ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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唐津 絵理 text by Eri Karatsu 
[2012.08.10]
From Nagoya -名古屋-

「即興」をどう「振付」るのか、という鈴村由紀の試み

YKOダンスカンパニー
構成・振付:鈴村由紀『against』

名古屋在住の若手コンテンポラリー・ダンサーの活況ぶりが目立つ今日この頃。先月の太めパフォーマンスに続いて、今月は名古屋を拠点に精力的に活動している鈴村由紀が初のカンパニー公演を行った。
鈴村は「アーツチャレンジ2009」にて、選考委員特別推薦を受け、『next to the_。』を発表するなど、これまでは即興性の強いソロ活動を中心に行ってきたが、近年様々なプロジェトで知り合ったダンサーやアーティストたちと、即興をベースにした時空間を問わない多様なパフォーマンスを模索、この度レジデント・カンパニーとなった七ツ寺共同スタジオにてリハーサルを重ね、ワークインプログレス公演を経て、新作を発表した。

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会場となった七ツ寺共同スタジオは、客席90席ほどのブラックボックス。舞台奥の黒壁には、美術家ニシムラマホの線描画がくっきりと浮かび上がっている。その壁から床に向かって、身体の軌跡が微細に描かれた白い画用紙が連なり、曲がりくねった道が形成されている。ニシムラは、公演が始まると終始ダンサーを俯瞰し、ダンサーの身体の軌跡を瞬時に色紙に描き留めては、次々に床に落としていく。イメージを有機的に繋いでいくこのニシムラの手法は、鈴村の表現世界にとても近いという。ふたりはまるで生き物の形跡を残すかのように、ひとりは線をもうひとりは動きの軌跡を、瞬時に選び取っては自らの媒体に置換し、空に向かって有機的に放つ。
「ソロで現していた世界観を、多人数でどのように表現するか」を追求したい、と語る鈴村のカンパニー作品は、彼女のベースともなっている即興性をどのように他者と共有するのか、あるいはしないのかという点が注目された。「即興」を「振付ける」という一見すると相反することにあえて取り組んでいるようにも見えたからだ。言葉で表現しきれない、鈴村の言うところの「形容詞にもならない」感覚を、身体でどのようにキャッチし表出するのか。振付家とダンサーそれぞれが抱えもつイメージの隙間は、身体のゆらぎそのものでもある。

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個性的な身体をもったダンサーたちの痙攣しヒステリックに歪む身体。カポエイラの身振りを想起させる流麗な動きの軌跡。鈴村の身体を通して生み出させる振付とダンサーの動きから想起されるイメージの差異。鈴村とダンサーたちは、言葉を用いながらのキャッチボールを何度も繰り返すことにより、この差異をクリアしようとしているかのようだ。
言葉で表すことのできない感覚を、言葉と徹底的に対峙した身体(動きを与えるのではなく、言葉を何度も繰り返すことで振付を行っていったという)から紡ぎ出そうとする彼女の試みは、舞踏の創作過程を彷彿とさせたが、舞踏の特徴のひとつである「なる」ことをすり抜けて、刻々と流動し続ける。
本を回し読みしながら歩き回るラストの場面。言葉と声と身体の有り様を描くこのシーンには少々中途半端な印象が残ったが、身体の新しい回路を切り開こうとする果敢な試みは、十分に伝わったし、かなりの部分で成功していると言えるだろう。劇団よこしまブロッコリーのにへいたかひろがライブ操作を担当した音楽や、則武鶴代の照明は、即興性の強いこの作品の構成を柔軟かつ強固なものにするのに貢献していた。
【出演】鈴村由紀 杉町明子 小林美穂 三浦めぐみ 江藤早織 のび ニシムラマホ
(2012年7月15日 七ツ寺共同スタジオ)

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