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星野 聖子 text by Seiko Hoshino 
[2013.03.11]
From Nagoya -名古屋-

市川透振付『Swan Lake』、現実と幻想に挟まれるアンドレイを清水健太が好演

BALLET NEXT公演2013
『Swan Lake』市川透:脚本・演出・振付

『Swan Lake』と聞くと、チャイコフスキーの曲で踊る古典バレエが思い浮かぶ。王子と、白鳥オデット・黒鳥オディールで有名な作品だ。しかし今回注目したいのは、2013年BALLET・NEXT 公演、市川透が脚本・演出・振付を手掛けたまったく新しい『Swan Lake』だ。

nagoya1303b01.jpg 撮影/中川幸作

オデットもオディールも、ジークフリートも出て来ない。音楽、白鳥たちの登場、そして全3幕構成という部分は同様とは言え、従来の『白鳥の湖』とはコンセプトが全然違った作品なのである。芸術監督市川透の斬新な発想に驚いた観客も多いのではないだろうか。
物語は主役アンドレイを中心に、その心の中の葛藤や後悔の念、彼の見る幻想を通して繰り広げられる。作家として執筆に夢中で妻ユリアの病に気付けなかったアンドレイ。ユリアが亡くなったことで心を閉ざし、自責の念に駆られるこの男性を演じたのは清水健太(ロサンゼルス・バレエ、ゲスト・プリンシパル)である。そして、儚い雰囲気を持つ妻ユリアは安藤亜矢子(メゾン・ドゥ・バレエ)が演じた。
この作品の特徴は、アンドレイの現実と幻想が入り混じる部分を上手く舞台で表現しているという点だ。
第1幕は現実の世界で、閉鎖的な心を持つ男性を清水がクールに表現した。弟のマックスが彼のために新しい女性との仲を取り持とうとしても、気持ちが揺さぶられることはない。しかし、そんなアンドレイが娼婦を相手に現実逃避しようとする。硬派に決めた彼が酒と女に溺れるシーンは刺激的で、男性らしい清水と艶やかな娼婦役の板垣優美子から目が離せなかった。

nagoya1303b02.jpg 撮影/中川幸作

物語が進むにつれて、徐々に現実と幻想の境界が曖昧になってくる。アンドレイの幻覚なのか、白鳥の姿をしたユリアとその他の白鳥たちが登場。そして第2幕では彼の心の闇を表す悪魔役の武藤天華と、前幕で娼婦役を演じた板垣優美子扮するブラックスワンが登場し、アンドレイの心をかき乱した。スペイン、ナポリ、チャルダッシュ、マズルカなどの踊りが披露された点は古典バレエ『白鳥の湖』と重なった。しかし、この幕の見せ場であるパ・ド・ドゥはアンドレイとブラックスワンのペアによるもので、市川透のスパイスの効いた一面を楽しむことができた。
第3幕では白鳥ユリアの安藤亜矢子が再度登場。清水健太とパ・ド・ドゥを踊った。二人のやりとりはシンプルだったが、逆にいっそう清楚さと美しさを増した。観ている側の心を穏やかにしてくれるような体の動きだった。これまで苦悩に苛まれていたアンドレイの顔が安らぎ、幸せそうな表情を見せた。
芸術監督市川透による『Swan Lake』は物語そのものが面白く、一種のドラマのようである。出演者たちは皆、高い技術を持ったダンサーであることは間違いない。しかし現時点においては、この作品はバレエのテクニックを見て楽しむというよりは、充実した内容を味わうという感覚に近いと思った。物語の展開方法、登場人物の表現方法、舞台芸術など、至る所に市川透のセンスが光って見える。人物の相関関係は少々難しく、理解するのに少し時間がかかるが、この作品を繰り返し観るたびに新しい発見があると期待できる。再演を待ちたい。次に観るときはもっと味わい深い作品となるだろう。
(2013年2月3日 日本特殊陶業市民会館フォレストホール)

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「Swan Lake」 撮影/中川幸作(すべて)