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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2013.10.10]
From Nagoya -名古屋-

ベケットの不条理劇に着想を得たキリアンの『EAST SHADOW』世界初演

あいちトリエンナーレ 2013
『EAST SHADOW』Choreography/Over concept by Jiří Kylián
『イースト シャドー』イリ・キリアン:振付、コンセプト

第2回目となったあいちトリエンナーレ2013は「揺れる大地----われわれはどこに立っているのか:場所、記憶、そして復活」をテーマとして掲げている。つまりは、東日本大震災後のアートは何か、を探ろうという試みなのであろう。
このあいちトリエンナーレの最も注目すべき作品といわれるイリ・キリアンの新作『EAST SHADOW』(世界初演)を観た。

nagoya1310a01.jpg 羽鳥直志(撮影)

劇作家サミュエル・ベケットの『Neither』がテキストとして使われている。モートン・フェルドマンがオペラにしたことでも知られるが、邦訳は『いずれとも知れず』である。「いずれとも知れず」が「east shadow」となって、少なくともタイトルには一つの方向が選ばれている。そこに東日本大震災の津波を思うのは穿ち過ぎだろうか。
キリアンはこの作品は悲喜劇である。ベケットの不条理劇から基本的な発想は得たが、それと同じ程度に「他者とともに、あるいは単に自分自身とともにさえ生きようと務めるわれわれの不変の試みとその難しさ(あるいは可能性)からも得ている」という。

舞台は左右に区切られて、同じように高い小窓とドアのある部屋がしつらえられている。シンメトリーだが、下手側にだけはテーブルと2脚の椅子が置かれている。上手側には同じ部屋が映像で映され、やはりテーブルと椅子が映しだされる。向井山朋子のピアノ演奏が始まる。音楽はシューベルトの「ピアノ・ソナタD959アンダンティーノ」と自身が作曲した2曲を向井山明子がライヴ演奏している。
下手の部屋に初老の男と女が登場して、ダンスしたり、笑い、喜び、恐れ、哀しんだり意味のない日常的なやりとりを行う。つまり、下手の部屋では、無声映画のようなライヴパフォーマンスが行われ、上手の部屋はやはり二人の映像が映される。だが、それは二人の現在が同時に映されたものであったり、まったく関係ない動きだったりする。映像は過去の出来事だが現在にも入り込み、現在はシャドーとなって消えてしまったりする。部屋の外では雨が降ったり雲が流れたりしていたが、激しい轟音とともに津波の映像が映されて、時間も空間も瞬く間に交錯し、存在そのものが崩壊したかもしれない。
森羅万象あらゆるものがシャドーのように消えて、遥かに静止画を見晴るかすような視点が提示される。
大いなる鎮魂の想いを残して悲喜劇は幕を下ろした。
パフォーマンスはザビーネ・クッファーベルクとゲイリー・クライスト、映像はジェイソン・アキラ・ソンマ、テキストの朗読はイリ・キリアンとオリヴィエ・クルソフだった。
(2013年9月14日 愛知芸術文化センター 小ホール)

nagoya1310a02.jpg nagoya1310a03.jpg
「East Shadow」羽鳥直志(撮影)
あいちトリエンナーレ2013+キリアンプロダクションズ(主製作)