[大分]首藤康之のジャンルを超えた創造体験を活かした試みが楽しかった『ドン・キホーテ』
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第17回 大分県民芸術文化祭 開幕行事
『ドン・キホーテ』首藤康之:振付
首藤康之が出身地の大分市で『ドン・キホーテ』全3幕を振付けた。2010年に大分市の笠木バレエ研究所が創立50周年を迎えて、ここからバレエを始めた首藤が、振付・演出した『くるみ割り人形』全幕が、たいへんおもしろかったので、また観に行った。
今回の『ドン・キホーテ』(音楽レオン・ミンクス)公演は、大分県民芸術文化祭の開幕行事として行われた。そして公演会場のiichiko総合文化センターに隣接して大分県立美術館がオープンしたこともあり、大分県芸術文化スポーツ振興財団が主催し、おおいた洋舞連盟が共催に入った。まさに大分県が中心となって力を入れて行われた公演である。バレエがこうした文化行事の中心となることは、たいへん喜ばしいことである。
第1幕でドン・キホーテは夢の中でドゥルシネア姫と出会い、淡いブルーのスカーフを(キューピッドから)優しく巻かれる。しかし、サンチョ・パンサの乱入によって、甘い夢から目覚める。するとドン・キホーテは、現実の自分の首にスカーフが巻かれているのに気付いて驚く。そして、ドゥルシネア姫にお礼を言うために、パンサを供に旅立つ。
バルセロナの広場で、キトリとバジル、そしてガマーシュ、ロレンツオの結婚騒ぎに遭遇したドン・キホーテは、キトリをドゥルシネア姫だ、と思い込む。
『ドン・キホーテ』佐藤香名、福岡雄大
(c)杜多洋一
第2幕の冒頭、ロマの野営地のシーンでは、バジルとキトリはシルエットで登場して雰囲気のあるパ・ド・ドゥを踊る。続いて芝居を見せる屋台のワゴンと、ロマの旅芸人の一行がシルエットで姿を現す。第1幕の終盤の昼間のバルセロナの広場のシーンとくっきりとコントラストがついていて、夢と現(うつつ)の入り混じった物語に相応しい演出である。ロマの旅芸人が仮面劇を演じる。それを観ているうちに、現実と劇の出来事の区別がつかなくなったドン・キホーテは怒り狂って、風車に激突して気絶。この狂乱のシーンも迫力充分だった。
ドン・キホーテは今朝見た夢と同じ宮廷にいた。キューピッドに誘われてドゥルシネア姫や宮廷の女王、キューピッド、小さなキューピッドたちと時を過ごす‥‥。
『ドン・キホーテ』丸山和彰(ドン・キホーテ)、藤代博之(サンチョ・パンサ)
(c)杜多洋一
一方、キトリとバジルは旅芸人のワゴン車に隠れ乗って、バルセロナの酒場に姿を現す
サンチョ・パンサがロレンツオ、ガマーシュを連れてきて、ドン・キホーテは目を覚ます。そしてバルセロナ広場へとキトリとバジルを追う。
ついに二人は、ロレンツオとガマーシュに発見されて、キトリはロレンツオの店のあるバルセロナの広場に無理やり連れて来られる。そこではガマーシュとキトリの結婚式の準備が着々と進めれていた。広場の上には大きなフラワーリングが飾られ、キトリはブーケを着けられウエディング衣装を着せられて‥‥。
するとそこに黒いマントに身を包んだ床屋のバジルが颯爽と登場。あの有名な狂言自殺を敢行した! これは愛ある自殺だと密かに知らされたキトリは、猛然とドン・キホーテにアピール! 憧れのドゥルシネア姫のそっくりさんに突き動かされた騎士、ドン・キホーテは、スラリと剣を抜いて、と思ったら風車に激突して剣を失っていた。騎士としてはなんたる体たらく、と一瞬ひるむが、目の前にバジルが狂言に使った大きな剃刀があった。絵には成らないが仕方がない、剃刀を手にロレンツオに迫る。頑固親父ロレンツオもついに愛し合う二人を許して、めでたしめでたしの大団円となった。首藤演出は、これらの出来事は、1日の時間の経過の中で起ったこと、という設定にしている。ちなみに、ドン・キホーテがドゥルシネア姫を夢見たのは午前5時。キトリとバジルが無事結婚式を挙げたのは、午後9時のことだったそうだ。
バジルは新国立劇場バレエ団の福岡雄大が踊った。近年、彼のコミカルな演技にも才気を感じていたのだが、ここではしっかりと舞台の芯となる主役の務めを立派に果たした。キトリはオーディションで選ばれた佐藤香名。一心に踊っている様子が感じられて好感の持てる演舞だった。特に終盤の狂言自殺のシーンでは落着いて演じて、ドン・キホーテを動かし、バジルとの結婚を勝ち取るまでの一連の動きは見事だった。もう一人、新国立劇場バレエ団から参加した井澤駿は、エスパーダとロマの首領を堂々と踊った。
『ドン・キホーテ』井澤駿
(c)杜多洋一
首藤は周知のように、古典名作バレエからベジャール、ノイマイヤーなど尖鋭なバレエやヨーロッパのコンテンポラリー・ダンスのみならず、小野寺修二演出のパントマイム、映画やテレビなどに出演し、ジャンルを横断した活動をしている。そうした活動が、前回の『くるみ割り人形』や今回の『ドン・キホーテ』の全幕ものの演出・振付に活かされている。
『ドン・キホーテ』は喜劇のバレエであり、マイムの部分が重要な要素となる。そこで今回はダンサーではなく、マイムをベースとしたパフォーマンス集団CAVAのメンバーがドン・キホーテ(丸山和彰)、サンチョ・パンサ(藤代博之)、ロレンツォ(黒田高秋)、ガマーシュ(細見慎之介)を演じた。マイムは詳細にそして大きく表現されていた。ダンサーのマイムではないので、少し音楽との関係が異なったが、これは首藤がパントマイム体験などを踏まえて、バレエとマイムの合作として作っているのであり、バレエの将来にとって興味深い試みである。
今回の出演者は総勢120人以上だと聞いたが、すべて適所に配置されていてそれぞれの役割をきちんと果たしていた。このように多くの出演者のある舞台の初演で、整然とした印象を与えることは簡単なようで、じつは非常に難しいと思う。
首藤振付は新機軸を試みているが、バレエの伝統を尊重して活かし、そのおもしろさを引き立てるために使われているのである。
(2015年9月22日 iichiko 総合文化センター グランシアタ)
『ドン・キホーテ』第1幕 ドン・キホーテの夢 宮廷
(c)杜多洋一
『ドン・キホーテ』第2幕 ロマの野営地
(c)杜多洋一
『ドン・キホーテ』井澤駿
(c)杜多洋一
『ドン・キホーテ』佐藤香名、福岡雄大
(c)杜多洋一
『ドン・キホーテ』松田彩
(c)杜多洋一
『ドン・キホーテ』第2幕 ドン・キホーテの夢 宮廷の場
(c)杜多洋一
『ドン・キホーテ』 (c)杜多洋一
ワールドレポート/その他
- [ライター]
- 関口 紘一