロパン(今井大輔)とクロパンの妻(板東ゆう子)を中心とした踊りは迫力たっぷり。変化に富み観客を惹きつける全幕作品に仕上がっていた。
(2015年8月30日 八尾プリズムホール)

osaka1510a_1091.jpg ジプシーたち 撮影:岡村昌夫(テス大阪) osaka1510a_0902.jpg 下村由理恵、佐々木大 撮影:岡村昌夫(テス大阪) 
osaka1510a_0889.jpg 撮影:文元克香(テス大阪)  osaka1510a_0884.jpg 下村由理恵、佐々木大、福田圭吾
撮影:岡村昌夫(テス大阪) 
osaka1510a_0805.jpg 佐々木大 撮影:岡村昌夫(テス大阪)  osaka1510a_0697.jpg 下村由理恵、山本隆之 撮影:岡村昌夫(テス大阪)
osaka1510a_0621.jpg 水口早織、青木崇 撮影:岡村昌夫(テス大阪)  osaka1510a_0401.jpg 下村由理恵、福岡雄大 撮影:岡村昌夫(テス大阪) 
osaka1510a_1568.jpg 下村由理恵、福田圭吾、岩本正治、福岡雄大 撮影:岡村昌夫(テス大阪)