ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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唐津 絵理 text by Eri Karatsu 
[2012.03.12]
From Nagoya -名古屋-

映画『エレファントマン』とモーツァルトによる市川透の新作『Innocent Gyey』

登録制バレエカンパニーBallet Nextによる今年の演目は『Innocent Gyey』。「無邪気、純潔」を意味するこのタイトルは、Ballet Nextの芸術監督を務める市川透が振付した新作である。5回目となる今回の公演では、映画『エレファントマン』と数十曲ものモーツァルトの音楽を合わせることで、壮大なバレエドラマを作り上げた。
市川の振付の特徴のひとつは疾走感にある。物語バレエであるにも関わらず、説明的な描写は最低限にとどめられ、アンサンブルやパ・ド・ドゥもより抽象性が高い。今回の作品でも複雑な物語を扱いながらもその路線は引き継がれていた。

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冒頭はモーツァルトの『レクイエム』から始まる。
木のスノコのような板で組まれた舞台美術の上で存在感を示すダンサーたち。彼らは富の象徴でもあり、あるときは運命の象徴でもある。物語とその背後にある運命や心情、音楽の旋律に呼応しながらそれらが交互に組み合わされ物語は進行していく。
幼い頃に発病し、重度の奇形を患ったマリアン・メリックは母を亡くし、見世物小屋で人々の好奇の目にさらされながら生きていくことを決意する。やがて彼女の病を治したいと思う高い志をもつ医師と出会うが、彼は自分の無力さを痛感しながら、マリアンを見取る。
マリアン役には、安藤亜矢子(昼)、中條遥菜(夜)が体当たりで挑み、彼女を最後まで優しく見守った医師トリーヴィス役は、碓氷悠太(昼)、清水健太(夜)が演じた。新国立劇場のダンサーとして活躍していた市川のつくる動きはダイナミックで、男性ダンサーを生かす振付に長けている。碓氷も清水も難しいテクニックがさり気なく組み込まれた振付を難なく踊り、優しくかつたくましい医師を演じて好感がもてた。ただ、奇形役の女性ダンサーが美しすぎて違和感を感じるところも。必ずしも具現化する必要はないが、主役の闇を表現するには衣裳などの工夫で、少しリアリティを出す方がよかったのかもしれない。

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全体に2人の心境を具現化するために抽象的なキャストが配置されている。加藤愛美と武藤天華演じたダークロードや多数の女神たち。オーディションによって選ばれたダンサーたちのアンサンブルは個人差は見られるものの総じて美しく、ダンサーたちの作品に対する心意気も感じられた。
全体的に黒幕や木の板、舞台機構そのものを利用した舞台美術はシンプルながら、ムーヴィングライトなどの多用と相まって効果的だった。ただマリアンがバレリーナに憧れるがゆえのバレエシーンなどは、折角の作品全体の疾走感を押しとどめてしまった感があった。
また2人の出会いの場面では、机の前に座る2人の椅子がしだいに離れていき、彼らの葛藤と運命が自然と視覚化されるなど、言葉を必要としないダンスならではの味わい深い表現を感じる場面も多々見られた。音楽のエネルギーを借りながら、それはなお一層強められていく。たくさんの音楽を使用しているもののモーツァルトに限定されることで、作品の一貫性を強固なものにすることに成功していると言ってよいだろう。しかし音楽に乗った疾走感と意味の重ねづけは、時には舞台上ので飽和状態を招く。シンプルな構成にすることで、よりメッセージが伝わったところもあったのではないだろうか。しかしオーディション制での公演や、未知の作品への意欲的な挑戦は極めて貴重、今後の活動にも期待をしたい。
(2012年2月5日 中京大学市民会館プルニエホール)

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