ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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唐津 絵理 text by Eri Karatsu 
[2012.04.10]
From Osaka -大阪-

虚実のギャップを転換させたコンドルズと男たちの夢を繋ぐ、男肉 du Soleil

コンドルズ『狼たちの午後』は、世田谷パブリックシアターの<こども劇場>シリーズ企画として2010年に初演された。「子どもたちに向けた創造的で質の高い舞台作品」との目的で創作された作品だが、通常の公演でも、老若男女誰もが楽しめるコンドルズのステージ。ダンスにコントやお芝居、生演奏、映像などが次々と登場するお馴染みのスタイルはそのままで、コンドルズ初登場となったびわ湖ホール公演でもその魅力は全開だった。
赤、青、緑と色彩豊かな室内には絵本を読む女性ゲスト(びわ湖ではNHKの名倉由桂キャスター)が登場し、「赤ずきんちゃん」を朗読する。その回りでゆったりとくつろぐ男たち。何とはなしに遊び始めた彼らの動きが、徐々に身の回りにあるカラフルな小道具や奇妙な言葉と関連づけられ、少年ギャングたちのお祭り騒ぎへと発展していく。しかしそれらの行動は、次の展開によりあっさりと裏切られる。期待との落差や時空の捩れといったイマジネーションを呼び起こす奇妙な設定には、年齢の壁を越えて誰もが惹きつけられるのだろう。
『コーラスライン』を模したオーディション場面では、審査員役の小林顕作が客席から舞台に降りて観客を巻き込むことも忘れない。布の壁がおもちゃの豚のトランポリンに変身すると思えば、床に寝たダンサーたちを天井のカメラから写して、組み体操のように人物を立体的に見せる。こうした虚実のギャップを巧みに転換させ、次々とたたみ掛けて展開するコンドルズ作品の本質は、ここでも継承されている。その上、舞台そのものをじっくりと体験させる仕掛けもところどころに散りばめられており、2時間全編を通して舞台芸術の醍醐味を体感させてくれる納得の舞台だ。
しかし作品中盤以降、時折ソワソワとよそ見をし始めた子どもたちが出現、子どもの集中力は1時間が限界かもしれないと、少しだけ残念に感じたのだった。
(2012年3月18日 びわ湖ホール中ホール)

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写真提供/びわ湖ホール
nagoya1204b08.jpg 撮影/吉永美和子

男肉 du Soleil(オニク・ド・ソレイユ)『Kの結婚前夜-ねえ団長、僕は明日結婚するよ。』の京都公演は、100席ほどの客席をもつアートコンプレックス1928が会場。この劇場は12年前にコンドルズでオープニングを飾り、以来、同劇場は毎年定期的にコンドルズと共同制作を行ってきた。今やこのコンドルズ京都公演は、師走の京都の風物詩にまでなっているという。12年を通じてコンドルズはここを関西の本拠地として、着実に観客層を広げてきた。今回のびわ湖公演での満員の客席も、こうした小さな積み重ねのひとつの成果といえるのではないだろうか。

さて、コンドルズより一回り若い<男肉 du Soleil>は、2005年に近畿大学文芸学部芸術学科出身の池浦さだ夢を中心に、身体表現に興味のある男性を集めて結成されたパフォーマンス集団である。ダンスに限らず、ラップや芝居など多様なジャンルを融合させたスタイルで、破天荒なパフォーマンスを繰り広げている。
今回の2時間に亘る長編作品は、結婚を決めたものの未来に不安を抱く男が、2人の恋の行方を覗くべく、未来と現在を行き来するタイムトラベル物語。未来にワープしては、そこでダメな自分や、変わってしまった彼女に幻滅、こんなはずではないと思い悩む。こうしたタイムトラベルを繰り返しているうちに、地球の危機に遭遇、一度は全員死ぬけど、最後はなぜか蘇って地球を救い、彼女と結ばれるというハッピーエンド・ストーリーだ。
ただし、物語はパフォーマンスの口実といった風体で、このカンパニーの本質は、ジーパンに上半身裸の男たちの肉体から汗を飛ばして踊り歌い演じる行為そのものにあるといえるだろう。今回はゲストとして、女性ダンスカンパニーのウミ下着の福井菜月や、ヨーロッパ企画の石田剛太が参加し、超個性的な風貌の男肉の男性陣たちの醸し出すカオス感はさらに増幅していた。

nagoya1204b07.jpg 撮影/吉永美和子

公演中に写真撮影やSNSでの投稿を促したり、福井が中心となって展開されるエネルギッシュなダンスやラップで、観客も作品に参加させたりと、会場は終始熱気に満ち溢れている。観客たちもまた軽食を食べたり写真を撮ったりと、参加することを十二分に楽しんでいた。 
踊りや歌が持つ原初的な表現への本質と、J-POPやアニメ、ゲームのキャラクターなどの今日的アイコン、さらに宇宙への普遍的な真理まで強引に結び付け、祭りのもつ高揚感と同時代性に社会問題までも取り込もうとする。とはいえ、あまりの馬鹿馬鹿しさに呆れているうちに、理屈抜きでダンスをしたくなる、そんな肉体の喜びに満ちた公演だった。

実はこの公演の後、この劇場は<ノンバーバルパフォーマンス『ギア -GEAR-』>をもって、ロングラン体制に入るという。<アートコンプレックス>という劇場名に象徴されるように、ジャンルに固執しないボーダレスな数々の複合的な作品を生み出し、コンドルズや男肉 du Soleilらたくさんのアーティストを陰ながら支えてきたアートコンプレックス1928も、2012年3月でひとつの区切りを迎えた。

公演の最後に、トレードマークのふんどし姿で登場した男肉 du Soleilの団長・池浦さだ夢は、今の思いをラップに込めて歌った。
「本当は俺達、4月も5月も6月も、アーコン(アートコンプレックスの略)使いたいけど、大好きなアーコンが、『ギア』やるっていうから、みんなで応援しよう!」。
(2012年3月18日 アートコンプレックス1928)

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撮影/吉永美和子

コンドルズは、小劇場から今やその何倍もの客席を備えたびわ湖ホールや兵庫県立芸術文化センターで公演を成立させるまでになった。そして男肉 du Soleilもまた、2日間4公演のアートコンプレックス1928公演を満席にすることができるまでに成長した。それはつまり時間をかけて観客層を開拓していったということ。しかしそれでも舞台活動だけで生活していくことができるアーティストは数えるほどだ。
アートコンプレックス1928統括プロデューサーの小原啓渡氏は、アーティストたちが舞台活動で生計が立てられるようになる、その解決策のひとつとして、『ギア -GEAR-』に取り組んでいると語る。そしてロングラン公演が成功のあかつきには、ひとつの劇場を、無制限ロングラン体制による専用劇場化することで、小劇場界の数々の課題のさらなる根本的解決を目指しているという。
日本の舞台芸術システムに挑戦するこのロングラン公演を成立させるためには、コンドルズや男肉が、公演ごとにファンを増やし、客層を広げてきたように、もっともっと舞台芸術の間口を広げ、観客を増やしていくほかない。業界内の固定ファンだけで観客を取り合っていても決して状況は変わらない。舞台に触れたことのない一般の人々をどれだけ劇場に呼び込み、新しい観客を創造していくことができるか。
アーティストだけではなく、劇場やスタッフもまた、時代やその土地の変化に鋭敏に反応しつつ、変革し続ける必要がある。現在の日本の劇場システムに果敢に挑むアートコンプレックス1928の未来についても、今後注目していきたいと感じさせてくれた、二世代の男たちのコンプレックスな舞台であった。
*『ギア -GEAR-』公演情報については http://www.chacott-jp.com/magazine/information/stageinfo3/-gear-.html